県予選の純粋なトーナメントを勝ち抜いて代表校を選ぶ夏の選手権と違い、春の選抜大会は文字通り前年秋の地区大会の成績をもとに出場校を決める。各地区ごとに出場枠は決まっており、当然なかにはギリギリの状況から選抜出場をつかみ取るチームも毎年何校か存在する。今回はそんなギリギリの出場から選抜本番で一気に勝ち上がった高校を紹介したい。
1999年 水戸商
1998年 秋季関東大会
準々決勝 ●0-2 横浜
1999年 選抜大会
1回戦 〇4-2 岩国
2回戦 〇3-0 日大三
準々決勝 〇4-3 海星
準決勝 〇11-3 今治西
決勝 ●2-7 沖縄尚学
沖縄尚学の沖縄県勢初優勝に沸いた1999年の選抜大会。その沖縄尚学と同等かそれ以上の衝撃を与えたのが水戸商の快進撃だった。前年秋は準々決勝で春夏連覇を果たしたばかりの横浜に0-2と惜敗。関東からの出場枠は5校だったため、当落線上ギリギリであったが、地域性の関係もあって選出された。
エースはアンダーハンドの三橋投手であった。選抜では初戦で岩国に4番小林のホームランで勝利すると、2回戦では優勝候補の一角の日大三を三橋が完封。番狂わせを演じて一気に注目を浴びると、その後もスラッガー加藤を擁する海星や強打の今治西を退けて決勝まで進出した。決勝では三橋が連投の疲れもあって相手打線につかまってしまったが、見事な準優勝であった。その後、2001年には常総学院、藤代と3校アベック出場を達成。常総学院も2001年選抜、2003年夏と全国制覇を果たすなど、1999年~2003年の間はまさに茨城野球の黄金期であった。
2000年 智辯和歌山
1999年 秋季近畿大会
1回戦 ●1-3 東洋大姫路
2000年 選抜大会
1回戦 〇20-8 丸亀
2回戦 〇9-6 国士館
準々決勝 〇1-0 柳川
準決勝 〇10-2 国学院栃木
決勝 ●2-4 東海大相模
1990年代から2000年代にかけて黄金期を築いた智辯和歌山。その中でもとりわけ高校野球ファンの記憶に残っているのが、2000年の智辯和歌山だろう。しかし、実は前年秋の近畿大会では東洋大姫路のサイドハンドの好投手・山脇を打てずに初戦敗退。近畿大会で出場権を勝ち取るには最低でも8強以上に入らないといけないため、出場は絶望的と思われた。しかし、近畿大会初戦の2日前まで国体で熊本にいた日程的な不利さ、武内(ヤクルト)・池辺・後藤の中軸の強打の魅力を鑑みて、まさかの逆転選出をつかみ取った。
この選考は選考委員にとっても非常に勇気のいる決断だっただろう。選出してもらった恩を返すために、高嶋監督にもプレッシャーがかかったことは想像に難くない。そんな中で、初戦は丸亀を相手に24安打20得点と大爆発。これで勢いに乗ると、2回戦では大会No.1左腕の国士館・小島(広島)から8回に一挙8点を奪って逆転勝ちし、その後も柳川、国学院栃木に勝利して決勝まで勝ち進んだ。決勝では筑川擁する東海大相模に惜敗したものの、重圧をはねのけてしっかりと成績を残した。夏には強力打線が大会記録を次々塗り替えて優勝を果たすわけだが、このチームが選抜に選ばれてなかったら誕生していなかったわけであり、選考委員の見る目の確かさを証明する結果となった。
2002年 鳴門工
2001年 秋季四国大会
準決勝 ●3-7 明徳義塾
2002年 選抜大会
1回戦 〇7-5 酒田南
2回戦 〇3-2 大体大浪商
準々決勝 〇19-1 広島商
準決勝 〇3-1 関西
決勝 ●2-8 報徳学園
