2022年選抜1回戦
国学院久我山vs有田工
54% 46%
東京大会を粘りの野球で制した国学院久我山と好投手を擁する有田工の対戦。打力では久我山、投手力では有田工だが、総合力でやや久我山が有利か。
有田工のエース塚本は九州大会で2試合連続完封を達成。相手の狙い球を外す頭脳的な投球が光り、捕手・上原との相性も抜群だ。内外野も非常に鍛えられていて、打球方向を読んだポジショニングで鋭い打球もつかみ取っていく。2007年に全国制覇を果たした佐賀北のように守りでリズムを作る野球で勝利をつかみ取りたい。
対する国学院久我山打線は、東京都大会で日替わりヒーローが飛び出したように、上位から下位までしぶとい打者が並ぶのが強み。昨夏からの経験者である1番齋藤、3番上田、5番下川邊を打順一つ飛ばしで並べ、つながりのある打線を形成している。東京都大会では決勝で逆転サヨナラ勝ちを収めており、昨年の東海大菅生のような粘り強さがありそうだ。
一方、東海大菅生の投手陣の軸になるのは左腕・渡邉。準決勝では強打の日大三を3失点でまとめたように、手元で動くボールを武器に打たせて取るのが持ち味だ。東京大会でも大きく崩れた試合は一つもなく、気が付けば渡邉のペースで試合が進んでいた。右腕・成田、左腕・松本慎も控えており、投手層にも不安はない。
対する有田工打線は大量点を奪うことは少ないが、ワンチャンスをきっちりものにする勝負強さが光る。投手ながら1番を務める塚本は野球センス抜群であり、一つ先の塁を狙う意識が高い。4番には新2年生のパワーヒッター角田が座っており、ランナーを置いて彼の長打に期待したい。渡邉の変化球を打たされないように、しっかり振り切るスイングができるか。
有田工としては九州大会の戦いと同様に、先手を取って塚本が守り切る展開に持ち込みたい。終盤まで接戦で進むと、打線に破壊力のある久我山に分がありそうだ。
主なOB
国学院久我山…井口資仁(ロッテ)、森笠繁(広島)、河内貴哉(広島)、矢野謙次(日本ハム)、松田進(ロッテ)
有田工…古川侑利(日本ハム)、白竜(俳優)
東京 佐賀
春 2勝 1勝
夏 1勝 2勝
計 3勝 3勝
対戦成績は春は東京勢が、夏は佐賀勢がリード。
2007年の選抜では帝京と小城が対戦。帝京の大型右腕・大田(DeNA)が持ち味の剛速球を武器に小城打線から歴代2位となる1試合20三振を記録し、9-1と大勝。前年夏から大きく成長した姿を見せた。
一方、2001年夏は神崎と城東の公立校対決が実現。神崎のエース左腕・黒田は百崎監督の助言で自分の投球フォームを取りもどして、夏には復調。城東打線を2失点で完投し、選抜では成しえなかった甲子園1勝を手にした。
今回はどちらに軍配が上がるか。
思い出名勝負
2007年夏準々決勝
帝京
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 計 |
0 | 1 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 |
1 | 1 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1× | 4 |
佐賀北
帝京 高島→垣ケ原
佐賀北 馬場→久保
2007年の準々決勝第1試合は対照的なチーム同士の顔合わせとなった。
帝京は前年夏が8強、今春の選抜が4強と確実に実績を積み重ね、この夏は満を持して優勝を狙っていた。全国的にV候補筆頭だった、中田翔(巨人)擁する大阪桐蔭が予選で敗退しただけになおさらそうだっただろう。エース大田(DeNA)の調子が戻らないのは気がかりであったが、左腕・垣ケ原と2年生右腕・高島(中日)の2人が踏ん張り、東東京を連覇して甲子園に戻ってきた。
本戦では本間、上原、杉谷拳(日本ハム)の上位打線が機動力でかき回し、4番中村晃(ソフトバンク)が返すパターンで得点を量産。下位にも鎌田、長田、杉谷翔と強打者が並び、相手投手にとっては行き着く間もない攻撃であった。駒大岩見沢、神村学園と危なげなく下すと、3回戦では春の近畿王者の智辯学園も6-0と投打に圧倒。大田がいない中でエースとして一本立ちした左腕・垣ケ原が7安打で完封し、ベスト8進出を決めた。
対する佐賀北は7年ぶり2度目の選手権出場。神崎高校を率いて2001年に春夏連続出場の経験がある百崎監督を招き、地道に強化を図ってきた、どこにでもありそうな公立校である。しかし、この年の代は小柄ながらセンスのある選手が揃い、勝負をかけた百崎監督は6月の期間を思い切って体力強化練習に当てる強化を図った。これが結果的に下半身の強化につながり、投打にしぶい野球を見せて久々の甲子園出場を果たした。
甲子園では予選から継続していた左腕・馬場から右腕・久保への継投がピタリとはまり快進撃を見せる。福井商との開幕戦を2-0と完封で勝利すると、2回戦では中井大介(DeNA)がエースの宇治山田商と延長15回引き分け再試合の激闘を演じて見せた。試合終盤になっても落ちない体力やセンター馬場崎のダイビングキャッチをはじめとした好守を見て、観衆も「普通のチームではないぞ」とその存在に注目し始めていた。
