2024年選抜1回戦
愛工大名電vs報徳学園
52% 48%
1981年夏、2018年夏に続いて3度目となる両校の激突。これまで2戦は報徳学園が勝利しているが、今回は総合力で名電が少し上回るか。
愛工大名電の投手陣は、昨秋失点数は多かったものの、潜在能力の高い選手が揃っている。エース大泉は140キロ台中盤の速球にカーブ、チェンジアップを交え、相手打者のタイミングを外すのがうまい。秋の東海大会では打たれながらも要所を踏ん張り、エースとしての働きを見せた。ここに速球派右腕の伊東や同じく140キロ台の速球を投げる左腕・古谷など、本格派がずらり揃っており、層の厚さは大会でもトップクラスだろう。誰が絶対的な柱になるか、相手も読みづらい状況だ。
対する報徳学園打線は、昨年の主力だった堀(オリックス)、石野のような長距離砲はおらず、ややスケールが小さくなった感は否めない。しかし、もともと投手力の高い地区で戦っているため、打てないときでも点を取る野球には定評があり、数少ない好機できっちりランナーを進めて、昨年の経験者である3番西村や主砲・斎藤にまわしていきたい。1試合4点以上を目指して、1点ずつ積み重ねていく野球になるだろう。
一方、報徳学園の投手陣は、昨年ファイナルまで進んだ経験を持つ間木、今朝丸の2人がそのまま残っており、今大会出場校中でもトップ5に入るくらいの力を持つ。今朝丸は長身から繰り出す速球が150キロを計測するまでになり、角度とスピードを兼ね備えた素晴らしいボールに仕上がっている。大柄ながらコントロールに苦しむタイプではない。また、間木は多彩な変化球を武器に打たせて取るタイプだが、こちらもストレートは140キロ前後をアベレージで記録し、パワーアップを果たしている。この2人がいれば、そう多くの失点はしないはずだ。
対する愛工大名電打線は、昨夏の甲子園を経験した石見、石島の2人を中心に今年も破壊力を秘める。昨夏は徳島商・森の快投の前に沈黙したが、全国屈指の剛腕と大舞台で対峙した経験は、新チームの財産になっているだろう。東海大会では1試合平均8得点を挙げたように、相手投手のレベルが上がっても、まったく打線の勢いは止まらなかった。ここに名電らしい機動力をさらに加味できれば、ぐっと得点能力はましてくるはずだ。
報徳としてはロースコアの接戦に持ち込まないと、勝機は見えてこないだろう。昨年の経験というアドバンテージはあるだけに、まずはしっかり守りたい。対する愛工大名電は、ポテンシャルの高い投手陣が本来の力を発揮できれば、優位に試合を進められそうだ。
主なOB
愛工大名電…工藤公康(西武)、山崎武司(中日)、イチロー(マリナーズ)、東克樹(DeNA)、田村俊介(広島)
報徳学園…金村義明(近鉄)、清水直行(ロッテ)、大谷智久(ロッテ)、小園海斗(広島)、堀柊那(オリックス)
愛知 兵庫
春 20勝 14勝
夏 5勝 6勝
計 25勝 20勝
高校野球草創期から出場を重ねてきた両県の対戦だけあって、名勝負が目白押し。古くは中京商vs明石中の延長25回サヨナラ劇があり、多くの試合を重ねてきた。
昨年実現した「東邦vs報徳学園」のカードはなんと5回も実現しており、東邦が3勝2敗と一歩リード。平成元年にはエース山田(中日)を擁する東邦が、初戦で吉岡雄二(近鉄)が引っ張る帝京を下した報徳学園に3-0で完封勝ちし、優勝へ弾みをつけた。ちなみにこの年の夏は帝京が優勝しており、報徳学園は選抜2試合で春夏の優勝校と対戦したこととなる。
1999年夏は滝川第二と東邦のV候補対決が初戦で実現した。滝川第二はエース福沢(中日)、東邦は朝倉(中日)、岡本(阪神)の2枚看板をそれぞれ擁し、3人とも140キロ台中盤の速球を持つ本格派右腕であった。試合は序盤から滝川第二ペース。5番今村が先制ホームランと満塁走者一掃打を放つ活躍で5点を先行する。しかし、東邦も意地を見せ、5回に福沢のスライダーが甘くなったところを逃さず、3者連続タイムリーで一気に追いついた。息詰まる接戦は最終回に滝川第二の3番中村公(中日)が朝倉からサヨナラ打を放ち、熱戦に終止符を打った。
昨年の東邦と報徳学園の試合に続き、今回も接戦が予想される。
思い出名勝負
2019年選抜準決勝
明石商
