20世紀最後の夏を飾ったのは、史上最強の強力打線だった。智辯和歌山高校が見事に3年ぶり2度目の優勝。ここ7年で優勝3度、準優勝2度、ベスト4が1回とまさに平成の常勝軍団だ。この大会で成し遂げた打撃記録はすさまじく、11本塁打、100得点、チーム打率4割1分3厘はすべて大会新記録。鮮烈な印象を残した。(ちなみにホームランの大会記録の2位はKKコンビ最終年のPL学園の10本だったが、これはラッキーゾーンがあった時の話。今大会の智辯和歌山でもしラッキーゾーンがあった場合のホームラン数は24本とべらぼうな破壊力だった)
準優勝の東海大浦安、ベスト4の光星学院は前評判を覆す快進撃。ともに好投手を擁し、智辯和歌山を最後まで苦しめた。一方、もう一つのベスト4の育英は足を使った攻めで選抜開幕戦敗退の借りを返す活躍。夏も開幕戦登場に主将・上野の選手宣誓と大会の主役のような存在だった。
大会で飛び出したホームランは38本で大量得点の入る試合も多く、打高投低の大会の印象だった。智辯和歌山の堤野・山野、仙台育英・大場、鳥羽・中井と2打席連続ホームランを放った選手は4人を数えた。また、準々決勝の4試合がすべて1点差だったように競ったスリリングな展開が多く、観客を魅了した。
そんな中でも、柳川・香月(近鉄―巨人―オリックス)、浦和学院・坂本(ヤクルトー日本ハム―横浜―西武)、光星学院・根市(巨人―近鉄-楽天)、樟南・青野(ロッテ)、鳥羽・谷口らが好投を見せ、強力打線との対峙は見応えがあった。なかでも浦和学院・坂本は大会タイ記録の19奪三振を記録。2試合合わせて35奪三振、2試合連続毎回・全員奪三振と
素晴らしい投球だった。
地区ごとで振り返ると、どの地区も満遍なく勝ち上がった感があるが、なかでも九州地区は長崎日大・樟南・柳川の3校がベスト8入りと元気なところを見せた。
昨夏ベスト4、今選抜準優勝と一歩一歩階段を上っていた智辯和歌山は大会前から優勝候補の一角だったが、投手力・守備力の不安があったため、圧倒的な優勝候補と言われるまでにはいかなかった。しかし、大会が始まってみると超重量打線が火を噴いてそんな不安を一掃。対戦した投手も新発田農の五十嵐、中京大中京の高橋、PL学園の朝井(近鉄―楽天―巨人)・宮内、柳川の香月、光星学院の斎藤・根市、東海大浦安・浜名と一線級の投手ばかりを相手にした中での記録だっただけに素晴らしい内容だった。結局6試合で13失策と守備の不安は露呈したが、それを補って余りある打撃だった。
大会前、PL学園・明徳義塾・中京大中京と強豪校ばかりが居並ぶ超激戦ブロックに入ってしまったが、そこを力強く勝ち抜いた。
初戦は新潟大会防御率0点台の新発田農・五十嵐と対戦。しかし、引き付けてはじき返す
打撃で中盤以降攻略。ミスの多い試合だったが、まずは順調な滑り出し。しかし、2回戦以降は苦戦の連続。中京大中京戦は初回に正捕手・後藤が頭部に死球を受けて交代。相手先発・高橋の動揺に付け込んで攻め続けて7点を奪うも、7回に失策をきっかけにまさかの6失点。交代で入った1年生捕手・岡崎の落ち着いた盗塁阻止などでなんとか切り抜けた。3回戦はPL学園と新旧王者対決。序盤に池辺・山野のホームランなどでPLの2年生エース朝井をノックアウトし、9-1とするもPLが徐々に反撃。8点あったリードがあっという間に2点になり、PLのあきらめない野球に肝を冷やしたが、最後は後藤のこの試合チーム4本目のホームランで11-7と振り切った。
