右投手 ダルビッシュ有(東北)
4季連続出場を果たしたV候補筆頭の東北。その絶対的エース・ダルビッシュ有(パドレス)が最後の夏に圧巻の投球を見せた。度重なる故障や時折見せていたサイドスローに対する批判、そして選抜でのショッキングな敗退と苦汁をなめ続けてきたが、春季東北大会・夏の宮城大会と圧倒的な勝ちっぷりで春夏連続出場を達成。ダルビッシュはもはや名前だけで相手を威圧できる存在になっていた。
初戦は強打者・中西(ソフトバンク)を擁する北大津打線に8安打を浴びながらも、勝負所でのヒットは1本も許さずに完封発進。続く2回戦は一昨年の夏に下級生だけで8強入りし、1番浜村、3番中山ら経験豊富な打者を揃える遊学館が相手だった。
事前にダルビッシュを機動力で揺さぶろうと対策を練ってきた遊学館だったが、ダルビッシュはその話を知ってか知らずか、この試合では再三けん制でタッチアウトを奪い、終わってみれば3安打で完封。投手としての総合力の高さを見せつけた。3回戦の千葉経大付戦で雨中の戦いとなり、不運な失策で散ったが、最後の夏に見せた円熟の投球に心身ともに成長した跡がうかがえた。
2004 ダルビッシュ有 2 甲子園-夏 – YouTube
左投手 松本啓二郎(千葉経大付)
今大会最大のアップセットを果たした左腕エース。桜美林時代に優勝投手となった父との親子鷹としても注目された。右腕・井上との左右2枚看板を中心に守り勝つ野球で初出場を果たした千葉経大付だったが、地力は高く評価されていたものの、本大会でどこまでやれるかは未知数であった。初戦で右腕・井上が好投して鳴門第一に4-1と快勝し、2回戦でいよいよ松本が先発のマウンドに上がった。
スラッガー二瀬を中心に初戦で10得点を挙げた富山商打線に対し、松本はインサイドを強気に突く投球で得点を与えない。終盤はピンチの連続だったが、ライトが好返球でホームタッチアウトを奪うなど、内外野が堅守で盛り立て、見事6安打完封勝利を挙げた。
そして、ハイライトとなったのが3回戦の東北戦。4季連続出場中のV候補筆頭であり、しかも投げ合う相手はあのダルビッシュ有である。しかし、7回に1点を先行されるも、雨の中粘り強い投球で踏ん張り続けると、最終回にぬかるんだグラウンド状況で奇跡の同点劇が起こった。延長10回に勝ち越すと、最後の打者はダルビッシュを三振に切って取り、1失点完投勝ち。戦前の予想を覆してV候補筆頭を倒した。
最後は選抜王者の済美に屈するも、初出場でベスト4という快挙を成し遂げ、鮮烈な印象を高校球界に残すことに。2008年まで5年間続いた千葉経大付時代の華々しい幕開けであった。
2004 86回大会 2回戦 千葉経大付 vs 富山商 平成16年 – YouTube
捕手 糸屋義典(駒大苫小牧)
北の王者誕生の立役者となった扇の要。前年夏に2年生捕手として降雨再試合での敗退を経験した男は、最後の夏に岩田・鈴木の両左腕を強気のリードで引っ張る。3回戦では強打の日大三打線から17三振を奪えば、準々決勝では試合巧者の横浜のスクイズを見破って1点に封じ込めた。
また、大会を通して20打数14安打と打棒も爆発。大会終盤は投手陣に疲れも目立ってきたが、それをカバーして有り余る破壊力を示した。特に決勝の済美戦では3点を勝ち越された直後の攻撃で、無死1塁からの強攻策に応えて2ランをお見舞い。相手に傾きかけた流れを強引に引き戻した一打には、捕手としての試合を読む嗅覚も働いていたのかもしれない。
一塁手 佐藤俊司(横浜)
マグマ打線と恐れられた2004年の横浜打線。石川(横浜)、橋本、赤堀に1年生の福田(中日)とタレントぞろいだったが、その打線の核弾頭を担ったのが「イケメン」の左打者・佐藤であった。神奈川大会では5連投となったエース涌井を打線が強力援護。決勝戦の神奈川工戦では12得点をたたき出し、3年ぶりの代表切符をつかんだ。
