熊本工vs前橋工 1996年夏

1996年

工業校同士の息をのむ接戦

ベスト4がすべて公立校となった1996年夏。決勝の伝説のバックホームも含めて盛り上がりを見せた大会となった。その準決勝の第一試合がこの試合だ。

秋の県大会で初戦敗退し、新たに田中監督を迎えた名門・熊本工。社会人野球出身の新監督にみっちり鍛えこまれたチームは夏に1試合平均得点10点以上という強打のチームとして甲子園に帰ってきた。

初戦となった2回戦では注目の左腕・伊藤(ヤクルト)を擁する山梨学院大付属相手に5番古閑の2ランなど、集中打で12得点して圧勝。好スタートを切る。3回戦では死球を受けながら奮闘した主将・坂田の活躍で神田・溝渕と好右腕2人を擁する高松商に完勝すると、準々決勝では同じ九州の長崎・波佐見との打ち合いを制して見事ベスト4進出を決めた。自慢の強力打線は3試合で24得点と甲子園でもその威力を存分に発揮していた。

一方、前橋工は好左腕・斎藤を擁する守りのチーム。2回戦では好左腕・金城を擁する前原との一戦を9回サヨナラの1-0で制すると、3回戦の金沢戦では斎藤が2桁安打を浴びながらも粘投し、43で撃破した。

準々決勝の早稲田実戦では2回戦で逆転サヨナラホームランを放っている海星の2年生スラッガー稲垣を斎藤―赤城のバッテリーが完璧な配球で翻弄。終盤のスクイズで挙げた得点を守り切り、21で3試合連続1点差勝利という勝負強さを見せつけ、4強入りを決めた。

集中打で好左腕を攻略

熊本工

 0

前橋工

 

熊本工   園村

前橋工   斎藤

試合は2回裏、前橋工が捕手・赤城とヒットと失策・四球でノーアウト満塁の大チャンス。しかし、大須賀(巨人)、松島と連続でスクイズを失敗し、先制点のチャンスをフイにする。

 

すると、4回表2アウトランナーなしから熊本工は3番本多がレフトにうまく流してヒット。4番西本四球のあと、5番古賀が四球後の初球であるストレートを狙い打ってライト線へ2塁打。あっという間に先制点を奪うと、今度は6番に座る1年生沢村がレフト前へはじき返す2点タイムリー。直球をうたれたあとのカーブを狙い打っての見事な一打だった。

相手の考えをすべて読み切っての電光石火の3得点。さすが名門・熊本工といえる攻撃だった。

 

前橋工の左腕・斎藤としてみれば、打たれたヒットはこの回の3本だけ。一瞬の乱れを突かれた悔やんでも悔やみきれない回となった。

 

その裏、前橋工はスクイズを失敗した大須賀が挽回のタイムリーを放つと、5回にも1点を追加。しかし、6回には1アウト3塁から再びスクイズを失敗。準々決勝の海星戦では2得点をすべてスクイズで奪ったが、今日はどうしても電荷の宝刀が決まらない。

 

その後も熊本工の左腕・園村から相手の倍以上となる8安打を放ちながら、決定打が出ず。熊本工が実に59年ぶりの決勝進出を果たしたのだった。

 

1点差に笑ってきた前橋工は最後に1点差に泣くことになったが、見ごたえのある試合を繰り広げた戦いだった。特に左腕・斎藤の投球は見事で大会屈指の好投手だった。

 

一方、熊本工は決勝ではあの伝説のバックホームで松山商に敗れるも、高校野球ファンの心に突き刺さる名勝負を演出。名門復活を果たした夏になった。

 

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