大会4日目第3試合
慶応
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 計 |
0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 1 |
0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1× | 2 |
仙台育英
慶応 小宅→松井
仙台育英 仁田→高橋→湯田
雨中の激闘となった注目カードは、慶應の驚異的な粘りで延長戦に突入。史上初の延長10回タイブレークの攻防を制した仙台育英が劇的なサヨナラ勝ちで3回戦へコマを進めた。
試合
慶応は昨秋急成長を見せた2年生右腕・小宅、仙台育英は速球派左腕・仁田がそれぞれマウンドに上がった。
試合前から降りしきる雨の中、仙台育英・仁田は立ち上がりなかなか制球が定まらず、先頭の1番丸田にストレートの四球を与える。かなり酷な状況でのマウンドだったが、2番大村の4球目でようやくストライクを取ると、ここから仁田らしい速球主体の投球を見せる。得点圏にランナーを進められたが、最後は4番福井をインサイドの速球で空振り三振に切って取り、無失点で立ち上がる。
これに対し、慶應の右腕・小宅はしなやかなフォームからキレのあるストレートとスライダーを投じ、仙台育英打線を初回3者凡退に抑える。制球力のよさそうな投球フォームであり、球速以上の伸びも感じさせる。
初回を無事に立ち上がった仁田だが、2回表に大会注目のサラブレッドに捕まる。清原和博氏の次男・清原勝児がストレートを完ぺきにとらえると、痛烈な打球はレフトへ。レフトがはじく間に一気に2塁を奪い、チャンスを迎える。6番延末は三振に倒れるも、7番渡辺、8番小宅が連続四死球で塁を埋め、満塁となる。
すると、ここで須江監督は迷わず、2番手でエース高橋を送る。この交代のカードの切りやすさが仙台育英の強みだろう。高橋は快速球と多彩な変化球を武器に、連続三振を奪い、得点を与えない。慶応としては雨のグラウンドで転がせば何かある状況だったが、それさえ許さない高橋の投球が上回った。
先制のチャンスを逃した慶応だが、小宅は2回以降も安定したコントロールと多彩なを武器に仙台育英打線を封じる。コントロールが安定しているがゆえに思い切ったポジショニングが取れ、いい当たりの打球もアウトにしていく。さすが神奈川代表と思わせる、クレバーな野球だ。
2回から登板した高橋は雨の中でさすがに昨夏見せたほどのスピードは出ないものの、やはり手元でグイっと伸びる速球の威力は天下一品だ。頂上を極めた自信を感じさせる投球で、秋季大会でホームランを量産した慶応打線を5回まで無失点に封じる。また、守備に関してはエラーこそあったものの、両チームとも素晴らしいステップワークで難しい打球を処理。今大会1,2を争うハイレベルな試合はスコアレスで5回裏に突入する。
その5回裏、仙台育英打線が欲しかった欲しかった先制点を手にする。
先頭の4番齋藤陽が逆方向への打撃でヒットを放つ。全国制覇を知る4番の強みは、この打撃ができることだ。コントロールの良い小宅に対し、徐々に的を絞り始める。ここで須江監督は得意の機動力を発揮。斎藤陽は盗塁で2塁へ進むと、1アウト後に6番尾形は初球のアウトコースを完全に狙い打ち。捕手らしい読みを活かした打撃でチャンスを広げると、2アウト後に8番高橋が盗塁警戒で広く空いた三遊間を破り、ついに均衡を破る。
自ら先制点を奪った高橋はこれでさらに勢いに乗る。ストレートもさることながら、勝負所で織り交ぜるチェンジアップの前に慶応打線は形を崩される。また、高橋もコントロールには相当自信を持っており、3ボールになることを捕手・尾形とのバッテリーは怖がらない。ストライクを先行させるのに汲々としないことでより投球の幅が広がり、相手打線にとっては威圧となる。タイプは違うが、2017年の福岡大大濠の三浦銀二(DeNA)を思い出した。
点差はわずか1点なのだが、慶応はその1点が果てしなく遠く感じていただろう。しかし、この苦しい状況で2年生エース小宅は本当によく粘った。リリースポイントが安定しているため、逆球や失投は数えるほど。うるさい打者の多い仙台育英打線を8回まで5回に封じた投球は称賛に値する。昨秋から急成長を見せた2年生エースが、全国の舞台で堂々と自分の力を発揮した。