そして、準々決勝からは「8回の智辯和歌山」と言われる所以となる展開に。準々決勝で柳川・香月に抑え込まれて敗色2-6と濃厚だったが、ジョックロックが流れる中(アメトークでも特集!)で武内(ヤクルト)・山野の2ホームランであっという間に同点に。豆のつぶれた香月を終盤とらえ、最後は延長11回後藤のライト線タイムリーでサヨナラ勝ちを収めた。準決勝・光星学院戦では序盤の3点リードを3ランであっという間に同点にされる嫌な展開。相手の技巧派サイド斎藤に打線も大量点を奪えなかったが、中盤速球派の根市に交代したところで一気に攻略。真っすぐに狙い球を絞り8回の決勝点を含む4得点を挙げた。決勝は東海大浦安と対戦。握力がままならずシュートが抜け気味の浜名を終盤8回にとらえて一気に攻略した。打球のスピード、一気呵成の攻撃はため息が出るほどのものだった。序盤劣勢の中、2ホームランを放った主将・堤野も見事だった。最後の打球が彼のところに飛んできたのも何かの縁だと感じさせられた。
智辯和歌山の強さの要因はいくつもあるが、1.打力2.体力3.厳しさの3点がすごかったと何年も経過した今でも感じている。
- 140キロ付近のストレートならばいともたやすく弾丸ライナーで返してスタンドに放り込む力はすさまじく、PL学園の選手に「野球をやっていて初めて怖いと思った」と言わしめる脅威、速球投手ならば俺たちは絶対に攻略できるという自信があった。1チームだけ別次元の打線で戦っていた。
- 高嶋監督が最も自信を持っていた部分。6月から県予選中まで体力的に追い込みをかけることによって、監督いわく「Bランクの選手が特Aまで化ける」という。夏の連戦にも関わらず、智辯和歌山の選手だけが体の動きがほぐれていっていた。智辯和歌山の選手がBランクとはとても思えないのだが、少なくともPLに来るような選手と比べると相対的には…という話だったのだろう。
- 主将・堤野を中心にやはり全国制覇する選手にはそれだけの厳しさが必要なのだろう。決勝でセカンド小関がエラーをした際に、捕手が止めに入るほど厳しく叱責したというエピソードは聞いただけでも背筋が伸びるような思いだった。とにかく優勝したという思いが強かったのだろう。
ほかにもいくつも要因はあるだろうが、とにかく20世紀の最後を飾るにふさわしい豪快なチームだった。
https://www.youtube.com/watch?v=8d2mLuHiurs
東海大浦安は見事な準優勝。出場2回目での快進撃だった。チームは春先にエース井上が負傷(体育の授業中、サッカーをしていた時にやってしまったそう)し、急造エースとしてセカンドの浜名がマウンドを守った。この背番号4の「4」番でエースが躍動。初戦はエース神内(ソフトバンク)、4番小林と2年生の投打に主軸を擁す延岡学園と対戦。小林の2塁打から1点は取られたが10安打を浴びながらシュートを武器に粘投。打線も終盤8回に暴投と中村(中日―オリックス)のタイムリーで逆転。9回表に相手主将・笠江にランナー2塁からライト前ヒットを許したが、最後はライト相沢の好返球でタッチアウトとなった。このシーンは大会前半のハイライトシーンともいえる内容だった。
そして、大会が進むにつれて浜名の存在はクローズアップされていった。3回戦は桑原(横浜)ら擁する強打の日大豊山と対戦。桑原に2ランを浴びたが、わずか3安打2失点。外のスライダー、内のシュートで強力打線を翻弄した。準々決勝では横浜が打席の立ち位置を工夫。トップの大河原が右打席で後ろに引いてシュートを狙い打って2塁打。そこから、犠打・スクイズであざやかに先制も得点はこの1点のみ。スライダー主体にすぐ切り替えられて中盤以降全く手も足も出なかった。踏み込めばシュート、退けばスライダーと打者どころか、横浜ベンチごと手玉に取ってしまった浜名に天下の横浜高校の渡辺-小倉コンビも脱帽。渡辺監督をして「高校生レベルでは最高の投手」と言わしめた投球だった。
浜名の好投に呼応するように打線も奮起。大物うちこそいないが、逆方向にきっちり弾き返せる打者が揃い、2年生4番森の前にランナーが出て森が返すパターンで得点を重ねた。日大豊山戦では初戦完封のサイドハンド加藤を序盤であっさり攻略。準々決勝では横浜・小沢からワンチャンスを活かして得点するしたたかさも見せた。準決勝・育英戦では育英の控え投手陣を打ち込んで大量リードを奪い、浜名を楽にした。特に2年生4番森の活躍は素晴らしかった。浜名は握力の低下か育英戦の終盤以降苦しんだが、決勝でも8回まで智辯和歌山相手にリードを奪っており、展開的には浦安が勝ってもおかしくない展開だった。140キロに迫るようなボールはない中で左右の揺さぶりを武器に勝ち上がった投球は高校生のお手本のようなピッチングだった。
