コロナウイルスの影響で2年ぶりの開催となった夏の甲子園。練習試合が思うように組めず、また感染の影響で大会中にも関わらず星稜や春の王者・東海大相模などが出場辞退に追い込まれた。数々の苦難を乗り越えて出場をつかみ取った代表校が聖地で昨年の3年生の重いも継いで、戦いに挑む。
今大会は地方大会の戦いぶりを見ても絶対的な優勝候補はいない印象である。優勝のチャンスはかなり多くのチームにあり、混戦が予想される。
V候補先頭集団
混戦の中にあって以下の11チームを第1集団に置いた。いずれも甲子園経験豊富なチームであり、優勝に最も近い存在と言えるだろう。
まず、注目は東西の甲子園V経験校と選抜準Vの強豪だ。
浦和学院は、記念大会以外では2013年以来となる甲子園出場。ここ数年はライバルの花咲徳栄の後塵を拝してきたが、ようやく壁を突き破った印象だ。そこに、森監督の最後の年というファクターも絡み、何か躍進を予感させる展開だ。投手陣は2年生の技巧派左腕・宮城と野手兼任の吉田巧の2人が中心。状況に応じて投手を使い分けることができ、連戦への対応も可能だ。
攻撃陣はチーム打率こそ3割7厘だが、準決勝では春日部共栄の好左腕・高橋をセンター中心の打撃で攻略したように底力を秘める。攻撃でもキーマンとなる吉田巧は大会序盤こそ調子が出なかったが、決勝では3安打と復調の気配を見せた。指揮官の最後の夏を飾り、浦学として初の夏制覇に期待がかかる。
大阪桐蔭は春夏連続の甲子園出場。初戦敗退に終わった選抜の雪辱に燃える。府大会では5回戦まではコールド勝ちの連続だったが、準々決勝以降は苦戦が続いた。しかし、攻守に層の厚い陣容で難局を乗り切り、最後は勝ちをものにするあたりに大阪桐蔭の「粘り強さ」が感じられた。
投手陣はエース左腕松浦がエースとして一本立ち。ストレート一辺倒になりがちだった選抜から成長した姿を見せた。本格派右腕の関戸が調子が上がらない中で、竹中や川原ら後続の投手が補い、さすがの層の厚さを見せた。攻撃陣は上位から下位まで穴が少なく、今年は繁永・野間ら俊足の選手も揃う。夏6度目の優勝に向けて、万全の態勢で臨む。
選抜ではあと一歩で栄冠を逃した明豊も当然V候補に挙がってくる。投手陣は選抜では京本・太田の左右本格派とサイド右腕・財原が中心だったが、大分県大会でが京本と財原の2人が中心に、特に京本は長身から繰り出す落ちるボールを武器に決勝では3安打完封勝利を飾った。甲子園でも彼が中心となりそうだ。
攻撃陣は選抜では日替わりで打順を変えたように、相手によって組み換えが可能だ。春は4番を務めたスラッガー黒木を2番に置く攻撃型オーダーで序盤から先手を奪う。準々決勝で3ホームランが飛び出したように長打力もあり、相手にとっては実に嫌な打線だ。選抜で誇った堅守も健在であり、投攻守に穴がない。あとはマークされる存在となった中で勝ち上がれるかどうか。大分の新しい強豪が津久見以来となる全国制覇を狙う。
今年ほど期待の本格派右腕が予選で散った大会も珍しいだろう。中京大中京・畔柳、天理・達、市立和歌山・小園、高知・森木と同地区に強力なライバルがいる中で勝ち上がってきた強豪4校もまた怖い存在と言える。
愛工大名電は私学4強の残り3校をすべて自らの力で倒し、力強く代表の座をつかみ取った。投手陣はともに140キロ台の速球を持つ田村・寺嶋の左右2枚看板が中心。決勝戦こそ5失点したが、そのほかの試合は強豪との対戦が続いたにも関わらずすべて3点以内でしのいだ。失策数も少なく、ディフェンスは安定している。
攻撃陣は一時期の犠打を多用するスタイルとは変わったが、嫌らしく打ってつなぐスタイルで好投手を突き崩した。特に準決勝では中京大中京の畔柳を逆方向への打撃で攻略。序盤から球数を投げさせてスタミナ切れを誘った。選抜では無類の強さを誇りながらも夏はなかなか結果を残せていないが、今年はかなり期待できそうだ。
