大会11日目第1試合
山梨学院
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 5 | 6 |
1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 |
広陵
山梨学院 林
広陵 高尾→倉重
決勝進出への切符かけた準決勝第1試合は、山梨学院・林、広陵・高尾と大会を代表する好右腕の投げ合いになった。両チームが激しく攻め合う中、9回表に山梨学院打線がついに高尾を攻略。エース林は今大会初の2桁安打を浴びながらも1失点で完投し、山梨学院がついに初の決勝進出を果たした。
試合
山梨学院は林、広陵は高尾。両チームともエースをマウンドに送った。
高尾は初回、140キロ台の速球にカーブ、スライダー、チェンジアップを交え、低めに集める投球で山梨学院の上位打線を3人で退ける。準々決勝で完全休養できたこともあり、球威・スピードともそれほど衰えは感じない。山梨学院の各打者にいい当たりをされても、コースを突いたぶん、野手の正面をついた。
一方、疲労が心配された林。初回、いきなり1番田上にフルカウントからインサイドのカーブを引っ張られてライト線へ2塁打を浴びる。犠打と四球で1アウト1,3塁となると、4番小林はライトへの犠飛を放って広陵が1点を先制。ライト徳弘の好返球も、一瞬早く田上がホームを駆け抜けた。今日の林は序盤、ボールが高めに抜け、スピードもいつもほどの乗りがない。
そんなエースを援護したい打線は、2回表、すぐに反撃態勢を見せる。先頭の4番高橋がカーブをしっかり呼び込んでセンターへのヒットで出塁。暴投と5番佐仲のライトフライで高橋が3塁まで進むと、主将・進藤が高めに浮いた変化球をしっかり打ち上げ、山梨学院も犠飛で得点を挙げる。高尾はこの回、やや変化球の制球に苦しんでいる印象だった。
試合は序盤、やや広陵が押し気味の展開。2回にはバックの好守に助けられて併殺で切り抜けるが、3回裏にはまたしても高めのボールを9番高尾、2番谷本にヒットされ、1アウト1,3塁と絶対絶命のピンチで3番真鍋を迎える。しかし、このシチュエーションがかえって林本来の姿を解き放ったのか、真鍋には高めの伸びのある速球で空振り三振を奪うと、続く4番小林はアウトコースいっぱいの速球で連続三振に切って取る。なにかこのイニングで回転のいい速球が蘇ったような感覚があった。
この林の好投が広陵に傾きかけていた流れを押しとどめ、試合は両投手による息詰まる投手戦となる。高尾は球威十分の速球を武器に丁寧に低めを突き、準々決勝まで猛打を誇っていた山梨学院打線を鎮火。3回から5回まではわずかヒット1本しか許さない。2年生ながらまるで最上級生のような貫禄を見せ、素晴らしいボールで相手打者をねじ伏せていく。2年春でこの投球なのだから、順調に育てば来年は末恐ろしい投手になりそうだ。
一方、林は3回までは本当に苦しい内容だったが、かえってその3回のチャンスで力が抜けたのか、持ち味の伸びのある速球が活き始める。特に広陵打線の軸である3番真鍋、4番小林を封じているのが大きい。ほかにも好打者が大勢いるとはいえ、広陵打線全体でみると、この2人の沈黙は大きな影響力を及ぼしていた。5回には3回に続いて得点圏で真鍋を迎えたが、すっかりキレを取り戻した速球でサードファウルフライに打ち取る。
また、この試合は機動力を絡めた両指揮官の速い仕掛けでの攻防も注目されていたが、その攻め方を当然ディフェンス側も熟知。かき回そうとしてくる相手に対して、執拗にけん制をいれるなど、相手に突破口を与えない粘り強い守りが光る。
試合は5回を終わって、1-1の同点。後半戦に入り、徐々に両チームに得点の香りが漂い始める。6回表、山梨学院は2アウトから2番星野が珍しく甘いコースに来た変化球をしっかりとらえ、センターオーバーの2塁打で出塁。ここで強打の3番岳原であったが、高尾は徹底して低めの変化球で攻め続け、最後はスプリットで空振り三振に切って取る。ここまで好調の岳原だったが、この日は高尾の投球に翻弄される。