引き分け再試合を9-1と大差で下すと、3回戦では前橋商とのナイトゲームを5-2で制してベスト8へ進出。この試合でも8番馬場のセンターへの当たりを相手が後逸する間に同点のランニング2ランホームランが飛び出しており、「甲子園の風」が確実に佐賀北に吹き始めていることを感じさせた。
ここまでV候補本命で大勝続きの帝京と、あれよあれよという間に勝ち進んできた佐賀北。個々の能力ではだれがどう見ても帝京が上であったが、優勝が至上命題のチームと、「もうここまで来ればどこで負けても称賛される」という無印の快進撃の最中のチームでは、かかる圧力は全く違うものだっただろう。
帝京はローテーション通りに、2回戦で先発した2年生右腕・高島をマウンドに送る。しかし、その2回戦の神村学園戦でも初回に先制2ランを浴びている右腕は、この日も立ち上がりからピリッとしない。1回裏、2番井出にヒットを許すと、2アウト後、ここまで14打数3安打と当たっていない4番市丸にライトオーバーの3塁打を浴びて1点を失う。乗せてはいけない相手捕手に打たれた一打でもあった。
帝京も2回表に7番杉谷翔のタイムリーですぐに追いつくが、安定しない高島はその直後に四死球などで満塁のピンチを招く。ここで巧打の2番井出にタイムリーを許して佐賀北が勝ち越し。外野の好返球で3点目は阻止したが、前田監督はこの回で高島をあきらめる。
3回から帝京はエース垣ケ原をマウンドへ。しかし、流れを引き戻すはずの継投も、3番副島の一振りでその意図を打ち砕かれる。初戦でホームランを放った男は、真ん中高めの速球を迷いなく振り抜き、打球はレフトスタンドに弾んで佐賀北が3点目。V候補を相手にここまで押せ押せの展開である。
ところが、4回に入って佐賀北に思わぬミスが出る。先頭の中村晃が2塁打で出塁し、モーションの大きい左腕・馬場を見て三盗を仕掛ける。捕手・市丸が好送球し、タイミングは完全にアウトだったが、これをサード副島がタッチしきれない。エアポケットに入ったようなこのミスを東の横綱が逃すはずもなく、6番長田がタイムリー2塁打して、試合は振り出しに戻った。
とはいえ、佐賀北にしてみれば、5回まで先発・馬場が持って3-3の同点。試合前のプランとしては、想定通りかそれ以上だっただろう。6回からは満を持してエース久保を投入。相変わらず、アウトコースへの絶品のコントロールを見せ、帝京打線のようにランナーを出されながらも要所を抑えていく。
試合は互いの好守が飛び交う展開に。8回裏に帝京は8番久保の打球をショート杉谷拳、セカンド上原の完ぺきな「アライバ」プレーで併殺に切って取れば、佐賀北は9回表に2アウト2塁から久保がヒットを許すも、ライト江頭の好返球でホームタッチアウトを奪う。ともに鍛え上げられた守りを存分に見せつけ、試合は延長戦に突入する。
こうなると、試合前に優勢が予想されていた帝京の方がやや戦いづらかったか。延長に入って再三得点圏にランナーを出すも、延長10回、延長12回とランナー3塁からスクイズを失敗。佐賀北・久保のグラブトスも見事だったが、早く一歩前に出たい前田監督の焦りが感じられた攻撃であった。
球場のムードも徐々に佐賀北により始め、延長13回表にはセンター馬場崎が2回戦に続くダイビングキャッチを見せて、観衆を沸かせる。帝京のアルプス以外の全員が佐賀北を後押しし始めていた。
決着はその裏に訪れた。佐賀北は簡単に2アウトを奪われるが、先ほどファインプレーの9番馬場崎、1番辻がともにコンパクトな打撃でヒットを連ねる。リリーフ登板とはいえ、垣ケ原の球数は160球に達してきていた。つづく2番井出は真ん中やや甘めに入った速球を基本に忠実にセンターに返す。センター本間の懸命のバックホームも及ばずに、馬場崎が生還。佐賀北が劇的なサヨナラ勝ちで帝京を下し、ベスト4進出を決めた。
これでさらに勢いを増した佐賀北は準決勝では練習試合で敗れていた長崎日大に3-0と完封勝ちして決勝に進出。そして、決勝では広陵の鋭い打球を内野が再三の好守でつかみ取り、8回裏の副島のグランドスラムで奇跡的な優勝をつかみ取った。決勝の逆転勝ちがあまりに印象的であったが、選手たちが大きな壁を超えて自信をつけたのが、この帝京戦だったことは間違いないだろう。
一方、帝京としては勝つチャンスが何度もありながら、最後は佐賀北の堅守の牙城を崩しきれなかった。平成初期に7年間で3度の全国制覇を果たした帝京だったが、その後はなかなか栄冠に手が届かなかった。この年の戦力は申し分なかったが、それだけでは勝てないのが高校野球。おそらく優勝した3大会以外で、最も優勝する確率が高いチームだったが、「がばい旋風」の前に涙を飲んだ。
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