剛腕・達を擁するライバル天理が高田商の前に散った中で、智辯学園は攻守に安定した戦いぶりで代表切符を手にした。1年生時から経験豊富な左腕・西村と右腕・小畠はそれぞれキレと角度のあるストレートを武器とし、タイプの違う好投手だ。西村は腰痛の影響も癒えたか、高めのストレートに威力が戻ってきた。小畠は手元で動くツーシームを武器に決勝の高田商戦でもきっちり試合を作った。
一方、選抜では準々決勝で明豊をとらえきれずに敗れた打線はつなぐ意識を徹底して奈良大会を勝ちきった。1番にスラッガー前川を置くと、6割越えの打率でチャンスメーク。上位から下位までずらりと並んだ好打者が、つなぐ意識で相手投手陣を攻略した。西村、小畠、前川と下級生からチームを支えた選手が最終学年を迎え、集大成の夏に初めてとなる夏の優勝を目指す。
剛腕・小園攻略が至上命題だった智辯和歌山は決勝で看板の打線が結果を残し、優勝を勝ち取った。和歌山大会では準々決勝の初芝橋本戦で苦戦を強いられたが、かえって接戦の中で打線が研ぎ澄まされていった印象だ。スラッガー徳丸や主将の宮坂が中心だが、脇を固める大仲、角井、岡西が成長を見せ、決勝では大仲が小園から決勝打を放った。
また、何より大きかったのは投手陣の成長だろう。エース中西は140キロ台後半をマークする速球とカーブを武器に要所で三振を奪えば、右サイドの伊藤や左腕・高橋もきっちり試合を作った。3連敗を喫したライバルを破った勢いで3度目の夏制覇に挑む。
中学時代から鳴り物入りで入学した高知・森木を倒した明徳義塾ももちろん怖い存在だ。選抜では仙台育英投手陣の速球に力負けしてしまったが、夏はさすがの仕上がりを見せてきた。1番主将の米崎を中心に相手の四死球やミスを逃さない攻撃でそつなく得点を重ねていく。8,9番が打率4割を超すように、下位まで穴がない。
投手陣はエース左腕の代木が中心。準決勝こそ8失点と乱れたが、決勝では意地の完投勝利をつかんだ。細身の体ながらストレートは抜群のキレを誇り、攻略は容易ではない。守備陣も安定しており、明徳らしい「勝つ確率の高い野球」で頂点を目指す。
そのほか、選抜に続いての出場となる以下の3校も上位に位置する。
選抜では中京大中京に惜敗した専大松戸だったが、春の関東大会では強豪を次々に破って初優勝を達成。勢いそのままに激戦の千葉大会を制した。右サイドながら投球内容は本格派そのもののエース深沢は投球回数以上の三振を奪い、四死球も1試合平均で2個あまりとコントロールも抜群。決勝戦こそ打ち込まれたものの、疲れのない状態ならば攻略は容易ではない。
選抜で中京大中京・畔柳に完封された打線は、決勝でサヨナラ満塁弾を放った1番吉岡が出塁し、中軸が返すのがパターン。勝負どころではきっちりランナーを犠打で進めるなど、手堅さと力強さを兼ね備える。まだ全国での勝利こそないものの、1回戦を勝ち抜ければ一気に走る可能性を秘める。
名将・鍛治舎監督が指揮する県岐阜商も虎視眈々と頂点を狙う。前年の交流試合から経験豊富な面々が揃っており、高い総合力を誇る。投手陣は野崎、松野ら前年からのメンバーに加え、右腕・小西も成長著しく層が厚い。左右5人の投手陣で連戦を勝ち抜く構えだ。
打線は選抜で市立和歌山・小園に完封された打線は、チーム打率こそ高くないものの、4番主将の高木を中心につながりが良い。高木は3本のホームランを放っており、ポイントゲッターとしての役割に期待がかかる、春夏4度の全国制覇を経験している県下屈指の伝統校が5度目の栄冠を狙う。