迎えた甲子園初戦では報徳学園の2年生エース片山(楽天)から16安打8得点をたたき出して、好調なスタートを切る。2回戦では京都外大西のアンダーハンド右腕・大谷に苦しんだが、佐藤は3安打を放ち、3番石川とともに攻撃の起点となった。
そして、V候補対決となった3回戦の明徳義塾戦では同点で迎えた8回にこれまた右サイドの松下(西武)から決勝のタイムリーを記録。引き付けて強い打球を放つシュアな打撃でチームの8強入りに貢献した。
第86回夏甲子園3回戦【横浜vs明徳義塾】2004年8月17日 – YouTube
横浜vs明徳義塾 2004年夏 – 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)
二塁手 林裕也(駒大苫小牧)
今大会最も観衆を驚かせたのはこの選手だっただろう。駒大苫小牧の7番セカンドとして開幕当初は好選手の一人という位置づけだったが、準々決勝で高校野球ファンならよくご存じの大ブレークを果たした。相手はエース涌井(楽天)を擁するV候補の横浜。2回戦では京都外大西との延長戦を制し、3回戦では明徳義塾との強豪対決も制していた。3回戦でもう一つのV候補・東北が敗退したこともあり、8強の中で横浜が最も評価が高かったのは想像に難くない。
ところが、その大会屈指の好投手・涌井が序盤からボールが走らない。神奈川大会から続く連投でついに限界を迎えたか。速球は走らず、変化球は丈目に浮く。これを7番林のバットがことごとくとらえ、2回の先制ホームランを皮切りに、2塁打、3塁打といずれも打点付きの長打を放って横浜から着々と加点。7回にはこれまたタイムリーとなる単打を放ってとうとうサイクルヒットを達成してしまった。
試合前の打撃練習ではチーム全体としてあまりいい当たりが出ていなかったが、甲子園本番ではV候補・横浜を完膚なきまでに叩きのめし、香田監督を驚かせた。思えば、この林のサイクルヒットによるV候補撃破が、駒大苫小牧伝説の幕開けであった。林は準決勝からは3番に昇格し、2試合連続でタイムリーを放つ大活躍。駒苫は初優勝を果たすとともに、翌年の頼れる主将も手に入れた。
三塁手 仲沢広基(東海大甲府)
東海大甲府を久々の全国4強に導いたスラッガー。前年夏は県大会10ホームランを記録しながら、甲子園本番では選抜優勝投手の広陵・西村(巨人)に完封負け。悔しさを味わったチームは前年ほどの派手さはないものの、水野・三森といった好投手を擁する甲府工の春夏連続出場を阻み、2年連続の山梨代表の座をつかんだ。
ところが、県大会でチーム打率が2割7分台だった打線が、甲子園本番では爆発。1番古屋、3番清水、そして4番仲沢の上位打線を筆頭に下位まで切れ目がなく、西日本短大付・藤村や佐土原の金丸・黒木といった一線級の好投手たちを次々に攻略していった。3回戦では聖光学院に一時2-8とリードを奪われるも、最終回に3番清水のサヨナラ3ランが飛び出して奇跡の逆転勝ち。勢いに乗って8強に駆け上がった。
迎えた準々決勝は12年前の夏の甲子園で4-7と敗れている名門・天理が相手。柴田、山下の長身右腕2人を擁するまとまったチームであった。しかし、その先発・柴田の長身から投げ下ろすフォークを初回に仲沢がとらえると打球はレフトスタンドに届く2ランホームランに。長いリーチを活かした一打で主導権を握った東海大甲府は中盤までに相手の2枚看板を完全に攻略。10-3と完勝で4強入りを決めた。
準決勝では優勝した駒大苫小牧に惜敗したが、この試合でも一時7点あったビハインドを2点差まで詰め寄る猛反撃を見せた。最終回にタイムリーを放った仲澤は大会通算で23打数12安打と大爆発。前年の悔しさを見事に晴らす大会となった。