https://www.youtube.com/watch?v=T51HFDJIpjM
光星学院は青森県勢として太田幸司を擁した三沢高校以来31年ぶりのベスト4進出。前年の青森山田に続いて青森県勢が躍進を見せた。これまで洗平(中日)、児玉ら好投手を擁しながら甲子園初勝利が遠かった光星学院が一気に化けた。初戦は昨秋の四国王者の今治西
を打力でねじ伏せた丹原と対戦。序盤から相手の猛打を浴びる展開となったが、終盤に反撃。4番中村の3ランで逆転すると、8回には再びスクイズで再々再逆転。丹原打線に18安打を浴びながら打ち勝った。
3回戦からは前年の青森山田同様九州勢との連戦に。選抜にも出場している九州学院の反頭相手に好球必打。制球のいい反頭相手に待たずに打ちに行き、1番野里のホームランなどでリード。相手打線もさすがの粘りで追いついてきたが、最後は9回に長沢のタイムリーで勝ち越し。右サイドのエース斎藤が完投勝利を挙げた。下馬評では九学有利だったが、勝ったのは光星学院だった。
準々決勝はさらに下馬評で相手有利。前年青森山田が同じ準々決勝で敗れた鹿児島・樟南が相手だった。しかし、ここで光星学院の速球投手・根市が覚醒。最速146キロを記録した剛腕は勝負強い樟南打線に得点はおろかヒットするほとんど許さない。打線も樟南のエース青野を攻略。絶好調の3番北川のタイムリーなどで2点を奪いリードした。9回に樟南の猛反撃にあって1点差に迫られたが、最後はレフト小浜のバックホームでホームタッチアウト。樟南の2年連続のベスト4を阻んだ。
もう怖いものなしの光星学院は智辯和歌山戦でも北川が3ランを放ち、一時はリードを奪った。最後は速球投手を得意にする智辯和歌山打線に根市がつかまったが、それでも優勝校と互角の展開に持ち込んだ。2年連続の躍進で青森県勢の勢いを盤石のものにしたベスト4だった。
https://www.youtube.com/watch?v=ADoD68GSkK0
もう1校の4強の育英は昨秋近畿大会で優勝しながら選抜は開幕戦で敗退。国学院栃木の足を使った攻めに翻弄されて、最後までリズムをつかめないまま終わった。雪辱を期して、選抜後は合宿を敢行。ひたすら走り込みをする日々を送り、気持ちを切り替えた。兵庫大会を危なげなく勝ち抜いて迎えた夏の舞台はなんと再び開幕戦。しかも、主将・上野が選手宣誓をするというおまけつきだった。開幕戦の相手は秋田商業。これで直近の夏の出場3大会はすべて秋田県勢という縁だった(1990年夏、1993年夏と秋田経法大付と対戦、1990年夏は秋田経法大付・中川と育英・戎の壮絶な投手戦だった)
秋田商業のアンダーハンド菅原に対して、育英は自慢の機動力を駆使。1番川原の盗塁からチャンスを作り、3番栗山(西武)のタイムリーで自分たちのリズムを作ると小林、山下ら上位から下位まで切れ目のない打線が火を噴いて8得点。エースの橋本も選抜の経験を活かして落ち着いた投球。低めにコントロールよく投げ込み、相手の4番田村(広島)もきっちり抑え込んだ。
ここで勢いを得た育英打線はもうとどまるところを知らなかった。2回戦では北陸屈指の左腕の小松工・鹿野を相手にビッグイニングで一挙に逆転。足に長打を絡める野球で縦横無尽にグラウンドを駆け巡った。3回戦でも那覇を相手に攻め続けて12得点と快勝。準々決勝では長崎日大と対戦。2年連続で兵庫勢対長崎日大となった(前年は福沢(中日)擁する滝川第二が長崎日大にサヨナラ勝ち)。育英打線は7盗塁で相手の2年生投手・浜口と高倉を攻略。壮絶な打ち合いとなったが、最後は一打同点の場面で痛烈なセカンドライナーをダイビングキャッチ。8-7とルーズベルトゲームを制した。