強力投手陣を擁する広島新庄もV争いに堂々と加わる。長身右腕・花田と昨年から経験豊富な左腕・秋山を擁する投手陣は、さらに左腕・西井も台頭して全くスキがなくなった。左右3人の好投手を擁する陣容は全国でも間違いなくトップクラスだろう。あとは準決勝のように立ち上がりの失点をケアしたい。
一方、攻撃陣は広島代表らしく機動力豊かな攻めで相手守備陣を崩していく。選抜では智辯学園の小畠を打ち崩せずに敗れたが、春から夏にかけて前提的にパワーアップ。4回戦では3者連続のホームランが飛び出すなど、嫌らしさに力強さが加わった。前年秋の試合を無敗で消化した、「負けないチーム」が頂点を狙う。
二番手集団
ここまでが大一集団だが、二番手の集団もほとんど差がなく続く。まずは甲子園経験豊富な関東の5チームが続く。
選抜8強の東海大菅生は西東京大会を安定した内容で勝ち抜いた。投打ともに充実した陣容であり、菅生史上最強の呼び声もある。本田・桜井の両左腕が支える投手陣は失点が計算でき、堀町・千田ら上位打線は一発も期待できる。選抜では中京大中京に力負けしたが、パワーアップして迎える夏はかなり期待できそうだ。2017年の4強を超す成績を狙う。
帝京・関東一とライバル校を連破した二松学舎大付はすっかり全国常連になった印象だ。決勝では関東No.1とも言われた関東一のエース市川を攻略したように打線は相変わらず、力強さを秘める。エース左腕秋山はクロスファイヤーを武器に攻めの投球を見せ、2番手には制球力抜群の布施も控える。夏はベスト16が最高成績であり、まずは8強入りを狙う。
10年連続出場の金字塔を打ち立てた作新学院も夏本番でさすがの仕上がりを見せてきた。林、佐藤の右の2枚看板はともに安定感があり、栃木大会ではすべての試合を2点以内に抑え込んだ。攻撃陣は作新学院らしい攻めの作戦で、今年も犠打はほとんどつかわずにヒッティングでチャンスを拡大する。全国制覇した2016年のように勝ち上がりながらさらに力をつけていきたい。
守りの野球が持ち味の前橋育英も連続出場を勝ち取った。健大高崎と県内2強との評判だったが、ここ5年で一気に引き離した印象だ。抜群のコントロールとキレを誇るエース外丸は前橋育英の守りの野球の象徴。6試合で1失策と堅守も健在だ。打撃陣は派手さはないが、チャンスで4番皆川に回すスタイルで得点を重ねていった。攻撃陣次第で2013年以来のVも見えてくる。
選抜優勝の東海大相模がコロナ感染で辞退する中で、横浜がこの機を逃すまいと覇権を奪い返した。指揮官が村田監督に代わり、以前の細かい横浜の野球が帰ってきた印象がある。7試合で100安打を放ったように、下級生が多い中でも破壊力は際立つ。投手陣はエース左腕の金井の調子が今一つだったが、杉山、宮田ら計6人の投手陣でしのぎ切った。投打にタレントは揃っており、名門復活に向けて大事な夏の戦いとなる。
北信越に目を向けると、敦賀気比の充実ぶりが際立つ。大島、前川と1年生から主軸を務める強打者を中心とした打線は全国でもトップクラスであり、敦賀気比らしい集中打は今年も健在だ。投手陣は選抜で出番のなかった右腕・吉崎が台頭し、中心的役割を担った。野手兼任の本田が決勝で完封するなど、こちらも層の厚さには定評がある。最少失点で投手陣がしのいで打線が援護する展開を作れれば、夏は初めてとなる優勝も見えてくるだろう。
また、近畿の春夏連続出所の2校も高い地力を持つ。
神戸国際大付は2017年以来となる春夏連続出場を達成した。もともと個人個人の能力は高いものがあったが、今年はさらにスキのなさも染みついてきた感がある。選抜ではエース阪上の故障もあって、どこかチームが落ち着かない雰囲気があったが、夏は左腕楠本と復調した阪上の2枚看板を強力打線が支えて盤石の戦いを見せた。明石商や報徳学園といった常連校とがっぷり四つで組み合って寄り切った自信を胸に頂点を目指す。
