右投手 山田陽翔(近江)
今大会出場校の投手の中で最も存在感を放ったのが近江のエース山田だっただろう。昨夏4強の原動力となったこと、そして京都国際の出場辞退により急遽出番が回ってきたこともあり、開幕前から注目される存在であったが、大会が始まるとその実力の高さが際立ったものであることを証明していった。
初戦の長崎日大戦は2点を先行される苦しい内容となったが、右ひじの故障をきっかけに改造した投球フォームにより、ボールをより前で放すことで角度とキレは前年より格段に増していた。しっかりとコースに決まった時のストレートはほとんどとらえられることはなく、スライダー、フォークとの縦のコンビネーションで相手打者を翻弄していった。
準決勝の浦和学院戦では足に死球を受けながらも続投。一昔前なら美談になっていたエースの力投も今は賛否両論が上がる時代になったが、それでもこの大会、そしてこのチームにおいて山田は欠くことのできない存在であることは誰の目にも明らかであった。決勝は故障と疲労から序盤でKOを喫したが、滋賀県勢初の決勝進出に導いた近江のエースは、夏の全国制覇に向けて、再び走りだしているだろう。
【第94回選抜】近江・山田陽翔投手 長崎日大戦 ピッチング – YouTube
左投手 香西一希(九州国際大付)
技巧派投手の持ち味を最大限発揮したのが、九国のエース左腕・香西であった。初戦のクラーク国際戦は、神宮大会の再戦とあって、序盤は相手打線の積極的な攻撃に苦労した。ところが、一度見て攻略法をつかんでいたはずのクラーク打線が4回からぱたりと止まる。分かっていても打てないコーナーワークと緩急、そしてストレートのキレを前に結局中盤以降は一人のランナーも許さず、サヨナラ勝ちを演出。香西の安定感ある投球が導いた勝利であった。
続く2回戦は広陵とのV候補対決となったが、この試合でも初戦で猛打賞を記録した広陵の左打者陣を翻弄。3番内海、4番真鍋という大会屈指のスラッガーに対しても、まったく自分のスイングをさせず、1失点完投勝ちをおさめ、広陵・中井監督にもショックを与えるほどの内容であった。
準々決勝では浦和学院打線の引き付けてはじき返す打撃の前に終盤力尽きたが、夏に向けてさらにスピードとキレを増せば、まだまだ上位で通用するはず。再び甲子園に姿を現してほしい投手である。
【第94回選抜】九州国際大付 ー 広陵 ハイライト – YouTube
捕手 岸本紘一(金光大阪)
春夏通算4度目の出場で初勝利を挙げ、一気に8強まで勝ち上がった金光大阪。4番捕手として攻守でチームを牽引したのが、岸本であった。決して強打とは言えないチームに合って岸本の打撃は貴重な得点源となり、センターから逆方向へ素直に打ち返す打撃で1,2回戦ともに得点に絡んだ。特に木更津総合戦のタイムリーは相手エース・越井の投球に押されっぱなしの展開の中で飛び出した貴重な一打であった。
また、守ってはエース古川の長所を最大限に引き出し、守り勝つ野球を体現。変化球主体に攻めのピッチングでカウントを整え、常にバッテリー有利な状況で相手打者との勝負に臨んでいた。東海王者・日大三島、V候補の木更津総合とタレントの揃う相手に対しても臆することなく攻め切ったのは見事であった。
準々決勝は近江との再戦に敗れたが、この試合でもチーム唯一の得点となるタイムリーを放ち、一時は同点に追いついた。岸本の存在なくして、今年の金光大阪の戦いはなかったと言っても過言ではないだろう。
【第94回選抜】金光大阪 ー 木更津総合 ハイライト – YouTube
一塁手 丸山一喜(大阪桐蔭)
大会タイ記録となる8打席連続ヒットを放った大阪桐蔭の主砲。準々決勝以降は4番に座り、記録的な猛打を見せた大阪桐蔭打線を牽引した。ホームランこそ出なかったものの、広角に打ち分ける打撃は相手バッテリーにしてみれば実にやりにくかったに違いない。
準決勝の国学院久我山戦では初回に左腕・渡辺が執拗にインサイドを攻めてのけぞらせようとしたが、それでも体を開かれずにインサイドやや甘めのボールをはじき返して長打を記録。かと思えば、アウトサイドのボールはきっちり左中間に打ち返すなど、コースごとの打球の打ち分けがしっかりできている選手であった。
ホームランばかりに目が行きがちだったが、丸山のシュアな打撃が相手に与えたプレッシャーは非常に大きなものがあった。
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二塁手 星子天真(大阪桐蔭)
大坂桐蔭を4度目の選抜制覇に導いた主将。昨年は春夏ともに早期敗退し、タレントぞろいだったにも関わらず、結果を残すことができなかった。その姿を見ていた一つ下の星子達の代は、より謙虚な気持ちで練習に没頭し、西谷監督曰く「試合に出ることに飢えた学年」がスキのないチームに仕上がっていった。
