2021年選抜1回戦
市立和歌山vs県岐阜商
52% 48%
1回戦屈指の好カード。剛腕・小園と松川の黄金バッテリーを擁する市立和歌山と140キロ台投手4人をプロ注目捕手の高木がリードする県立岐阜商が激突する。今大会屈指のディフェンス力を誇るチーム同士の対戦だ。
小園は昨秋の公式戦で強打の智辯和歌山を県大会、近畿大会にわたって3度撃破。あの強打の名門校を3度にわたって倒し続けた実力は本物だ。150キロ台を記録するストレートはコンスタントに140キロ台中盤でコーナーに突き刺さり、カットボール、ツーシームといった高速系の変化球も精度が高い。中学時代からのバッテリーとなる松川のインサイドワークも巧みで、いつの間にかこのバッテリーのペースに引き込まれている。きっちり対応策を立てないと、取れて1,2点で終わる可能性が高い。
対する県立岐阜商は秋の公式戦ではほとんどの試合で5点以上を奪ったように、攻撃力には自信を持つ。4番の高木はキャッチャーらしい読みを活かした思い切りと長打力が魅力。昨秋の東海大会決勝では先制タイムリーを放ったようにここぞという時に頼りになる。左打者がスタメンに5人並ぶ配置となっており、小園攻略のカギを握りそうだ。
一方、県立岐阜商も140キロ台を記録する投手を4人擁する盤石の布陣。中でも左腕・野崎と右腕・松野の2人は昨年の甲子園のマウンドも経験しており、野崎はスライダー、松野はカットボールとそれぞれ違う決め球で相手打者に立ち向かっていく。全員完投能力があるが、この4人で先手先手で継投されるとなお厄介だ。鍛治舎監督のタクトに注目が集まる。
対する市立和歌山は秋は攻撃力には課題を抱える印象だった。それでも高校通算31ホームランの4番松川、チャンスに強い5番田中とポイントになる打者を擁する点は心強い。特に松川が敬遠されるケースが考えられるだけに、後を打つ松川の打撃がカギを握りそうだ。秋は得点が伸びなかったが、チーム打率は3割を超えているだけに、攻撃の組み立てを工夫すればさらに得点力は増しそうだ。
守り合いの試合になることは容易に想像がつくだけに、勝負のカギを握るのは先制点、四死球、エラーになりそうだ。市立和歌山バッテリーの存在感が圧倒的なぶん、少し市立和歌山が有利に見えるが、逆に打力で上回る県岐阜商は一度リードを奪う展開になればかなり優位になりそうだ。
主なOB
市立和歌山…藤田平(阪神)、正田耕三(広島)、川端慎吾(ヤクルト)、益田直也(ロッテ)
県岐阜商…高木守道(中日)、和田一浩(中日)、石原慶幸(広島)、三上朋也(DeNA)、高橋純平(ソフトバンク)
和歌山 岐阜
春 2勝 4勝
夏 4勝 3勝
計 6勝 7勝
春は岐阜が、夏は和歌山がリード。高校野球創成期から活躍していた両県だけあって、古くから対戦カードが存在する。1970年には岐阜短大付がエース湯口(巨人)の好投で選抜優勝の箕島を撃破し、勢いに乗って4強まで勝ち進んだ。2006年には春夏連続で対戦が実現。智辯和歌山が選抜では岐阜城北に敗れ、夏は同じ岐阜の県立岐阜商を倒して4強まで勝ち進んだ。今回はどちらが制するか…
思い出名勝負
2006年選抜2回戦
智辯和歌山
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
0 | 0 | 6 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 7 |
1 | 0 | 5 | 2 | 1 | 0 | 1 | 0 | × | 10 |
岐阜城北
智辯和歌山 松隈→竹中
岐阜城北 尾藤
智辯和歌山は前年から夏春連続の出場。広井、橋本(阪神)、亀田、松隈と昨年からの4人のメンバーを中心に上位から下位まで強力な打線と広井、松隈、竹中と3人の持ち味の異なる右腕を擁し、2000年以来の甲子園優勝を視界にとらえていた。前年秋の近畿大会では決勝で履正社との打ち合いに敗れたが、その他の試合はほとんど負けなかった。
そのチームの最大の目標は神宮で優勝を飾った田中将大(楽天)を擁する駒大苫小牧。世代最強投手を打ちこむため、160キロのストレートと高速スライダーを打ち込む練習を重ねていたが、駒大苫小牧は不祥事による出場辞退で智弁ナインは目標を軌道修正せざるを得なかった。初戦は伊万里商を相手に4点を奪い、エース竹中が完封するも、2000年を超えるとまで言われた打線の長打力はまだ見られていない。
対する岐阜城北は、岐阜三田と岐阜藍川が統合してからは初出場。岐阜県勢は1983年夏に岐阜第一がベスト8入りしてから22年間春夏の甲子園でベスト8から遠ざかっていた。かつては県立岐阜商が4度の優勝を飾るなど、強豪県の時代もあっただけに、県を挙げて高校野球の強化に努め、その対象の一つとなっていたのが岐阜城北であった。