京都国際は選抜に続く初出場。下級生がチームの中心だが、成長著しく伸びしろが大きいチームだ。エース左腕の森下はキレのある速球とチェンジアップを武器に、好調時は手が付けられないほどの投手に成長。右腕・平野の調子が上がらなかったが、それを補って余りある投球を見せた。打線も府大会決勝で3点ビハインドを4番中川の3ランなどで腰を据えて跳ね返したように、つながりと破壊力を秘めている。V戦線に顔を出す実力は十分ある。
九州に目を転ずると樟南・沖縄尚学の常連2校が不気味な存在。
樟南は県大会決勝でライバルの鹿実を圧倒して2016年以来の出場を決めた。エース左腕・西田は鹿児島大会をほぼ一人で投げ抜き、防御率は1点をマーク。145キロを記録するストレートと多彩な変化球で相手に得点を与えない。守備も例年通り堅実であり、樟南の守りの野球を体現する。攻撃陣もチーム打率3割6分台と上位打線を活発であり、樟南らしい手堅い野球で1点1点を刻んでいく。まずは2005年以来となる8強入りを狙う。
沖縄尚学は安定した投手陣を武器に、危なげなく沖縄大会を勝ち上がった。エース左腕の當山は沖縄大会4試合に登板してなんと失点は0。ストレートは見た目以上に伸びがあり、スライダーとのコンビネーションは対戦相手にとってはかなり厄介だ。右の美里は3回戦で無安打無得点を達成するなど、投手陣に不安はない。打線は基本に忠実なセンター返しが光り、3番仲宗根は打率6割をマークして得点源となった。
選抜で2度優勝経験があるが、夏は8強が最高成績。興南以来となる夏の沖縄勢の優勝に向けて士気は高い。
好投手擁す
地方大会で多くの注目投手が姿を消したが、それでも今大会は好投手を擁するチームは多い。
選抜では開幕戦でサヨナラ負けを喫した北海は夏の舞台で雪辱を期す。プロ注目のエース左腕木村は150キロに迫る速球とスライダーを武器にイニング数をはるかに上回る三振を奪った。北海道大会では疲れの出た終盤に失点したが、本調子ならそうは打ち崩されないだろう。課題とされていた打線もチーム打率は4割を超し、選抜以降の成長がうかがえる。4番宮下は5割を超す打率でチームを牽引した。
奇しくも春と同じ神戸国際大付との対戦となり、ナイン全員がリベンジに燃える。
明桜のエース風間は今大会最注目の速球派右腕だ。最速157キロを誇る速球はキレも角度も十分であり、初見でとらえるのはかなり難しい。加えて変化球の精度も高く、難攻不落の剛腕だ。2018年の金足農・吉田(日本ハム)の快進撃の再現も十分あり得るだろう。打線はチーム打率こそ高くないものの、小技・機動力に優れており、得点力は低くない。エースを支えるためにも先制点を取って試合を優位に進めたいところだ。
日本航空は春の関東大会で選抜優勝の東海大相模を破り、一段と自信をつけた。特に強力打線を3点に抑えた左腕・ヴァルデナは188㎝の長身から繰り出す角度のあるボールが光り、本大会でも好投が期待できる。打線は6番和田が4ホームランを放つなど長打力を秘めており、上位から下位まで穴がない。ここ数年、東海大甲府と山梨学院に代表の座を独占されてきた日本航空が存在感を見せつけられるか。
静岡は長身右腕・高須が県大会37イニングを無失点で乗り切る快投を演じた。192㎝の長身から繰り出す角度のあるボールを武器に三振と内野ゴロの山を築き、ライバル校を寄せ付けなかった。ストレートの最速も146キロをマークしており、今大会屈指の好投手だ。打線も1番渋谷、4番池田を中心に高打率の打者が並んでおり、機動力も豊か。攻撃陣の援護次第で伝統校・静岡の上位進出も十分あり得るだろう。