準々決勝までの4試合で26盗塁、39得点の育英だったが、準決勝の東海大浦安戦は持ち味がなかなか出せない展開になった。エース橋本を温存したが、馬場・大畑が浦安打線に打ち込まれて9失点。打線も自慢の機動力が相手バッテリーの前に封じられる苦しい展開となった。しかし、7回に疲れの見えるエース浜名から上野・川原が2ランを打ち、8回には交代した井上からも3得点。結局届かなかったが、あわやという見せ場を作った。ベスト4に終わったものの、力を出し切れず敗れた選抜に比べれば大暴れできたのは一目瞭然。「足」の育英が智辯和歌山とはまた違った持ち味で地元近畿の夏を盛り上げた。
https://www.youtube.com/watch?v=Yq_smYwMVYk
長崎日大は3年連続出場で夏は初めてのベスト8入り、野球部の歴史に名を刻んだ。崎田・山中と強力2枚看板がいた前年と比べて、今年は投手陣が2年生主体の若いチームだった。しかし、4番捕手の山内が攻守でチームを牽引。2年生エース浜口をうまくリードした。浜口は低めへ丁寧に集める投球で富山商、酒田南を相手に完投勝利。特に酒田南戦は毎回の12奪三振。今大会一のピッチングを見せた。打線も岡田、須江、山内ら上位打線の活躍で先行し、守備でも富山商業戦でセンターの好返球でランナーを刺すなど攻守で浜口を野手陣が援護した。昨年敗れた3回戦では徳島商業と対戦。阿波の怪物ことスラッガー阿竹を見事な配球で封じ込み、終盤リリーフした阿竹から追加点を奪って6-2と快勝。相手のキーマンを機能させず、初の8強入りを決めた。準々決勝では育英との乱打戦に敗れたが、前評判の高かった前年を上回る好成績で夏を終えた。
https://www.youtube.com/watch?v=sLyE55FwIcw
樟南も2年連続出場で昨夏に続く上位進出となるベスト8。ここ数年鹿実の全国制覇や杉内のノーヒットノーランなど鹿児島勢が甲子園を席巻している。昨夏のメンバーが多く残り、エースで4番で主将と一人3役の青野(ロッテ)を援護する布陣。初戦は同じくエースで4番の玉山(広島)擁する山梨学院大付と対戦。青野が自ら先制打を放って中盤に玉山を攻略。
4-1と快勝した。2回戦は曲者・浜松商と対戦だったが、少ないチャンスを確実に活かして得点。チャンスでの勝負強さが際立ち、青野を中心に一枚岩になって相手の反撃と断った。3回戦は松商学園を相手に打線が爆発。福田の本塁打などで大量11点を奪って快勝した。しかし、準々決勝では光星学院の速球派・根市(近鉄)の前に打線が沈黙。勝負強さが売りの樟南打線だったが、そもそもチャンスすらなかなか作らせてもらえなかった。青野は力投を見せて2点でしのぎ、9回表に3安打を集中して反撃も最後は好返球でホームタッチアウト。前年破った青森勢に同じ準々決勝でリベンジを許した。しかし、福岡―田村(広島)のバッテリーの時以来、3大会連続でベスト8以上に進出。守りで勝つ樟南野球の強さを今年も証明した見せた。
https://www.youtube.com/watch?v=nFeEBBLdMAk
https://www.youtube.com/watch?v=8LGXY-h2PV4
2年前の春夏連覇校・横浜はさすがの強さで8強入り。今年も甲子園を沸かせた。初戦は佐賀北の好投手・北園と対戦。中学時代に清原を三振に取ったという逸材だったが、怪我のため本調子ではなく、横浜は大量得点。初回に2年生4番松浦が逆転2ランを放つと、投手・小沢にもホームランが飛び出して12-1と大勝した。エース小沢は松阪似のフォームから繰り出す速球とスライダーで相手を封じた。そして、より強さを見せつけたのは3回戦の鳥羽戦。相手の好投手・谷口に終盤まで無安打に抑え込まれるが、エース小沢が再三のピンチをしのぎ、強打の鳥羽打線を押し出しの1点のみに抑える。すると、終盤8回に相手失策からタイムリー3塁打で同点に。押せ押せのなか、9回裏黒瀬がセンターオーバーのサヨナラタイムリーで劇的な勝利を収めた。劣勢に見えても耐えて最後にまくってしまう横浜野球の強さは松阪を擁した2年前を想起させた(2年前の決勝の京都成章戦といい、何かと京都勢と横浜高校は縁がある様子、この3年後にも横浜と平安が対戦して横浜が勝利)。