一方、広陵も6回裏にそれまで抑え込まれていた4番小林に待望の初ヒットが飛び出す。犠打と暴投で1アウト3塁と再び絶好のチャンスを迎えるが、後続が凡退して無得点。調子を取り戻した林を打ち崩せない。
激しさを増す両チームの攻防。7回表には広陵が捕手・只石の好送球で二盗を阻止すれば、2塁打を放った6番進藤をおいて7番大森がセンターへはじき返すも、今度はセンター田上の好送球でホームタッチアウトとなる。終盤に入ってさすがに疲れからかボールが高くなってきた高尾だったが、バックが必死に2年生エースを盛り立てる。
一方、山梨学院のエース林もこの日は毎回のようにヒットを浴びるが、勝負所でコントロールを間違わない。本当にメンタルの強い投手であり、両コーナーへ丁寧に投げ分ける投球で広陵打線を8回まで9安打1点に封じる。機動力も含めて分厚い攻撃を見せる広陵打線に対し、終盤まで粘りに粘り抜いて投げ切った投球は、エースの鏡と呼べるものであった。
試合は、同点のまま最終回へ。先に崩れたのは広陵の2年生エースであった。
9回表、山梨学院は2番星野がヒットと犠打で二進。4番高橋はファウルで粘って7球目にきたアウトコースのスライダーをうまくミートすると、今度は田上の返球も間に合わず、山梨学院に貴重な勝ち越し点が刻まれる。広陵バッテリーにとってはやや配球がアウトコースに偏ってしまったか。続く5番佐仲にも右打ちでライト線を破られると、6番進藤にはインサイドを攻めなおした速球をレフトオーバーに運ばれる。山梨学院打線に完全に飲み込まれた高尾はここでマウンドを降りた。
広陵は2番手に準々決勝で好投した左腕・倉重を送るが、一度火のついた山梨学院打線はもう止まらない。9番伊藤のテキサスタイムリー、1番徳弘のタイムリー2塁打でさらに2点を追加し、試合の大勢は完全に決まった。
9回裏、広陵は最後の粘りを見せ、1番田上がセンターへのヒットで出塁。暴投で2塁に進むが、中盤以降調子を取り戻した林を打ち崩すには至らなかった。最後は2番谷本がファーストゴロに倒れて試合終了。怪物スラッガー真鍋はネクストサークルで春を終え、山梨学院が山梨県勢として初の決勝進出を決めた。
まとめ
山梨学院は序盤、エース林が捕まりかける苦しい展開だったが、エースが自ら投球を立て直して3番真鍋、4番小林を打ち取って流れを引き戻した。疲れから決して調子は良くなく、今大会初めて2桁安打を浴びたが、中盤から持ち味の速球が伸び始めたのは、体幹をしっかり使い、理にかなった投げ方をしているからだろう。決勝戦もエースがマウンドに上がるのは間違いなさそうだ。
また、打線は9回に見事な集中打で広陵・高尾を攻略。昨年の甲子園では好投手を攻略しきれずに初戦敗退に終わったが、今日の最終回の攻撃はその教訓が随所に生きていると感じさせるものであった。ワンチャンスを逃さず、相手の弱点を突いていき、しかも機動力を絡められるしたたかさ。もともと打力の高い選手が並んでいるうえにこれだけの武器が加わって攻めてくるのだから、得点が伸びるのも何ら不思議ではなかった。
1大会2勝の壁どころか、一気に5勝を積み上げた山梨学院。山梨県勢初優勝の夢まであと1勝だ。
一方、広陵はやはり序盤、攻勢だった中で勝ち越し点を奪えなかったのが痛かったか。林の投球が素晴らしかったのもあるが、真っすぐで攻めてくるとわかっている状況で真鍋・小林の中軸が抑え込まれたのは痛かった。高尾は序盤から球威、スピード、コントロールとも申し分ない内容だったが、終盤は疲れからボールが高めに浮いたところを山梨学院打線にとらえられた。この日は、力うんぬんより流れの奪い合いに敗れたと言った方、しっくりくる試合だったと言えるだろう。
投攻守走全てにおいて素晴らしい戦力を誇っていた今年の広陵。しかし、全国制覇とはかくも難しいのだと思わされた2023年の春となった。
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