鹿児島実vs岡山城東 1996年選抜

1996年

初ファイナルへの扉を開いた投手戦

1996年の選抜は4強を鹿児島実、岡山城東、智辯和歌山、高陽東と西日本勢が独占する形となり、西高東低の大会であった。そんな中、準決勝の第1試合でともに地区大会優勝校であるが、チームカラーは対照的な鹿児島実と岡山城東が顔を合わせた。

鹿児島実は、名将・久保監督に率いられ、何度も甲子園に出場してきていた伝統校。1974年に定岡正二(巨人)を擁し、原辰徳の東海大相模との死闘を制して4強入りした試合は今でも県内で語りぐさである。また、1990年から1991年にかけては春夏4大会連続で甲子園に顔を出し、いずれも8強以上に進出(1991年夏は4強)。しかし、スラッガー内之倉(ダイエー)などスター選手を擁して頂点に立つ力は十分持っていたが、最後は投手力で一歩及ばず、優勝を逃し続けていた。

そんな中、1996年世代はエース下窪と主将・林川の黄金バッテリーを擁し、久保監督も大いに期待を寄せるチームが出来上がった。これまでの攻撃型のチームと異なり、打線はやや小粒な感があったが、バッテリーを中心に守備力は高く、失点はかなり計算できるチームであった。下窪は大小2種類のスライダーと重い速球をアウトコース低めに集め、安定感抜群の投球を展開。鹿児島に初の優勝旗をもたらすのは彼しかいないと久保監督も思っていた。

大会が始まると、伊都・谷野、滝川第二・森安といった近畿勢との好投手との対戦が続いたが、いずれも接戦を制して勝ち上がる。特に前年秋の練習試合で4-5と逆転負けを喫していた滝川第二にリベンジを果たせたことは、ナインに勢いを与えた。準々決勝ではこれまた好投手の宇都宮工・向田を相手に今大会初めてリードを許すが、我慢の投球を続ける下窪の打線が応え、終盤に2-1と試合をひっくり返して、選抜では初となる4強進出を決めた。これまでとは一味違う、「守りの鹿実」が初優勝へ順調に歩みを進めていた。

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一方、岡山城東は県内屈指の進学校で、文武両道のスタイルを地で行く、公立校だ。しかし、山崎監督に率いられ、「考える野球」を浸透させたチームは、新興勢力としていきなり秋の中国大会を制覇する。主将・山上、エース坂本を中心に小柄な選手が多かったが、クレバーな野球で相手のスキを突くことができるのが彼らの強みであった。

そんな岡山城東の1回戦の相手はなんと昨夏の優勝校の帝京。2年生バッテリーだった白木-坂本が残った新チームは、そのまま秋の神宮も制しており、当時の高校球界最強のチームであった。しかし、試合が始まると、エース白木が指のまめをつぶすアクシデントで降板する不慮の事態に。城東のエース坂本が中盤につかまって、一時4点のリードを奪われるが、7回裏に集中打で一気に試合を振り出しに戻す。こうなると、勢いは岡山城東に。9回裏、再登板した白木を打線が攻め立て、最後は6番岡田のサヨナラ打で試合が決着。どこにでもいそうな公立校の生徒たちが、全国王者を打ち破るという、痛快な白星を挙げて見せた。

これで勢いに乗った岡山城東は、その後も浦和学院・明徳義塾と地区大会優勝校を3連続で破り、4強へ進出する。浦和学院・三浦貴(巨人)、明徳義塾・吉川昌(ヤクルト)といずれもスライダーが決め球のエースに対して、その決め球を狙い撃って攻略。エース坂本も右スリークオーターから内野ゴロを打たせる技巧的な投球で、3試合連続の完投勝利を挙げた。際立った選手がいなくとも考える力で、相手との差を埋める「城東野球」がその力を見せての快進撃。続くターゲットは九州地区優勝校の鹿児島実であった。

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冴えわたった名将の采配

1996年選抜準決勝

鹿児島実

1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 0 1 2 0 0 0 0 0 3
0 0 0 0 2 0 0 0 0 2

岡山城東

 