しかし、準々決勝では東海大浦安の浜名の前に打線が沈黙。打席の立ち位置を変えるなど工夫を見せたが、2-1の点差以上の完敗だった。それでも横浜野球の質の高さは十分見せつけた夏だった。
https://www.youtube.com/watch?v=CCzJ2AyPHzc
柳川は春夏連続のベスト8。しかし、ベスト8のなかでは最も悔しい思いをした高校ではないだろうか。本格派右腕・香月(近鉄―オリックス-巨人)と九州一ともいわれた強力打線で優勝を狙って乗り込んできた。初戦は旭川大高の小さなエース植木を早々と打線が攻略。香月も新球ナックルを武器に好投し、まずは9-2と危なげなく発進。2回戦は初戦で大会タイ記録の19三振を奪った浦和学院・坂本と対戦。坂本のボールが浮いた立ち上がりを上位打線が攻略。宮城・松尾・永瀬ら強打者が痛打を浴びせた。結局2回以降は1得点で16三振を奪われただけに初回の得点がものを言った。三振数を競っていた香月は13三振と数では及ばなかったが、安定した投球で1失点完投勝利。この1年間つねに全国上位で戦ってきた柳川のチームとしての完成度の高さが浦和学院を上回った印象だった。
3回戦では選抜の広陵戦同様、広島の瀬戸内との対戦となったが、10-1と大勝。満を持して選抜と同じ準々決勝で智辯和歌山と対戦することとなった。序盤柳川打線が智辯和歌山の2年生投手・中家を早々とノックアウト。6-2と快勝ムードだった。しかし、8回表に1番池田が3塁打と相手守備のまずさを見てホームに突入するもタッチアウトとなり、この辺りから雲行きが怪しくなった。すると8回裏智辯和歌山の武内(ヤクルト)に弾丸ライナーでスタンドに運ばれて失点。さらに、ランナーを2人ためて6番山野には高めに浮いた変化球を左中間に運ばれてまさかの同点となった。ここで香月の親指の豆がつぶれ、柳川の命運は尽きた。その後も懸命のピッチングを見せたが最後は延長11回サヨナラ負け。完全な勝ち試合をアクシデントで落とし、この夏王者・智辯和歌山を最も苦しめたであろうチームは甲子園を去った。
https://www.youtube.com/watch?v=OV4tjDwoZPE
3回戦で敗れたチームにも強豪校が多く、上位校に劣らない力を見せた。
選抜4強の鳥羽はいきなり初戦で前年優勝の桐生第一と対戦。大会屈指の速球派・一場(楽天―ヤクルト)と対戦。初戦屈指の好カードで自慢の強力打線が火を噴いた。2回に暴投と中井のタイムリーで3点を先制すると、中盤には6番中井が2打席連続ホームラン。速球・変化球をそれぞれ完璧にライトスタンドへ運んだ。これだけの打者が6番に座るのだから強いはずである。エースの谷口も選抜と比べて球威が増し、桐生第一打線をわずか3安打で完投。昨夏全国制覇時の4番大広(楽天)にも仕事をさせなかった。盤石の強さを見せつけて臨んだ3回戦。選抜で敗れた神奈川勢へのリベンジマッチ(選抜準決勝で東海大相模に1-11と完敗)で横浜戦へ向かった。しかし、前半から中盤にかけて再三の好機がありながら4回の1得点のみ。満塁機を2回逃してしまい、徐々に横浜ペースになった。終盤7回にエース谷口が初ヒットを許すと、8回に失策から同点に。9回に1アウト2塁からサヨナラタイムリーを浴びて万事休した。高校球界の王者を相手に投打とも互角の力を見せていただけに悔やまれる敗戦だった。しかし、選抜の4強に続き、旧京都二中時代から遠ざかっていた甲子園で高らかに復活を告げた年になった。