すると、9回表、エースの力投についに打線が応えた。先頭の6番延末が高めの速球をとらえると、打球はセカンド頭上を破るヒットに!ここぞとばかりに応援団はこの日、最高潮の盛り上がりで烈火を鳴り響かせる。異様な雰囲気の中、仙台育英は快投を見せていた高橋に代わって3番手の右腕・湯田をマウンドに送る。
球威のある湯田に対し、慶応は7番渡辺が見事な犠打を決め、延末は2塁へ。ここで代打・安達が打席に入る。代打の鉄則の初球打ちを狙っていた男が、アウトコース高めのスライダーをとらえると、打球は左中間へ落ちるタイムリーに!慶応がついに同点に追いつく。若き血の大合唱のなか、試合は土壇場で振り出しに戻った。
本人たちはそんなつもりはないだろうが、仙台育英にとっては、昨夏の王者として相手がチャレンジャー精神全開で向かってくる。しかも相手校は人気チームの慶応義塾だ。後アウト2つで試合を振り出しに戻され、気圧されてしまったのは致し方ないだろう。
慶応は9回から2番手でサイド右腕の松井をマウンドへ。小宅とはまたタイプの違う右投手であり、9回裏に1アウトから4番齋藤陽のヒットなどでピンチを招いたものの、強気の投球でサヨナラのピンチを防ぐ。
試合は今大会初の延長戦、そして史上初の延長10回からのタイブレークだ。
延長10回表、慶応は無死1、2塁から犠打と死球で1アウト満塁の大チャンスを迎える。ここで打席には4番福井。しかし、湯田の球威のある速球に押されキャッチャーはファウルフライに倒れて2アウト。さらに5番清原はカウント2-1から湯田のスライダーにバットが空を切り、勝ち越しのチャンスを活かすことができない。
絶体絶命のピンチを切り抜けた仙台育英は延長10回裏、犠打と敬遠四球で同じように1アウト満塁のチャンスを作る。しかし、ここで驚きのプレーが出る。9番熊谷がレフトへヒットを放ち、サヨナラかと思われた瞬間、犠飛対策で前に出ていた3塁ランナーのスタートが遅れている。レフト福井は渾身のバックホームで3塁ランナーをホーム封殺し、99%終わったと思われた状況から生き返ってきた。これぞ、慶応と思わせる驚きのプレー。彼らが激戦区・神奈川を勝ち抜ける理由が伝わってきた。
しかし、この状況を1番主将の山田は冷静に俯瞰していた。2番手・松井のボールにも目が慣れてきたいたのだろう。最後は真ん中寄りのスライダーを迷わずレフト線にはじき返し、今度は福井もホームへ返すことはできず。終盤に目まぐるしく動いた試合をものにした仙台育英が2年ぶりのベスト16進出を決めた。
まとめ
仙台育英は、最終回に追いつかれる苦しい試合をものにし、初戦突破。チームに勢いを与える勝利になっただろう。投手陣はさすがの層の厚さを見せつけ、他校ならエース級の3投手をつないで慶応の強力打線を6安打1点に封じた。誰か一人が不調でもカバー可能であり、連戦を勝ち抜くうえでこの上ない強みと言えるだろう。
一方、打線は8安打2点だったが、やはり全国クラスの好投手相手では、そう多くの得点は取れない。そのあたりは須江監督も承知しており、だからこそ機動力やつなぎの意識を今年も大事にしている。広角に打てる4番齋藤陽はその象徴だろう。爆発力はなくとも勝負どころで大事な1点をもぎ取れる、そういう打線を目指している。投打にスキのなさを見せた昨夏の王者。夏春連覇へ向け、好スタートを切った。
その仙台育英をあと一歩まで追い詰めた慶応は観衆の万雷の拍手が示す通り、素晴らしい戦ぶりであった。仙台育英打線相手では正直最低でも3~4点は取られると思っていたが、どうしてどうして2年生エース小宅の好投と抜群のポジショニングを武器に9回までを1点で封じて見せた。特に、延長10回裏の守備は全国の野球ファンを驚愕させるものであった。神奈川の猛者の間で鍛えあげてきた野球を甲子園で存分に見せつけた。
また、打線は仙台育英投手陣の球威に苦しんだが、土壇場の最終回に驚異的な粘りを発揮。鳥肌ものの同点劇で昨夏の王者を追い詰めた。激戦区だけになかなか甲子園に出てこれない時期もあった慶応だが、出場すれば必ずインパクトある戦いぶりを見せてくれる。これだから慶応の野球を見たいファンは後を絶たないのだと感じさせた一戦であった。
コメント