絶対王者を止めたバイオレット軍団
1997年の選抜は近畿勢がベスト8に5校、ベスト4に3校残り、強さの際立った大会であった。そんな大会の準決勝第2試合で上宮と天理という近畿を代表する強豪2校が激突した。
上宮は前年秋から練習試合も含めて負けなしの44連勝で勝ち進み、渡辺(ロッテ)、三木(近鉄)、多井の上位打線と山田(巨人)、建山の右の2枚看板で盤石を様相を呈していた。
1,2回戦は多井の2試合連続ホームランなどで快勝し、準々決勝では育英に9回3点ビハインドを追いついてのサヨナラ勝ち。死闘を制して、4年ぶり2度目の優勝に向けムードは最高潮だった。
対する天理は前年夏から2年連続の出場だったが、メンバーがそれほど多く残ったわけではなく、秋はやや不安定な戦いに終始した。しかし、小南、長崎(ロッテ)の左右の力のある2投手とチャンスに強い打線で、初戦は四国王者の徳島商の守備のミスに付け込んで劇的なサヨナラ勝ちを収める。
この初戦の勝利が殊の外勢いを与え、2回戦は好投手・伊藤を擁する浜松工、準々決勝は機動力野球の西京にそれぞれ大勝。小南、長崎がそれぞれ完投勝利をおさめ、こちらも投打に上げ潮ムードになってきていた。
終盤に粘りを見せ、逆転勝利
1997年選抜準決勝
上宮
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 |
0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 1 | × | 2 |
天理
上宮 山田
天理 小南
強力打線の上宮に対しては、天理はこの日は左腕の小南が先発。左スリークオーターからのキレのあるボールと捕手・東の好リードで天理バッテリーが試合を支配していく。上宮打線は2回戦の明徳義塾・寺本(ロッテ)や準々決勝の育英・柳原の変化球に苦労しており、その試合を見た東も小南のシュート、カーブを巧みに活用して抑え込んでいく。
対する上宮はエース山田が2試合ぶりに先発。こちらは伸びのある速球を武器に天理打線を抑え込む。天理は中軸を形成するのが小南、東、長崎とバッテリー陣であり、彼らが投打に試合を牽引してきたが、この日はその中軸を山田が集中して抑え込む。
締まった投手戦となった試合は4回表に上宮が2アウト1塁から6番金丸が左中間に弾丸ライナーの打球を放つも、センター川端がダイビングキャッチでつかみ取りる。2アウトだっただけに抜ければ1塁ランナーが生還していただろう。のちにレッドソックスにスカウトされる身体能力の持ち主が上宮の先制点を阻んだ。
しかし、この投手戦に風穴を開けたのは意外な男だった。長距離砲が並ぶ上宮に合って小柄ながらファイティングスピリッツのある7番前田が打席に向かう。前の試合で足首を痛めており、痛みをこらえながらファウルで粘ると、8球目をたたいた打球はレフトスタンドへ飛び込む先制ソローホームランとなって、上宮がようやくスコアボードに1を刻んだ。
しかし、この一打以降は再び上宮の打線は沈黙。小南のこの大会一番ともいえる大胆かつ繊細な配球の前に、昨秋から通じてほとんど抑えられたことがなかった上宮打線が沈黙状態に陥る。
すると、このエースの好投に7回天理打線が応える。2アウトランナーなしから1番芦硲がセンターへのヒットで出塁すると、すかさず二盗に成功。ここで2番冨田が山田の高めに浮いたストレートを逃さずとらえてレフトへ運ぶ。微妙なタイミングとなったが、2塁ランナーの芦硲は一気にホームを陥れ、天理が終盤で同点に追いつく。
一進一退の攻防は8回裏、天理はひょんなことからチャンスをつかむ。2アウトランナーなしから5番長崎のショートゴロを渡辺が悪送球。一塁に長崎を置いて続く6番山下が山田の低めのフォークを救い上げると、打球は左中間を深々と破り、一気に一塁からホームへ生還し、天理が貴重な勝ち越し点をもぎ取る。相手の動揺のスキを突いた初球攻撃であった。
最終回に上宮もランナーを出すが、小南の好投を最後まで打ち崩せずゲームセット。終盤に2アウトランナーなしから2度得点をたたき出した天理が無敵の王者をうっちゃり、初の選抜決勝進出を決めた。
まとめ
天理はその後、決勝で今度は長崎が中京大中京打線を1失点完投して選抜初優勝を達成。前年に不祥事による監督交代がありながらの優勝は過去2度の夏の全国制覇時とかぶる部分があった。逆境に強い奈良のバイオレット軍団が決して高くなかった前評判を覆して、栄冠を勝ち取った。
一方、敗れた上宮は夏も関大一(翌年久保–西本のバッテリーで選抜準優勝)に2-3と接戦で敗退。史上最強クラスのチームをもってしても勝ち続けることは難しいことを思い知らされた。それだけにこの翌年に公式戦無敗で勝ち続けた横浜の凄さが伝わってくる。
上宮はこの大会を最後に甲子園には出場していない。昭和後半から平成にかけて甲子園を沸かせ続け、数多くのプロ野球選手を輩出した強豪校も激戦の大阪で時代の波に飲み込まれている。久々の帰還を待ち望むオールドファンも多いはずであり、戻ってくる時を静かに待ちたい。
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