2001年夏に丸山ー濱永の2年生バッテリーで夏の甲子園に出場した鳴門工。新チームにはバッテリーを中心としてメンバーが複数残り、選抜への期待が高まっていた。しかし、この当時の四国地区はレベルが高く、特に2002年は春夏の出場校がすべて8強以上に進出するハイレベルぶり。鳴門工も準決勝まで勝ち上がったものの、翌年夏に優勝する明徳義塾に3-7と敗退した。しかし、同じく準決勝で尽誠学園に5-9と敗れた高知高校が明徳と同じ高知県だったこと。同じ4点差の敗退だったことから鳴門工に出場権が回ってきた。この3-7の試合も9回裏に3番山北の2点タイムリーで1-7から4点差に詰め寄っており、この一打がなければもしかすると高知高校が出場権を獲得していた可能性はある。
こうして選抜に出場した鳴門工は酒田南、大体大浪商を接戦で退けてまずは8強に進出。準々決勝では1番佐坂の6安打の活躍など猛打で広島商を圧倒し、準決勝で大会No.1左腕・宮本(日本ハム)を延長10回に連続スクイズで攻略とあれよあれよの快進撃で決勝まで駒を進めた。カーブを武器とするエース丸山と濱永の小学生からのバッテリーの息の良さも光った。鳴門工は2001年から5年連続で春夏どちらかの甲子園に出場。準優勝1回、ベスト8が2回と黄金期を築いた。
2009年 花巻東
2008年 秋季東北大会
準決勝 ●3-6 光星学院
2009年 選抜大会
〇5-0 鵡川
〇4-0 明豊
〇5-3 南陽工
〇5-2 利府
●0-1 清峰
全国屈指の左腕・菊地雄星(マリナーズ)を擁し、2年ぶりの甲子園を狙っていた花巻東。しかし、東北大会の準決勝で下沖(ソフトバンクを)擁する光星学院に3-6と惜敗。事実上甲子園への道は閉ざされたかと思われた。ところが、決勝で同じ岩手の一関学院が光星学院に大敗。岩手県大会決勝では花巻東が一関学院を大差で下しており、花巻東が逆転で選出された。一関学院も2008年の選抜に希望枠で出場し、甲子園のマウンドを経験した投手を複数擁していたが、菊池雄星の存在が選考に大きく影響を与えたのだろう。
迎えた選抜では初戦で優勝候補の一角の鵡川と対戦。神宮で4強入りし、パワーヒッター揃いの打線を相手に菊池雄星が9回1アウトまで無安打の快投を披露し、5-0と快勝を収めた。これで勢いに乗った花巻東は今宮(ソフトバンク)擁する明豊や2年生エース岩本(阪神)の南陽工を撃破。準決勝では利府との東北対決を制し、決勝進出を決めた。決勝では今村(広島)の清峰に完封負けを喫したが、それまで出ては初戦負けだった岩手のイメージを一気に変えた大会となった。以後は、出場するたびに上位に顔を出しており、この年の出場がなければ、花巻東の活躍もなかったかと思うと、非常に大きな意味を持つ「選考」であった。
2010年 日大三
2009年 秋季東京大会
準決勝 ●4-5 帝京
2010年 選抜大会
〇14-4 山形中央
〇3-1 向陽
〇10-0 敦賀気比
〇14-9 広陵
●5-10 興南
2009年夏に4年ぶりの甲子園出場を果たし、山崎(オリックス)、吉沢らスタメンも残っていた新チームの日大三。選抜出場が期待されたが、東京都大会準決勝で伊藤拓郎(DeNA)、山崎康晃(DeNA)、鈴木と分厚い投手陣を擁する帝京に4-5と惜敗。そもそも東京都の枠も1校だけの可能性もあり、出場は絶望的かと思われた。しかし、東京都大会決勝で帝京が東海大菅生に13-1と大勝。これによって惜敗した日大三の評価が上昇し、関東5校目との比較にも勝利して夏春連続出場を勝ち取った。
本大会では1回戦、2回戦と連続して21世紀枠と対戦。山形中央の2年生エース横山(阪神)や向陽の技巧派投手・藤田を攻略し、ベスト8に進出すると、準々決勝、準決勝でも2桁得点をった飽きだした。特に準決勝の広陵戦ではエース有原(日本ハム)に集中打を浴びせ、8回裏に一挙10得点のビッグイニングを記録。改めて日大三打線の恐ろしさを印象付けた。決勝では島袋(ソフトバンク)擁する興南に惜敗したものの、この年のメンバーが残った翌年には10年ぶりの全国制覇を達成。この2年間で再び黄金期を築いたことを考えれば、非常に大きな逆転選考となった。
2013年 済美
2012年 秋季四国大会