倉敷商は昨年の交流試合で仙台育英の強力打線を封じ込めた左腕・永野が健在。左スリークオーターから繰り出すボールは伸びがあり、好調時は手が付けられない。波が激しいのが課題だが、本番までにうまく調整できれば面白い存在だ。打線は2年生がスタメンに多く並ぶ若い打線だが、そのぶん勢いがあり、準決勝・決勝と連続でサヨナラ勝ちを収めた。まずは前回出場時に並ぶベスト8を目指したい。
石見智翠館のエース山崎琢は県大会決勝で無安打無得点試合を達成。県大会を通じても無失点で投げ切り、安定感が際立つ。抜群のコントロールを武器とし、三進も奪える好投手だ。打線は大会序盤こそ苦しんだものの、準々決勝からの3試合は平均9得点と爆発。ランナーが出れば手堅く進めるのが持ち味であり、山崎拓の投球も含めてとにかくリズムのいいチームだ。4強入りした2003年に並ぶ快進撃を見せられるか。
高川学園のエース左腕・河野は県大会を一人で投げ抜いて代表の座をつかみ取った。ヤクルト入りした先輩左腕の山野に勝るとも劣らない実力の持ち主であり、抜群のコントロールを武器に試合を作る。チーム打率3割8分7厘と打線も当たっており、山口大会で危うい場面はほとんど見当たらなかった。前回出場時は寺島(ヤクルト)擁するV候補の履正社に初戦で敗れたが、今回は同等以上の戦いを見せられそうだ。
阿南光は新野から校名を変更した後、初めての甲子園出場をつかんだ。新野、徳島商で何度も全国の舞台を踏んだ名将・中山監督のもとで鍛え上げられたチーム力は侮れないものがある。特に2年生左腕の森山は打者のインサイドを左右問わずにつくことができ、カットボールも駆使して打者を詰まらせる。打線も派手さはないものの、パンチ力のある打者がそろっている。新野時代には横浜や明徳義塾を相手に逆転劇を演じており、今大会も躍進が期待される。
西日本短大付は激戦の福岡大会を勝ち抜いて11年ぶりの出場を果たした。エース大嶋は好不調の波が激しいのが欠点だが、決勝では3安打完封勝利を飾るなど、はまった時の投球は素晴らしい。最速144キロの速球を武器に強気の投球でチームを引っ張る。打線もチーム最多だ点の3番林直や4番三宅などタレントが揃っており、個々の能力値は高い。投手戦も打撃戦も制した試合巧者が1992年以来の全国制覇を狙う。
強力打線掲げる
一方、夏の大会らしく強力打線で勝負をかけるチームも多い。
帯広農は昨年の交流試合で関東王者の健大高崎を撃破。その試合を経験した面々がさらに力をつけ、圧倒的な打力で北北海道大会を制した。全6試合で2桁安打を放った打線はチーム打率4割をはるかに超え、上位から下位まで切れ目がない。特に一度つながりだすと止まらない集中打は相手にとって脅威的だ。2年生右腕・佐藤大を中心とした投手陣が踏ん張れば、面白い存在となりそうだ。
弘前学院聖愛は青森山田、八戸学院光星と常連校2校を倒して堂々の出場。選手全員が青森出身であり、改めて青森県全体のレベルアップを感じさせた。5試合で7ホームランを放ち、しかもスタメンで6人が放っているところに強豪校に打ち負けないパワーを感じさせる。葛西、斎藤禅の右腕二人も安定しており、打撃戦で競り合えればどこが相手でも好勝負を演じそうだ。
盛岡大付はここ数年はライバル花巻東の後塵を拝していたが、今回は決勝で直接対決を制して4年ぶりの代表切符をつかんだ。特に青森大会5試合すべてでホームランを放った3番金子の打球は圧巻。2017年の植田拓を彷彿とさせるパンチ力でチームを引っ張る。投手陣はコントロールの良いエース渡辺が安定しており、打線の援護も期待できるので、最少失点で切り抜ければ勝機は十分に見える。
また、北信越の常連組3校も高い攻撃力を持つ。