同じ近畿のPL学園は洗練された野球を見せつけた。桑田2世と言われた2年生エース朝井(近鉄―楽天―巨人)は桑田同様、140キロ台の速球とカーブだけで勝負する本格派。初戦の札幌南戦は力で相手打線を封じ込めた。打線も右左をジグザグに並べた相手としてはやりにくい攻撃陣。大物うちはいないが、3番中尾(ヤクルト)序盤から相手のミスに付け込み、4番今江(ロッテ―楽天)のタイムリーなどで加点し、7-0と完勝した。2回戦は明徳義塾と強豪対決。2年前の選抜の再戦となったが、ここでもPLのうまい野球が見られた。初戦完封の明徳・三木田は多彩な変化球が持ち味だったが、初戦ほどの調子ではなかった。そんな中、PLの選手たちは巧みに相手の配球を読み取って巧打を連発。相手野手陣の間に落ちるようなヒットに巧みな走塁を絡めて加点。まるで打者一人で球種1個を奪っていくような攻撃で得点していき、とどめは朝井の3ランホームラン。これぞPL野球といった貫禄の攻めで三木田をKOした。朝井はなげても曲者ぞろいの明徳打線を4失点完投。6期連続出場中の強豪校のリベンジマッチを見事返り討ちにした。
しかし、3回戦では強打の智辯和歌山と対戦。初回、失策から先制点を許すらしくない立ち上がりを見せると、3回朝井が池辺、山野に2ラン2本を献上。140キロ台のストレートにもカーブにもタイミングを合わされてなすすべなく失点してしまった。交代した宮内も山野に2本目のホームランを許して9-1とまさかすぎるビハインド。しかし、ここからPLは猛反撃。中尾・奥野・荘野・清水がタイムリーを放って加点していくと、7回には2番手投手の宮内があわやホームランという2点タイムリー2塁打。ついに2点差に迫って智辯和歌山を震え上がらせた。しかし、この試合5打数ノーヒットの2年生4番今江(ロッテ―楽天)が8回のチャンスで凡退すると、9回に後藤のホームランなどで加点されて万事休す。PL史上初の2桁失点で敗れた。しかし、それでも負けてなお強しの印象を抱かせたPL学園。さすが高校球界の王者と思わせる試合だった。
https://www.youtube.com/watch?v=OcoM3sHZ23o
https://www.youtube.com/watch?v=TSBZH4xaT64
春夏連続出場の九州学院は春夏連続のベスト16。3年連続の夏で念願の初戦突破を果たした。初戦は昨年の選抜準優勝校の水戸商業と対戦。水戸商業の2年生左腕・田中をはやばや攻略して2回で大量8得点。打って走っての九州学院の野球を見せつけた。楽勝ムードかと思われたが、大会屈指の右腕・反頭が後半水戸商業の猛反撃に会い、苦戦。茨城決勝で常総学院を鮮やかな逆転で下している強豪がただでは転ばないところを見せた。8回には2点差にまで迫られる展開となったが、その裏4点を挙げてなんとか振り切った。しかし、ベスト8を狙った3回戦は光星学院の野里に1発を浴びるなど先手を取られ、苦戦。4番榎田のタイムリーや反頭のホームランで3点ビハインドを追いついたが、9回に勝ち越し点を奪われ、選抜に続いて目前でベスト8を逃した。大会を通じて反頭の調子がもう一つ上がらなかったのが痛かったが、春夏連続で甲子園勝利を挙げることができた。
https://www.youtube.com/watch?v=9THchA-oLyU
4年連続出場の強豪・徳島商業も2勝をマーク。常連校の強さを見せた。昨年のメンバーから大槻・阿竹ら何人かが残ったメンバーは躍動。特に阿竹の活躍は大会前半の主役ともいえる内容。初戦はいきなり選抜ベスト8の福島商業との対戦だったが、阿竹が3回に左腕・芳賀のインハイのボールを上からぶったたいての3ラン。衝撃のあたりを見せつけると投げても先発・志摩をリリーフして速球主体に好投。打線も終盤西山・阿竹が痛打を浴びせて、1回戦屈指の好カードを10-2とワンサイドゲームで制した。2回戦は仙台育英の好左腕・村上と対戦したが、集中打で攻略。終盤追い上げられたが、結局2試合連続の2桁得点で快勝した。3回戦で阿竹が封じられて長崎日大に敗れたが、投打に力強い徳島野球を見せつけた。