2004年夏・甲子園準々決勝 東海大甲府vs天理(ハイライト) – YouTube
遊撃手 佐々木孝介(駒大苫小牧)
駒大苫小牧を初の全国制覇に導いた主将。プレー面だけでなく、「北海道をなめるな」という言葉に代表されるように、全国の猛者たちに堂々と挑戦状をたたきつけるメンタルの強さも持ち合わせていた。特に準々決勝の横浜戦では、大会開幕前の試合前練習で横浜高校に不遜な態度を取られたことに怒りをあらわにし、完全に格上の相手に対して、「絶対につぶす」と息巻いて見事勝利を手にした。
もちろんプレー面でも6番ショートとしてチームを牽引。準々決勝では涌井から貴重な追加点をたたき出すタイムリーを放てば、決勝でも中盤に逆転打となるタイムリーをマークするなど、ここぞの場面で大事な一打を放った。全国制覇達成に向けて彼のリーダーシップが不可欠だったことは間違いないだろう。
左翼手 鵜久森淳史(済美)
選抜で2ホームランを放って全国がマークする存在となった4番鵜久森。しかし、夏の愛媛大会では3番高橋(阪神)が諸事情で離脱したこともあってマークが集中し、苦手の内角攻めにも苦しんで16打数2安打と低調に終わった。
復活を期待された選手権大会初戦は選抜で2試合連続完封を達成した秋田商の剛腕・佐藤(広島)。当然鵜久森が苦手とするインサイドを攻めてきたが、そのボールを狙いすましたように一閃した打球はレフトスタンドへ飛び込み、全国屈指のスラッガーは開眼した。
その後も岩国・梅本、千葉経大付・松本(横浜)からホームランをマーク。特に千葉経大付戦のホームランは一度ホームラン性の当たりを放ちながらファウルになるも、打ち直しでスタンドに放り込んで観衆を驚愕させた。巻き込むようなスイングで基本引っ張り傾向だったが、卓越したヘッドスピードと迷いのない姿勢が成せるプルヒッティングであった。
2004 86回大会 2回戦 済美 vs 秋田商 平成16年 – YouTube
中堅手 甘井謙吾(済美)
選抜では不調をかこった済美のトップバッター甘井だったが、その借りを返さんと選手権の舞台では爆発した。初戦から秋田商の剛腕・佐藤(広島)を打ち込むと、岩国戦ではセンターの守備でもダイビングキャッチを決め、攻守に活躍を見せた。
前年秋の神宮で対戦したダルビッシュ有(パドレス)を驚愕させたように、もともとスイングスピードはトップクラス。夏は逆方向への意識も目立ち、しっかりボールをとらえてはじき返した。その後も、準々決勝では中京大中京・小椋から先頭打者弾、準決勝では千葉経大付・松本(横浜)から同点タイムリーと一線級の投手から結果を残し、大会通算でも打率4割を記録した。
2004 86回大会 準決勝 済美 vs 千葉経大付 平成16年 – YouTube
右翼手 小川佳矩(中京大中京)
愛知大会で好投手・岩田(中日)を擁する東邦、選抜準優勝の愛工大名電という選抜出場校を連破した中京大中京。決勝でも2年生エース森福(ソフトバンク)が率いる豊川に競り勝ったが、その豊川戦でタイムリーを放った3番亀谷が甲子園本番で入院することになってしまった。2年生とはいえ、チームの中核を失った動揺は計り知れないものがあった。
しかし、ここで結果を残したのが代役で登場した1年生の小川。線番号17ながら3番を任されるとシュアな打撃でチームに貢献した。中でも2回戦の浦和学院戦では同点で迎えた最終回に満塁のチャンスで左中間を深々と破る走者一掃のタイムリー3塁打を放ち、逆転勝利に貢献。突如現れたシンデレラボーイに観衆は沸き立った。
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