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 2 |
0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 3 | 1 | × | 4 |
東邦
明石商 中森
東邦 石川
平成最後の大会となった2019年選抜大会。多くの好投手が顔をそろえ、本命不在と言われた大会の準決勝で実現したのは、東邦と明石商という好対照な2チームの対戦であった。
東邦は2年連続の選抜出場であった。前年春から2年生で主力の石川(中日)を中心とした強力打線を武器にV候補の一角に上がっていたが、花巻東の技巧派左腕・田中大を打てず、3-5で初戦敗退。夏も出場を逃し、野手を中心に好選手がいながら、勝ちきれない戦いが続いていた。新チーム結成以降も、打力はあるが投手陣の軸が定まらない印象は強かった。
しかし、本大会に入ると石川がエースとして躍動。内外角のコーナーに丁寧に投げ分けるコントロールが光り、初戦の富岡西戦を皮切りに、広陵・筑陽学園といった地区大会優勝校を無難に抑え、4強進出を決めた。打線も、守りが安定してくると、その威力を存分に発揮。広陵戦ではプロ注目のエース河野(広島)を早々と攻略し、筑陽学園戦では力のある3投手のリレーをものともせず、7得点を挙げた。平成最初の選抜優勝校が平成最後の春制覇へあと一つと迫っていた。
対する明石商は夏春連続の甲子園出場。前年は八戸学院光星との死闘に敗れて初戦敗退に終わったが、その戦いを1年生で経験した右腕・中森(ロッテ)、主砲・来田(オリックス)という投打の軸が残った新チームは快進撃を見せる。中森と右腕・宮口のWエースを野手陣が強打で支え、秋の近畿大会では準優勝。準決勝では智辯和歌山をコールドで下すなど、投打にわたり、8強入りした3年前を上回る力強さを見せた。
本戦でも、国士館・大分を寄せ付けず、危なげなく8強に進出。もともと犠打を絡めた確実性の高い野球が明石商の持ち味だったが、今年は各人の打力は非常に高かった。ただ、懸念材料としては右腕・宮口が故障で本調子ではなかったこと。大差のついた2回戦の大分戦は、継投でかわしたが、2年生エース中森への負担は大きくなっていた。準々決勝では智辯和歌山と秋の再戦になり、中森は161球を擁する苦しい投球で完投。1番来田が先頭打者弾とサヨナラ弾を放つ大活躍を見せ、熱戦を制したが、エースの疲労が心配されていた。
両校は3年前の選抜でも対戦しており、その時は明石商がエース吉高の好投と勝負強い打撃で3-0と藤嶋(中日)擁する東邦に完封勝ちしていた。それ以来の再戦が準決勝の大舞台であり、東邦のリベンジか、明石商の返り討ちか、注目が集まっていた。
東邦は石川、明石商は中森とともに両エースが順当に先発。初回はともに3者凡退と静かな入りになる。
石川は投げ方は野手出身といった雰囲気なのだが、野球センスの塊なのだろう。コントロールが非常によく、大会中に「ゾーン」に入った印象だ。球威もあるのだが、大事な場面で甘いボールがほとんど来ない。各強豪校が苦しんだのも納得の投球である。
一方、その石川を上回る出来だったのが、2年生エース中森。この日はさすがに体が重そうであり、直球の走りは前日ほどではなかったが、その分、チェンジアップの落差とキレが抜群である。緩急を駆使して、東邦の強打者たちのタイミングを外し、危なげない内容でピンチらしいピンチはほとんど迎えない。
そんな中、序盤は両チームの攻撃がうまく機能しない。
先にチャンスを作ったのは明石商。3回表、先頭の8番宮下がレフト前へのテキサス性ヒットで出塁する。東邦の捕手・成沢の厳しいけん制がある中、9番中森がきっちり犠打を決めて二進。1番来田は死球となり、1,2塁とランナーをためて上位打線を迎える。しかし、ここで2番水上(楽天)の犠打は石川の好フィールディングで3塁封殺。さらに、3番重宮はインサイドのストレートにつまり、ショートゴロとチャンスをものにできない。
4回表にも明石商は先頭の4番安藤が2塁打で出塁。しかし、5番岡田が犠打を決められず、スリーバント失敗に終わる。ここまで打力の高さが目立っていた明石商だが、攻撃のキーになっていた犠打が決まらないと、やはり攻撃のリズムが作りづらい。石川を捕まえるチャンスがありながらも、それを逃してしまう。