https://www.youtube.com/watch?v=rUSxuMcoNyQ
長野の伝統校・松商学園は上田佳範(日本ハム)を擁した1991年以来の3回戦進出。県大会決勝では金子千尋(オリックス)擁する選抜出場の長野商業を延長の末、3-2と撃破。苦しい戦いを乗り越え、戦前からの古豪の意地を見せた。初戦は山口・岩国と対戦。選抜に続いての長野勢vs岩国となったが、序盤は点の取り合いとなったが、中盤以降松商学園打線が爆発。車谷・友永・佐藤ら好打者が岩国のエース重広をとらえて、19安打で大量14得点を奪取。エース左腕久保田も序盤制球に苦しんだが、中盤以降立ち直り、4失点完投した。2回戦は初戦逆転勝ちの宇都宮学園と激突。相手のミスなどにも乗じて着実に加点していくと、2番手川上が好リリーフ。1点差で宇都宮学園の猛追をかわし、2勝目を挙げた。3回戦では樟南の剛腕・青野の前に屈したが、伝統校の存在感を示した大会だった。
https://www.youtube.com/watch?v=BbLU2olVCDo
激戦区・東東京から初出場の日大豊山は初戦で大会屈指の好投手の中津工・長谷川と対戦。県決勝で内川聖一(横浜―ソフトバンク)擁する大分工の強力打線を封じた好投手の前に序盤は打線が沈黙。右サイドのエース加藤も好投して投手戦になるも、6回に小野崎のタイムリー2塁打で先制。8回には長谷川が足をつるアクシデントもあり、4者連続のタイムリーで5点を奪った。長谷川が降板する際には、日大豊山ベンチからも暖かい拍手が起こり、気持ちのいい試合となった。3回戦では東海大浦安のエース浜名のシュートの前に持ち前の強力打線が沈黙したが、初出場で記念すべき1勝を挙げた。
沖縄・那覇高校は今大会一ともいえる個性派チーム。左投げの捕手・長峰に左投げのサード・金城、独特な打撃フォームの比嘉とよそのチームでは決して見られないだろう選手が活躍を見せた。初戦は松田宣浩(ソフトバンク)擁する中京商と延長の大激戦。エース成底が力投し、延長11回に相手失策で勝ち越し。2-1で甲子園初勝利を挙げた。3回戦は育英の前に投打とも及ばなかったが、何年もたった今でもアメトークで取り上げられるほどのインパクトを残し、沖縄県らしい好チームだった。
https://www.youtube.com/watch?v=OXxFUyWyiP4
瀬戸内は夏初出場で2勝をマーク。広島大会では選抜出場の広陵を下すなど4試合連続で1点差勝利。元プロ野球選手の後原(せどはら)監督に率いられたチームが躍動した。初戦は日生第二のまえに9回まで2点ビハインドだったが、9回表に今田が巨体を揺らして3塁打を放つと、その後も連打で同点。最後は相手捕手の送球がランナーに当たる幸運で勝ち越し、初勝利をマークした。2回戦は前年準優勝の岡山理大付との隣県対決。相手正遊撃手が骨折で出られないこともあり、守備の破たんに付け込んで大量得点。下馬評をかわす展開で10-1と大勝した。3回戦はさすがに柳川の前に力及ばなかったが、さわやかな旋風を巻き起こした。
https://www.youtube.com/watch?v=3lbrjjs5gGw
明徳義塾は初戦でエース三木田が見事な2安打完封。多彩な変化球で的を絞らせず、相手の注目の4番畠山(ヤクルト)も無安打に封じ込めた。打線は専大北上の2年生エース梶本(ヤクルト)の前に苦戦したが、内村の本塁打と2本の犠飛で少ないチャンスを活かし、完勝した。2回戦は2年前の選抜で敗れたPLとリベンジをかけて対戦。しかし、この日は不調だった三木田をPL打線が見逃してくれることはなく、序盤で大量ビハインド。経験豊富な選手が多かっただけに終盤まで競り合えれば面白かった。
https://www.youtube.com/watch?v=yd89mWyfbqk
