独断と偏見で選ぶ、2004年夏でベスト8へ進めなかったイチオシの好チーム

2004年

東北(宮城)

1 ダルビッシュ 10 采尾
2 11 堀川
3 伊藤 12 松岡
4 13 見目
5 横田 14 庄司
6 加藤政 15 坂本
7 成田 16 加藤信
8 大沼 17 梅津
9 家弓 18 真壁

東北勢史上最強の戦力を擁した優勝候補

昭和後半までは宮城県の高校野球は東北高校を中心に回っていたが、名将・竹田監督が県内のライバルである仙台育英に移ると、勢力図は入れ替わる。平成元年にエース大越(ダイエー)を中心に選手権準優勝を果たすと、平成初期の東北勢は仙台育英を中心に回り始める。実際、1989年~1998年までの10年間の春夏の甲子園において、東北勢で8強入りを果たしたのは、平成元年の秋田経法大付以外は、仙台育英のみであった(1989年の春夏と1994年の夏)。東北もエース嶋(広島)で神宮優勝を果たすなど奮闘していたが、両者の差は確実に開きつつあった。

ところが、2001年選抜で準優勝を果たし、いよいよ悲願の全国制覇を視界にとらえ始めた仙台育英が暗転する。翌年の選抜に向けての東北大会を優勝し、選抜切符を確実にしかけた矢先に不祥事で出場辞退となる。ここで仙台育英に入学予定だった有力選手がこぞって東北に入学。元来、県内の有力選手が仙台育英へ、県外の有力選手が東北へ入学する傾向が強かったが、その両者がこの代の東北に一気に終結したのだ。もともと伸び伸びとした校風で、個の力を活かす点で似たチームカラーの両者であり、仙台育英→東北という流れはある意味自然であった。

彼らが1年生の年はエース高井(ヤクルト)を擁しながらも、県大会準々決勝で敗退してしまったが、その年の秋にエース・ダルビッシュ有(パドレス)を中心に東北大会を2年ぶりに制すると、ここから東北の快進撃が始まる。寡黙な1番家弓、巧打の3番大沼、スラッガー横田、そしてダルビッシュとチームの中核を担う2年生を主将・片岡、女房役・佐藤(巨人)など包容力のある3年生がバックアップし、東北内では無敵の存在に。夏は県予選決勝で永年苦汁をなめさせられた仙台育英を直接対決で下し、久々に春夏連続での甲子園出場を果たした。

その夏は1年生ショートの加藤政や2番手の速球派サイドスロー真壁も台頭し、さらに分厚い戦力となる。甲子園では強打の近江、服部大輔擁する平安、同じ東北のライバル光星学院との激闘を次々に制し、決勝に進出。惜しくも常総学院に敗れて準優勝に終わったが、1,2年生に多くの選手が残る新チームには創立100周年での全国制覇という大きな夢がかけられた。

満を持して臨んだ新チーム。しかし、秋は神宮で四国の新勢力・済美に0-7とまさかのコールド負けを喫する。もともと腕に自信を持つ選手がそろった中にあって、主将であるダルビッシュを中心にまとまりを作るのには苦労した。そのダルビッシュは選抜の熊本工戦で無安打無得点を達成するなど、高いパフォーマンスを披露したが、成長痛など故障に苦しみ、なかなか本調子で投げられる状況ではなかった。負担を軽減すべく奮闘した真壁も選抜準々決勝でまたしても済美に逆転サヨナラ弾を浴び、まさかの敗戦。誰がどう見ても圧倒的な戦力を擁していたが、全国制覇は遠かった。

それでも最後の夏に向け、チームはさらなる戦力強化を図る。強打の1年生成田を外野のレギュラーに抜擢すると、春の東北大会は貫禄の優勝を達成。これで2年連続で秋春の東北大会を制し、もはや東北内では敵なしとなっていた。エースダルビッシュをバックアップすべく、真壁や左腕・采尾など投手陣も5人の力のある投手がそろい、盤石の体制に。宮城大会決勝は20-2と圧倒的なスコアで制し、いよいよ悲願の全国制覇に向けて聖地・甲子園に乗り込んできた。

東北vs平安 2003年夏 | 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)

済美vs東北 2004年選抜 | 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)

1回戦

北大津

1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
1 0 6 1 0 0 5 0 × 13

東北

初戦の相手は初出場の北大津。前年の近江に続き、2年連続で滋賀県勢との対戦となった。ここ数年近江優勢で進んでいた滋賀県にあって、名将・宮崎監督が鍛え上げた北大津は元来の滋賀県では少ない超攻撃型のチームであった。「1試合の攻撃が27球で終わっても構わない」という積極的な打撃姿勢で県内のライバルに競り勝ち、決勝ではサヨナラ勝ちで初優勝を達成。強打の好捕手・中西(ソフトバンク)を中心に、初出場ながら力を秘めたチームであった。