初戦の鳴門戦では1点リードの8回裏に貴重なスクイズを決めれば、準々決勝では5回に試合の行方を決定づける3ランを記録。大技小技を使いこなす、これだけの打者が7番に座っているのだから、強いわけである。全打者が決して振り回すことをせず、各々の役割を高いレベルできっちり果たす今年の大阪桐蔭。昨年の屈辱からジャンプアップした王者を今後倒すのは容易ではなさそうだ。
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三塁手 中瀬樹(近江)
3番サードと、攻守でチームのキーマンとなった中瀬。エースで4番の山田は初戦こそ決勝タイムリーを放ったものの、大会を通して打撃の調子はあまり良くなかった。そんな中で、中瀬は左打席からのシュアな打撃でチームの得点の絡む活躍を見せた。聖光学院・佐山や金光大阪・古川といったコントロールと出し入れで勝負する投手にとってはやりにくい打者だっただろう。
近江が強い時は2018年の住谷や昨年の明石のように左の巧打者タイプが多いが、中瀬もその例にもれず、安定した打撃でヒットを量産した。
また、サードの守備で光ったのは何といっても準決勝の浦和学院戦のダイビングキャッチ。2点を先制され、山田が浦和学院の強力打線に捕まりかけていた中で、サードライナーをダイビングで好捕し、飛びだした3塁ランナーも殺して併殺に。相手に傾きかけた流れを呼び戻すには十分な好守備であった。
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遊撃手 金田優太(浦和学院)
投攻守にわたってチームに貢献した3番ショート。まさに野球センスの塊という言葉がピッタリ似合う選手であった。中でもバッティングの鋭さはひときわ目を引くものがあり、和歌山東戦のホームランを筆頭にライナー性で野手の頭を超す打球を放ったと思えば、九州国際大付属では逆方向への巧みな打撃で好左腕・香西からタイムリーを放ち、柔と剛を兼ね備えた打撃を見せた。
また、ショートとしても、広い守備範囲と強肩で投手陣を助け、好プレーを連発。準決勝では3番手でマウンドに上がり、サヨナラホームランこそ浴びたものの、相手エース山田と最後まで堂々と投げ合った。浦和学院の夏の全国制覇に向けて、金田の活躍は欠かせないだろう。
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左翼手 津沢泰成(星稜)
星稜の下位打線のキーマンとして躍動した巧打者。上位陣にパワーヒッターが多く並ぶ中、7番に津沢というチャンスメークも決める役割もできるアベレージヒッターがいたことで、星稜の得点力を確かなものにした。初戦は天理の長身サイド右腕・南沢に打線が苦戦を強いられる中で、先制の犠飛と2本のヒットを記録。2回戦でも大垣日大のハイレベルな投手陣から複数安打をマークした。
準々決勝で国学院久我山に逆転負けを喫し、4強進出はならなかったが、3試合で10打数5安打は立派な数字。右にも左にも巧みなバットコントロールでヒットを繰り出す技術は、夏の活躍も十分期待させるものであった。
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中堅手 黒田義信(九州国際大付)
強力打線が看板の九州国際大付打線を力強く牽引したトップバッター。初戦こそ本領発揮ならなかったが、2回戦の広陵戦では4打数4安打4打点でチームの全得点をたたき出す大活躍を見せた。広陵の投手陣も球威のあるボールを操る本格派ぞろいだったが、そのストレートに全く力負けすることなく打ち返し、パワーのあるところを見せた。
準々決勝は浦和学院の左腕・宮城に苦しめられたが、この試合でも複数安打を記録。基本的に引っ張るスタイルの打撃だったが、しっかりポイントまで引き付けて振りぬくパワーは前評判通りであった。
右翼手 寺田椋太郎(市立和歌山)
昨年は打力不足に苦しんだ市立和歌山だったが、今年は初戦の花巻東戦で5得点を挙げるなど、前年から大きく成長したところを見せた。中でも4番寺田は打率4割を超す成績で打点を荒稼ぎ。花巻東の技巧派左腕・萬谷に対して、センターから逆方向への打撃で活路を見出し、3安打の猛打賞でエース米田を援護した。チーム全体で見ても無理に引っ張りにかからない意識が浸透しており、パワーはなくとも点の取れる攻撃ができていた。
2回戦の相手は関東王者の明秀日立だったが、この試合でも寺田は貴重な同点タイムリーを記録。米田が先制点を許した直後の攻撃だっただけに、試合の流れを呼び戻す一打となった。
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