中京大中京は初戦郡山を相手に猛打爆発。俊足強打の1番加藤を中心に打ちまくり、12-0と快勝。高橋・飯田・萩本らの重量打線が火を噴いた。2回戦は智辯和歌山との強豪対決。しかし、エース高橋が初回相手捕手・後藤の頭部に死球を与えるアクシデント。内角球を使いづらくなり、着々と加点されて7失点した。しかし、終盤7回に猛反撃。相手失策にもつけこみ、6安打を集中。高橋自身もタイムリーを放って1点差に詰め寄る素晴らしい粘りを見せた。それだけに8回ランナー1,3塁で相手の交代した1年生捕手・岡崎に落ち着いたプレーで1塁走者の盗塁を刺されたのは痛かった。
https://www.youtube.com/watch?v=K6QWVPmt3vI
仙台育英は昨年度甲子園のマウンドを踏んだ左腕・村上は再び帰ってきた。昨夏敗れた桐生第一との再戦を心待ちにしていた大型左腕は初戦・米子商業相手に好投。制球には苦しんだが、4番市川のホームランの1点に抑えた。宮城大会決勝で東北の剛腕・後藤(横浜)を打ち込んだ打線も好調を維持。宮内、吉田の中軸が確実に仕事を果たし7-1と快勝した。
しかし、2回戦は徳島商業の強力打線にエース村上がつかまって苦戦。6番大場の2打席連続ホームランなどで1点差に追い上げる粘りを見せたが、最後は突き放されて2年連続2回戦で涙を飲んだ。
https://www.youtube.com/watch?v=u67ETlOgMqc
前年準優勝の岡山理大付は初戦東海大菅生と対戦。昨年からのレギュラーの4番河が2本のタイムリーなどでリード。右方向に流して軽々と外野の頭を超すパワーはさすがの一言だった。終盤追い上げられるも、2年生エース岡本(横浜)-竹内のリレーで辛くも1点差を逃げ切った。しかし、この試合で5番ショートの平田が死球で骨折。攻守の要を欠いて臨んだ2回戦は瀬戸内を相手にまさかの1イニング8失点。思わぬ大差で甲子園を去ることとなった。
山形・酒田南は1回戦見事な逆転勝ちで甲子園初勝利をマーク。初回相手クリーンアップに先発・伊藤が3者連続タイムリー2塁打を浴びる苦しい展開も、リリーフした2年生左腕・三浦がカーブを武器に好投。すると、終盤打線がつながり、8回にはファールフライから3塁ランナーが好判断でタッチアップ。見事な走塁で逆転勝利を挙げた。2回戦は長崎日大の前に敗れたが、相手エース浜口に最後まで食らいつく姿勢を見せた。
浜松商は初戦で福井商と対戦。選抜50回大会決勝の再戦となった。相手打線は敦賀気比の剛腕・内海(巨人)をとらえた強力チームだったが、エース坂本が粘り強く力投。終盤のワンチャンスを活かして逆転すると、鈴木岳への継投も見事に決まって逆転勝利。さすが粘りの浜松商という野球を見せた。
宇都宮学園の1年生右腕・泉(ヤクルト)は1年生とは思えない剛速球を投じて話題に。初戦は丸亀相手に好リリーフ。打線も片岡(西武―巨人)、山崎などの活躍で逆転勝利を飾った。2回戦で松商学園に敗れたが、今後が楽しみな投手だった。
前評判の高かった桐生第一・一場(楽天―ヤクルト)、山梨学院大付・玉山(広島)は初戦の強豪対決に敗れる結果となった。ともに自慢の真っすぐをとらえられた。また、佐賀北・北園もけがの影響から横浜打線相手に本来のピッチングができなかった。
郡山・黒川、新発田農・五十嵐も大会前注目された好投手だったが、大量失点。いかんせん相手が中京大中京と智辯和歌山と打線が強力すぎた。
小松工・鹿野、中津工・長谷川は序盤好投を見せるも中盤以降に相手の強力打線に捕まった。
丸亀と岩国の春夏連続出場組はともに春に続いて初戦敗退。丸亀は終盤までリードするも逆転負け。岩国はエース重広が相手打線を止められなかった。
https://www.youtube.com/watch?v=V_hOCDymcGc
初戦で敗れたとはいえ、水戸商業・丹原の打線は見事。特に水戸商業の好投手・反頭を相手にした猛反撃はすさまじかった。
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