だが、その攻撃型チームに対し、東北は貫禄の戦いを見せる。ダルビッシュは序盤、毎回のようにランナーを背負うものの、スコアリングポジションにランナーを背負ってから一段も二段もギアを上げていく。要所でコントロールを間違わず、抜群の球威で北大津打線を翻弄。ヒットは出ても、北大津打線にとっては非常にホームが遠い展開だった。

また、打っては北大津守備陣のミスにも乗じて3回に一挙6点。昨年の準優勝メンバーだけでなく、攻撃の潤滑油となる2番槙や満塁から走者一掃打を放った7番伊藤など、脇を固めるメンツも非常にハイレベルであった。11安打で13点を挙げる効率のいい攻撃を見せ、投打で相手を圧倒してまずは順調に初戦を突破した。

(3) ダルビッシュ有 投球 甲子園 北大津戦 – YouTube

2回戦

東北

1 2 3 4 5 6 7 8 9
3 0 1 0 0 0 0 0 0 4
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0

遊学館

2回戦の相手はこれまた打撃に自信を持つ遊学館。2002年夏に1,2年生だけで甲子園出場を果たし、一世を風靡した新興勢力だが、これで春夏計3度目の甲子園出場であり、すっかり甲子園常連校の風格を身にまとっていた。体のメカニックを理解した指導に定評のある山本監督の指導の下、1年生から甲子園の舞台を経験した1番浜村・3番中山を中心に好打者がずらりと並び、中でも2年生ながら4番を務める鈴木(広島)は天性の長打力を秘めていた。

また、投げては2年生左腕・曽根がエースに成長。2つ上の先輩である小嶋(阪神)を彷彿とさせるしなやかなフォームからキレのあるボールを投じ、相手打者を翻弄する技巧派タイプである。石川県大会では投打がかみ合い、前年夏に同じ決勝で敗れたライバル金沢を10-0と圧倒。甲子園でも初戦で県岐阜商の速球派右腕・金原に14安打を浴びせ、終始攻め続ける野球で初戦突破を果たした。

その遊学館。名将・山本監督は打倒・東北、打倒・ダルビッシュに向け2つの策を講じる。1つ目は2年生の主砲・鈴木のまさかの先発起用である。速球に力のある鈴木の球威で押し、タイプの違う曽根につないで逃げ切るのが遊学館サイドの描いた戦略であった。ところが、この初先発の2年生投手の立ち上がりを東北はしたたかに狙っていた。1回表、先頭の家弓が内野安打で出塁すると、四球に暴投が絡んで先制。3回表には2番槙から大沼、横田と3連打が飛び出し、5番成田の犠飛も絡めて3点を追加する。速球主体の鈴木の投球を百戦錬磨の東北打線はしっかりととらえた。

4点を追う展開となった遊学館だが、山本監督にはこの時点ではまだ勝算はあっただろう。この2年間で常にメディアで取り上げられ、全国大会に出場し続けていたダルビッシュはある意味、事前の研究が非常にしやすい相手ではあった。前年夏の平安戦もそうだったが、塁上にランナーがいても気にせず、「ホームに返さなければよい」という考え方が見受けられ、試合前から機動力を武器に仕掛けていく作戦を立てていた。長身投手を足元から崩し、機動力でリズムをつかめれば、まだまだ4点差は返せない点差ではないと考えていた。

ところが、この遊学館サイドの作戦を知ってか知らずか、ダルビッシュがしたたかに相手の反撃の目を摘み取っていく。盗塁を狙うランナーをことごとくけん制で刺し、遊学館打線の盗塁の意欲をそぎ、6回には2塁打で出た主将・浜村が2塁けん制で再びタッチアウト。前へ前へという遊学館のランナーの動きを感じ取り、逆手に取ったダルビッシュが一枚も二枚も上手であった。肝心の打撃も、速球狙いの遊学館の打者に対して、多彩な変化球を投じて的を絞り切らせない。終わってみれば3安打完封で、1回戦に続く連続シャットアウト勝ち。投打に全くスキのない内容で東北が3回戦へとコマを進めた。

(3) 2004 ダルビッシュ有 2 甲子園-夏 – YouTube

3回戦

千葉経大付

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
0 0 0 0 0 0 0 0 1 2 3
0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 1