準決勝 ●4-5 鳴門
2013年 選抜大会
〇4-3 広陵
〇4-1 済々黌
〇6-3 県岐阜商
〇3-2 高知
●1-17 浦和学院
1年生時から速球派投手として注目を集めた済美・安楽(楽天)。1年夏は準決勝で今治西に惜敗したが、秋季大会は順調に勝ち上がり、準決勝で甲子園経験メンバーを多く擁する鳴門と対戦した。済美が終始主導権を握りながら試合を進め、9回裏を迎えた時点で4-1とリード。しかし、9回裏に安楽が突如渦潮打線につかまり、一挙4失点でまさかの逆転サヨナラ負けを喫した。中国四国地区で合わせて5校選出だったため、選ばれるか微妙な状況だったが、安楽の右腕に期待する声が大きく、優勝した2004年以来の選抜を勝ち取った。
大会では初戦でいきなり優勝候補の広陵と対戦。3点リードの9回表に安楽が捕まって追いつかれ、前年秋の鳴門戦と似たような展開となったが、延長13回裏に相手守備陣の乱れもあってサヨナラ勝ちを収めた。これで勢いに乗った済美は済々黌・大竹(ソフトバンク)や県岐阜商・藤田といった大会屈指の好左腕を擁するチームを相手にいずれも終盤8回に勝ち越し点を奪って勝利すると、準決勝の高知戦でも8回に山下が決勝ホームランをマーク。安楽頼みと揶揄されたチームだったが、勝負強い打線がエースを援護した。初出場初優勝した2004年以来、なかなか勝ち上がれなかった済美だったが。この年を契機に再び上昇カーブを描いた。
2016年 智辯学園
2015年 秋季近畿大会
準々決勝 ●4-9 大阪桐蔭
2016年 選抜大会
〇4-0 福井工大福井
〇4-1 鹿児島実
〇6-0 滋賀学園
〇2-1 龍谷大平安
〇2-1 高松商
1年生時に甲子園を経験したエース村上を擁し、新チームを発足した2015年秋の智辯学園。4番ショートの広岡(ヤクルト)が抜け、1年生の太田を1番ショートで起用するなど、未知数の状態でスタートした。近畿大会では初戦で神港学園を下し、準々決勝でエース高山(日本ハム)らを擁する大阪桐蔭と対戦。村上が捕まり、中盤までに大量リードを奪われてあわやコールド負けの展開となった。しかし、終盤に反撃して4-9となんとかコールド負けは回避。地域性の兼ね合いもあって岡本和真(巨人)を擁した2014年以来2年ぶりの選抜をつかみ取った。
選抜では3番太田、4番福元と2年生を中軸に起用。これによって秋に中軸を打っていた上級生を後ろに回すことができ、打線に厚みが増した。大会では開幕戦で村上が福井工大福井を完封すると、鹿児島実、滋賀学園と村上の好投と勝負強い打線の後押しで下して4強に進出。迎えた準決勝では龍谷大平安に1点リードされて迎えた9回裏に見事な集中打でサヨナラ勝ちを収め、学校史上初の決勝進出を果たした。決勝は神宮王者で強打の高松商と対戦。村上ー岡沢のバッテリーがインサイドを強気について、高松商打線を抑え込むと、最後は延長11回裏に村上自身がサヨナラ打を放って初優勝!史上初めてサヨナラ打で優勝を決めたエースとなった。
それまで奈良県では天理と2強と言われながら、全国制覇には縁がなかった智辯学園だったが、その夢をかなえたのは、当落線上から出場を果たし、小粒ながらも投打にまとまって着実に成長を遂げた高校生らしい好チームであった。
まとめ
いかがだったでしょうか?こうしてみると、ちょっとした運命の分かれ目から一気にチャンスをつかんだことがよくわかりますね。運と言っては失礼かもしれないが、与えられたチャンスを活かせるかどうか、チャンスが来る前にしっかり準備を積み重ねられるかどうかが、野球に限らず人生においても大事なことだと痛感させられます。自粛ムードで暗い話題も多いですが、自分にできることをこつこつと積み重ねていきたいものです。
コメント
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