一方、打力だけでなく、機動力も光る東邦の攻撃陣だが、こちらは明石商の鉄壁のディフェンス陣の前に苦しむ。2回にはヒットで出た4番熊田が盗塁を刺されると、3回には先頭を四球で出しながら、8番成沢が1-6-3の併殺に倒れてチャンスを広げきれない。結局1回から5回まですべてのイニングの攻撃を3人で終えてしまう。
ともに両エースは好投する中、決め手を欠く投手戦。しかし、要所を締めて飄々と投げる石川に対し、力投派の中森は徐々に疲労が増していく。6回裏には下位打線に2本のヒットを浴び、東邦打線がアジャストしてきた印象だった。この回は、1番松井・2番杉浦を最速144キロの速球で連続三振に切って取る、意地のピッチングを見せたが、ここまで4試合すべてに登板し、疲れはピークに達していただろう。
すると、7回裏、ついに試合の均衡が破れる。こういう試合が動くのは、「ホームランと失策と四死球」とはよく言ったものだが、その通りの展開になる。
この回、1アウトから4番熊田が四球を選ぶと、2アウト後に6番河合は死球で出塁。嫌な形でランナーをため、打席に7番吉納を迎える。準々決勝の5番から、不振のため打順が降格していた2年生。しかし、先ほどの回は先頭打者でヒットを放っており、感触は悪くなかった。カウント0-2となり、ストライクが要求されるなか、中森のやや置きに行ったストレートが真ん中寄りに入る。これを素直に逆方向に打ち返した打球は、勢いが衰えることなく左中間スタンドへ飛込み、先制の3ラン!両チームにとって、あまりに大きい「3」がスコアボードに反映された。
こうなると、守りの野球がベースの明石商にとっては苦しい展開。しかし、8回表、こちらも準々決勝まで不振をかこっていた主砲が仕事をやってのける。2アウトから3番重宮がアウトコース高めの速球を右中間にはじき返す2塁打で出塁。すると、続く4番安藤が初球、インハイの速球をバット一閃!打球は高々と舞い上がってスタンドに飛び込み、明石商が2-3と一気に1点差に詰め寄る。0-0の投手戦から一転して、終盤にきてのホームランの応酬。観衆を魅了する好試合となる。
しかし、1点差で追い上げムードの明石商は、この日はらしくないプレーが目立ってしまう。ここまで堅守で勝ち上がってきたが、8回裏、1アウトから1番松井に四球を出すと、2番杉浦の犠飛が小フライに。これを捕手・水上がわざと落として併殺を狙ったが、その送球がそれてボールは外野を転々。さらに、中継の内野手の送球もそれてしまい、1塁ランナーが一気にホームまで帰ってきてしまった。終盤の大事な場面で飛び出したエラーで試合の流れは再び東邦へ傾いていった。
9回表、明石商は先頭の6番清水が四球を選ぶも、後続はなんと3者連続三振。これで最後とばかりにギアチェンジした石川の前に、チャンスを広げきれず、前日サヨナラ弾の来田をネクストに置いたまま試合は終了した。緊迫した好ゲームを制した東邦が優勝した1989年以来となる決勝進出を果たしたのだった。
東邦は決勝で習志野を相手に6-0と完勝。準決勝まで当たりの少なかった石川が2ホームランを放ち、投げては勝負強い習志野打線をわずか3安打で完封と千両役者の活躍を見せた。大会前は投手力が不安視されていたが、エースの覚醒とともに「春の東邦」が目覚めの時を迎えた印象だった。これで平成最初と最後の王者となり、史上最多5度目の栄冠。選抜にめっぽう強い伝統校が、その強さを見せつけた大会だった。
一方、明石商も敗れたとはいえ、初の4強入りを果たし、歴史を塗り替えた大会となった。中森、来田の2年生コンビを、水上・重宮・安藤ら包容力のある3年生が支え、まとまりのある好チームに仕上がっていた。夏も兵庫大会決勝で神戸国際大付に最終回の逆転勝ちを収めて、連続出場を達成。甲子園ではお得意のスクイズ戦法が冴えわたり、3試合連続で1点差ゲームを制して、4強入りを決めた。春夏ともベスト4だったが、どちらかと言えば、夏の勝ち方の方が明石商らしいと感じたのは自分だけだろうか。
【第91回選抜高校野球 2019.4.2 準決勝 明石商.vs東邦】東邦吉納の3ランが出たと思えば、明石の安藤の2ラン!!壮絶な準決勝!! (youtube.com)
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