東北

ここまで2試合強打のチームをエース・ダルビッシュの投球で寄せ付けず、危なげなく勝ち上がった東北。3回戦の相手は初出場の千葉経大付だった。桜美林で優勝投手となった松本吉監督とその息子であり、エースの松本啓(横浜)の親子鷹で注目され、右腕・井上との左右の2枚看板を中心に守り勝つ野球で激戦区・千葉を制してきた。

甲子園では初戦で鳴門第一の左腕・賀川を打者2巡目でとらえて4回までに4点を挙げると、右のエース・井上が力のある速球を武器に7回まで1失点の好投。リリーフした左腕・松本啓がしっかりリードを守り切り、甲子園初勝利を手にした。2回戦では左のエース・松本啓が先発。前年夏の甲子園で逆転ホームランを放った主砲・二世を中心に初戦で10得点を挙げた富山商打線に対し、強気のインサイド攻めで決定打を許さない。終盤にはライト細田、ファースト河野が2イニング連続でホームを狙ったランナーを刺し、虎の子の1点を守り切って3回戦進出を決めた。

ここまで2試合守りの野球で勝ち進んできた千葉経大付。初めての甲子園ですでに2勝を挙げ、プレッシャーのかかりにくい状況で臨める新鋭校に対し、みちのくの悲願を一心に背負っていた東北のほうが精神的圧力は相当重かっただろう。試合開始当初から降り続いていた雨もなにか波乱を予感させる舞台装置のようであった。

そんな中、両チームのエースは淡々と自分のピッチングを展開する。ダルビッシュは切れ味抜群のスライダーを武器に、ランナーを背負いながらも要所を締める。一方、千葉経大付・松本啓は4回まで強打の東北打線を相手に無安打ピッチングを展開。上位から下位までミート力の高い打者がずらりと並ぶが、千葉経大付バッテリーがこの試合も強気にインサイドをつき、なかなか自分の投球をさせない。前評判では東北が有利と言われていただけに、0-0の試合進行は、東北サイドにとっては何か不気味な展開で会った。

それでも、優勝候補筆頭の意地にかけて負けられない東北は7回裏、自慢の上位打線が援護点をもたらす。3番大沼がしぶい内野安打で出塁すると、4番横田は強硬策でヒットを放ち、チャンスを拡大する。犠打で1アウト2,3塁とすると、昨年からレギュラーを張る2年生・加藤政が内野ゴロを放つ間に大沼がホームを駆け抜け、ついに1点を先制する。押され気味の展開の中で挙げた貴重な先取点。あとはこのリードをエースが守り抜けば、昨年に続く8強入りが見えてくるところであった。

しかし、長時間降り続く雨が無情にも東北にそっぽを向くこととなる。9回表、先頭の代打・香取がセンター返しで出塁すると、犠打と内野ゴロの間に2アウトながらランナー3塁へ進む。東北にとってはあと1アウト、千葉経大付にとっては後ベース一つという状況。ここで3番井原の打球は引っかけた3塁ゴロとなるが、この打球はサード横田の前でイレギュラーする。ぬかるんだグラウンドに翻弄され、横田は懸命に捕球するも、送球がそれる間に香取がホームへ生還。あと勝利までアウト一つの状況だったが、手のひらから滑り落ちていった。

こうなると、試合前の下馬評など関係なく、流れは千葉経大付に傾く。延長10回表、徹底したセンター返しでダルビッシュの好球を逃さず、代打・河野に勝ち越しタイムリーが飛び出すと、ここで和光監督はダルビッシュに代えて2番手で真壁を送る。この大会初登板の真壁だったが、千葉経大付打線を抑えることができない。2番川上が巧みな流し打ちを見せると、河野が一挙にホームを陥れ、決定的な2点目を手にした。

10回裏、東北の攻撃は2者が凡退し、最後の打席にはダルビッシュが向かう。試合後に号泣した1年前の常総学院戦と異なり、笑顔で打席に向かったエース。最後は松本啓のインサイド高めの速球に手が出ず、見逃し三振でゲームセットとなり、優勝候補・東北の夏は幕を閉じた。

試合後は無念さを押し殺すナインの姿があったが、どこか優勝候補のプレッシャーから解放されたような安堵感も感じられた。それだけ、この年の東北高校にかけられた期待は大きく、またそれだけの実力を持つチームであった。結果的に優勝こそ果たせなかったが、この2年間の東北の戦いぶりは東北勢全体に勇気を与えるものであり、この頃から全国の強豪校相手に東北勢が名前負けすることもなくなっていったような気がする。2022年夏にライバルの仙台育英が東北勢初優勝を果たしたが、そこに至るまでの道のりで、東北高校が成しえた功績はことのほか大きかったといえるだろう。

(3) ダルビッシュ三年 夏 – YouTube

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