この年の岐阜城北の要はなんといってもエース左腕の尾藤。左打者のアウトコースへ逃げるスライダーを武器に前年秋の東海大会を制覇し、初出場ながら堂々優勝候補の一角に食い込んでいた。1回戦は希望枠で出場した一関学院の好左腕・太田に苦しんだが、9回に逆転サヨナラ勝ち。尾藤を相手打線をわずか1安打に抑える投球で勝利を呼び込んだ。
焦点は岐阜城北のエース尾藤を智辯和歌山打線がどうとらえるかであった。ストレートのめっぽう強い智辯和歌山打線に対して決め球のスライダーをいかに有効に使えるかがカギであった。
智辯和歌山の先発は4番も務める松隈。3人いる投手の中でストレートの最も威力はある投手だったが、初回に岐阜城北打線につかまる。1アウトから2番太田に四球を与えると、初戦でサヨナラ打を放った3番水川がエンドランで三遊間を破る。さらに4番丹羽もヒットでつなぐと、5番尾藤が自ら犠飛を放って1点を先制する。
立ち上がりからボールが高めに浮きがちな松隈は2回にもランナーを出したところで降板。高嶋監督は初戦で完封勝利の竹中をマウンドに送り、流れを手繰り寄せる。
すると、3回表にそれまで一人のランナーも出ていなかった智辯打線が尾藤に襲い掛かる。先頭の7番竹中が死球で出塁すると、犠打で二進。2アウト後に1番古宮のショートゴロがエラーとなってチャンスを拡大する。動揺を隠せない尾藤は続く2番上羽に死球を与え、満塁に。得意とする左打者相手にエラーと四死球が絡んでアウトを奪えない。
このチャンスを智辯が逃すはずもない。3番広井がスライダーをセンターに返して2者を迎え入れ逆転。さらに満塁として5番橋本はストレートをセンターオーバーに運んで走者一掃し、一気に3点を追加する。焦った尾藤がストライクをそろえに来たところを逃さなかった。この回、さらに打者一巡して竹中にもタイムリーが飛び出し、1イニング6得点。これで勝負あったかと思われたが…
その裏、智辯のマウンドは最も安定感のある竹中。打力がそれほど評価されていたわけではない岐阜城北だったが、取られたすぐ裏に猛反撃を開始する。1アウトから3番水川がライトへのヒットで出塁すると、4番丹羽のサードゴロをサードが悪送球して、こちらも相手のミスからチャンスを広げる。さらにディレードスチールで竹中がプレートを外したにも関わらず、送球がそれてランナーは二進。2つのミスで智辯はピンチを広げてしまう。
ここで、5番尾藤は右中間フェンスを直撃するタイムリー2塁打を放ち、6-3。さらに6番間宮、7番中島、8番宮木と尾藤から怒涛の4連打で1点差に迫ると、2アウト後に1番鈴木もタイムリーを放ってついに同点に追いつく。この日は初戦ほどボールにキレのなかった竹中だったが、手元までしっかり呼び込んで打ち返す岐阜城北の打線が素晴らしかった。
こうなると追いついた側に当然勢いが出てくる。岐阜城北は4回裏、ランナーを2塁において先ほどタイムリー2塁打の尾藤を迎えると、ストレートを完ぺきにとらえた打球は弾丸ライナーでライトスタンドに飛び込み、2点を勝ち越す。自ら勢いを得た尾藤はその後、冷静さを取り戻し、高めのストレートと低めのスライダーをうまく振らせて得点を与えない。
それでも、強打の智辯和歌山も意地を見せる。3点差で迎えた7回表に2アウトから4番松隈、5番橋本が連続長打を放ち、7-9に。しかし、この日の智辯は右打者の中軸3人で5安打を放つも、周りを打つ左打者が4回以降完ぺきに抑え込まれる。結局、7回裏に1点を追加した岐阜城北が一人で4打点を挙げた尾藤の投打の活躍で優勝候補を退け、初のベスト8進出を決めた。
その後、岐阜城北は準々決勝で尾藤が神港学園を完封し、ベスト4まで勝ち進む。さすがに疲れの見えた準決勝は横浜の強力打線につかまって大敗したが、このベスト4は岐阜県勢に大きな勇気を与えたのは間違いないだろう。
翌年の選抜では名将阪口監督率いる希望枠の大垣日大が準優勝を果たすと、県岐阜商に赴任した藤田監督も夏4強が1回、選抜8強が2回と結果を残し続ける。記憶に新しいところでは2019年に中京学院大中京も4強入りを果たすなど、2006年以降の14年間で春夏合わせてベスト8以上が8回を記録。低迷していた岐阜県勢復活の足掛かりを作ったのがこの大会だった。
一方、智辯和歌山は守備のミスが絡んでの大量失点に、好投手・尾藤を後半打ち込めなかった打線と課題が山積みで選抜の戦いを終えた。大型選手をそろえた優勝候補はその後、夏に向けて再び守りから鍛えなおし、夏は帝京との激闘を制するなどして4強まで進出。念願の田中将大との対決では抑え込まれたが、今度は持ち前の強打を存分に発揮して夏を終えることとなった。
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