日本文理は2019年に続く出場。伝統の強力打線は今年も健在だ。チーム打率は3割3分2厘を記録したが、数字以上の破壊力を秘めており、長打が全体の4割を占める。5割近い打率をマークした1番土野を中心に迷いなく振り抜くスタイルで全試合5点以上を挙げた。また、投手陣も速球派右腕の2年生田中を中心にストレートに力のある投手が揃っている。2009年、2014年に続く快進撃なるか注目だ。
松商学園は実に37回目となる選手権出場。チーム打率は4割を超しており、特に選抜出所の上田西との準々決勝では、好左腕・山口を5番熊谷の2打席連続ホームランなどでコールドで倒し、圧倒的な破壊力を見せた。エース左腕の栗原は2年生ながらストレートの最速は140キロを超えており、イニング数以上の三振を奪った。県下屈指の伝統校が久々の上位進出を狙う。
高岡商は4大会連続の甲子園出場。2018年、2019年と2年連続でベスト16に進んでおり、看板の攻撃力は今年も定評がある。その2大会ではともに優勝した大阪桐蔭、履正社に敗れており、今県内で全国レベルを最も体感しているチームだ。特に2019年の甲子園を1年生で経験した1番石黒は3本のホームランを放ってチームを引っ張った。多彩な変化球の光るエース川淵の踏ん張り次第で初のベスト8進出を見えてきそうだ。
三重はなんとチーム打率が5割を超す打線を引っ提げて準優勝した2014年以来の出場となる。初戦では控え選手中心のスタメンながら13本のホームランが飛び出すなど、ベンチ入り選手まで長打力を秘める打線は監督にとっても心強いだろう。三重高校らしいつながりのある攻撃が今年も見られるか。投手陣は強気の2年生右腕・上山が軸となる。投手の踏ん張り次第で7年前に続く快進撃もあり得る。
米子東は決勝戦で9回に同点3ランが飛び出す劇的な試合を制し、サヨナラで代表の座をつかんだ。チーム打率は4割を大きく上回っており、打ち負けない自信を持つ。2019年は春夏連続出場しながら、選抜は神宮王者の札幌大谷、夏は智辯和歌山にそれぞれ1点しか奪えずに敗れたが、今年のチームは台頭に打ち合えそうだ。怪我明けの右腕・船木佑が調子を取り戻せるかどうかがカギとなる。
熊本工も伝統の強力打線を引っ提げて選手権に臨む。長打の数こそ多くないものの、センター中心に返す打撃でヒットを量産し、相手投手陣を苦しめた。9番の吉永が打率5割を超すように、上位から下位まで全く穴がないのが特徴だ。エース吉永は多彩な変化球を駆使する技巧派右腕。コントロールが安定しており、自ら崩れることは少ないのが安心材料だ。打たれても最少失点でしのぐ打たれ強さもあり、彼の踏ん張り次第で上位進出も十分可能だ。
ダークホース
また、そのほかのチームも上位戦線に顔を出す可能性は十二分にある。
日大山形は東海大山形との伝統校対決を制し、4年ぶりの出場を果たした。3番佐藤、4番伊藤、5番榎本、6番梅津が打線の中心で、4人でチームの打点の7割以上をたたき出した。1番秋葉、2番新田はともに駿族が光り、彼らの出塁が得点力を左右する。投手陣は決勝戦こそ打ち込まれたが、それまでの試合はすべて2点以内に抑え込んだ。エース斎藤を中心とした4人の投手陣を荒木監督がどう起用していくか注目だ。
聖光学院の連続出場がついに止まった今年の福島県。決勝でその聖光学院を倒した光南の好左腕・星を攻略し、日大東北が久々の出場を決めた。投打に派手さはないものの、粘り強さが持ち味で、決勝は3点のビハインドを粘って追いつき、サヨナラ勝ちを収めた。吉田、馬場央の2枚看板が軸の投手陣も際立ったボールはなくとも安定して試合を作ってくれる。永年チームを指揮した宗像監督の最後の年を飾りたいところだ。
小松大谷は2014年のあの8点差大逆転負けの悲劇を乗り越えて、北陸大谷時代以来36年ぶりの出場を決めた。投手陣は北方、吉田佑の2枚看板が安定しており、失点は計算できる。捕手・東出を中心にディフェンス力も高く、相手の機動力を封じることができる。星稜や遊学館、中沢ら強豪に立ち向かうべく鍛えた打力も全国レベルであり、特に1番僧野、4番奥野を中心とした上位打線は強力だ。やっとの思いでつかんだ全国の舞台を簡単に終わらせる気はないだろう。