鹿児島実    下窪

岡山城東    坂本

試合は序盤、両エースの力投で0-0の滑り出しとなる。本格派右腕・下窪を岡山城東の考える力がどう攻略するか、そして技巧派右腕・坂本を勝負強い鹿実打線がどう捕まえるか注目されたが、1,2回はエースの投球が上回る。

こうなると、両チームにとって何としても欲しいのは先制点。先につかんだのは鹿児島実であった。この日、1番に抜擢された川田がヒットで出塁。犠打で二進すると、この代の鹿児島実で最も打撃センスのある3番松下が坂本のストレートをしっかりとらえて1塁線を破り、鹿児島実が1点を先制する。これまでもリードされる展開を跳ね返してきた岡山城東だが、やはり下窪相手の失点は意味合いが異なる、重い1点だ。

さらに4回表には鹿実打線がつながりを見せ、名将・久保監督のタクトも冴えわたる。先頭の7番岩切が2塁打で出塁すると、犠打で1アウト3塁となって打順は9番の和気。今大会、ここまで10打数無安打と絶不調のラストバッターに対して、当然スクイズがあるかと思われたが、ここは強攻を指示する。これに和気が応えて、センターの頭上を破るタイムリー3塁打を放ち、鹿実が大きな追加点を手にする。様子見で入った城東バッテリーのカウント球をしっかりとらえた打撃であった。

なお1アウト3塁となり、打席には1番川田。調子の良さを買われて1番に抜擢された男に対し、今度は一転してスクイズを敢行させる。これがまんまと成功し、3塁ランナーの和気が生還して3点目。不調のラストバッターに強攻させ、好調のトップバッターにはスクイズと、久保監督の采配ズバリといったところか。エース下窪に大きな3点をプレゼントした。

しかし、今大会最も勢いのある岡山城東も黙ってはいない。中盤、ややボールが高めに集まりだした下窪を攻め、6番絹田の死球と7番大東のヒットでチャンスメーク。犠打で1アウト2,3塁となると、9番吉山のタイムリと1番山上の併殺崩れの間に2点を返し、たちまち1点差となる。

これでさらに攻めかかりたい岡山城東は7回に1アウト1,2塁のチャンスを迎えるも併殺で無得点。鹿児島実の堅いディフェンス陣を崩せない。何より終盤になるにしたがった、再びアウトコース低めへの徹底した制球力を取り戻した下窪が決定打を許してくれなかった。

9回裏、岡山城東は先頭の4番永井がヒットで出塁し、スコアリングポジションに進むが、最後まで下窪の投球は安定していた。最後は中盤に出塁を許した6番絹田、7番大東をいずれもショートゴロに打ち取ってゲームセット。大物食いを続けてきた岡山城東を下し、鹿児島実が春夏通じて初のファイナル進出を決めてみせた。

 

迎えた智辯和歌山との決勝は試合前、珍しく弱気になった下窪が女房役の林川に「なんとか3点以上取ってほしい…」と懇願。これに対し、林川は「お前は大丈夫だから信じて投げろ」と励まして球場へ向かった。試合が始まると、初回から鹿実打線はエースに3点をプレゼント。相手の2年生エース高塚(近鉄)が球威が落ちているところを逃さなかった。下窪も疲労の色は濃かったが、我慢の投球で智辯打線を抑え、6-3で勝利。たびたび上位に進みながら優勝旗に届かなかった鹿児島県へ初の大旗を届け、歴史に名を刻むエースとなった。

一方、岡山城東も敗れはしたものの、強豪を次々に打ち破る鮮烈な快進撃を見せた。山崎監督の指導の下、限られた練習時間と空間の中で、工夫に工夫を重ねて強くなった岡山城東の姿は、高校野球に新たな可能性を感じさせるものであった。この大会を機に強豪としての地位を築いた岡山城東はその後も、2004年のエース出原など、好投手を擁してたびたび甲子園に出場。城東らしい、考える野球で全国の高校野球ファンを沸かせる戦いを見せた。

1996年 センバツ高校野球 帝京vs岡山城東 – YouTube

第68回(1996年)選抜高校野球大会準々決勝:明徳vs岡山城東 – YouTube

 

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