近江はノーシードながら安定した戦いで滋賀大会を制し、3大会連続の全国切符をつかみ取った。投手陣はともに140キロ台後半の速球を持つエース岩佐と2年生山田が中心。2人とも失点はわずか1であり、甲子園でも快投が期待できる。打線も全試合で6点以上をたたき出したように、破壊力は例年に引けを取らない。打率5割をマークした1番井口の出塁がカギになるだろう。経験豊富な多賀監督のタクトにも注目だ。
新田は県大会決勝で聖カタリナの好投手・桜井を滅多打ちし、夏は初めてとなる甲子園出場を果たした。県大会では序盤から、今治西・北条と強豪との対戦が続いたが、この序盤の接戦を勝ち切ったことがチーム力を高めた。中心となるのはエースで4番で主将、そして捕手も務める古和田だ。野球脳が非常に高く、投打にポテンシャルの高い選手であり、彼の活躍がナインにもいい意味で刺激を与えている。1990年選抜の「ミラクル新田」の再現を狙う。
長崎商は県大会決勝で昨秋の九州王者の大崎を下しての出場。ディフェンス中心の野球に定評があり、西口監督の我慢強い指導で粘って強豪に僅差で嫌いつくチームに仕上がった。長身右腕の城戸とサイド右腕の田村のタイプの違う2投手を擁する投手陣は失点が計算でき、県大会で無失策の守備陣が盛り立てる。やや非力とみられる打線が、チャンスをきっちり活かせれば勝機は十分見えてくる。
宮崎商は選抜に続いての全国大会出場。選抜では天理の剛腕・達に力負けしてしまったが、この夏は下位打線で作ったチャンスを1,2番が返す攻撃で層の厚い攻撃陣となった。不調に苦しむ3番中村、5番西原が調子を取り戻せば手が付けられなくなる。エース日高は重いストレートとスライダーが武器。2年生右腕・長友の成長でさらに厚みが増した。選抜では成しえなかった初戦突破をまずは目指していく。
旋風なるか
春夏通じて初出場を決めた3校も実力は全国レベル。旋風を巻き起こす可能性は十分だ。
絶対王者・仙台育英が敗れた、本命不在の宮城大会を制したのは、春夏通じて初出場の東北学院であった。県大会決勝で1イニング8点をたたき出したように集中打の出る打線が持ち味。チャンスに強い3番及川、高打率の5番大洞の前にランナーをためれば得点の可能性はより高くなる。エース伊東は長身からの角度ある速球が持ち味。打線でも4番を務め、文字通りチームの中心だ。東北、仙台育英の2強以外のチームがどこまで結果を残せるか注目したい。
鹿島学園は選抜出場の常総学院に競り勝って、堂々の初出場。サッカーでは全国常連だったが、ついに野球部も全国切符を手にした。エースの薮野は多彩な変化球を駆使する技巧派右腕で、決勝では常総学院の強力打線を相手に初回に奪った3点のリードを守り切った。攻撃陣も、名将・鈴木監督の指導の下で多彩な攻撃を仕掛けることができ、一気に試合の流れを奪うことができる。茨城県らしいリズムとスピード感のある野球で全国の舞台に挑戦状をたたきつける。
東明館はここ数年県大会上位をにぎわせていたが、今年ついに初めての出場権を手にした。2年生エース今村はテンポよく打たせて取る投球で、県大会の防御率は1点台をマークした。全国の舞台でも自分の投球スタイルで勝負していきたい。打線はチーム打率は2割台だが、相手のミスや四死球を得点に絡めるのが非常にうまく、得点力は高い。佐賀代表は前評判が高くなくとも勝ち上がることが多く、初出場の東明館にもミラクルを期待したい。
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