甲子園では各地区ごとに好不調が如実に表れるのが、見ているファンにとって興味を引くところだ。好調な地区では、一度勝ちだすと、地区内で「うちが一番先に負けられない」との意識が出てきて、簡単には負けなくなる相乗効果を生み出すことがある。そんな相乗効果で各地区ごとに無双状態になった大会は何年の大会だったが、振り返っていきたい。第3回は中国地区編。
第85回大会(2003年)
2003年の選手権大会は、70歳で引退を決めていた木内監督(のちに再び監督に復帰)が有終の美を飾って優勝した常総学院やダルビッシュ有(パドレス)をはじめとした才能あふれる2年生を擁し、初の準優勝を果たした東北高校に注目が集まった。一方、選抜で8強に4校が残った近畿勢が1校もベスト8に残れなかったり、2回戦で多くの優勝候補が姿を消すなど、波乱含みの側面もあった。そんな大会にあって、出場5校すべてが初戦を突破し、大きな存在感を示したのが中国勢であった。
江の川(島根代表)
2回戦 〇2-0 中越
3回戦 〇1-0 沖縄尚学
準々決勝 〇2-1 聖望学園
準決勝 ●1-6 東北
2003年夏最大のサプライズの1つが江の川(現・石見智翠館)の快進撃だっただろう。1988年夏にスラッガー谷繁(中日)を擁して、ベスト8入りしている古豪だが、その後は1994年選抜で金沢・中野に完全試合を許すなど、なかなか甲子園で結果を残せない時期が続いていた。
しかし、この年は江の川らしい守りの野球で甲子園を席巻。中心にいたのは技巧派左腕の木野下であった。最速120キロ台の速球と80キロ台のスローカーブで緩急をつける「遅球」を武器に、相手打線を翻弄。初戦は同じく遅いボールを武器とする中越のサイド右腕・畔上との投げ合いとなったが、中越打線が木野下のスローボールを待ちきれなかった。中盤に6番山野の2点タイムリーで奪った得点を無失策の堅い守備で守り切り、2-0と会心の完封勝ち。15年ぶりに甲子園で凱歌を上げた。
続く3回戦は好投手・広岡が引っ張る沖縄尚学と対戦。1999年の選抜優勝の代以来の甲子園であり、金城監督も自信を持つ好チームであった。しかし、この試合でも木野下の緩いボールが相手打線を惑わせる。6回までに4度先頭打者を出し、再三スコアリングポジションにランナーを出しながらも、決定打を許さない。4回裏に、6番北嶋のライト前タイムリーで奪った1点をまたしても無失策で守り切り、2試合連続の完封勝ちでベスト8入りを決めた。いずれの試合もタイムリー1本による得点のみだったが、江の川がなんとも不気味な存在になりつつあった。
15年ぶりの8強進出。相手は2試合で33安打24得点と打撃好調な聖望学園であった。初回に木野下が1アウト2,3塁から内野ゴロの間に今大会初失点を許すが、その後は聖望学園サイドの拙攻もあり、追加点を許さない。徐々にムードは江の川に傾き、4回裏には好調・山野のタイムリー内野安打で試合を振り出しに戻した。打力では優位に立つはずの聖望だったが、ミスでチャンスをつぶすたびに焦りが募り、木野下のスローカーブを打ち損じた。最後は、9回裏にここまで大会無安打の木野下がセンターへサヨナラタイムリーを放って勝負あり。チーム打率1割台の江の川が4強一番乗りを決めた。
準決勝はダルビッシュ有(パドレス)を擁する東北と対戦。この試合も少ないチャンスを5番上内のタイムリー3塁打で活かし、5回を終わって1-1の同点で折り返した。しかし、後半に入ってさすがに疲れが出たか、木野下が高めのカーブを2本ホームランにされ、万事休す。守りの野球で快進撃を続けてきた江の川がついに力尽きた。だが、大会序盤に多くのV候補が姿を消した2003年選手権で西日本勢で最後まで残った、江の川野球部の戦いぶりは、ディフェンス野球の可能性を感じさせるものであった。
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岩国(山口代表)
1回戦 〇6-0 羽黒
2回戦 〇12-7 広陵
3回戦 〇12-4 福井商
準々決勝 ●4-5 桐生第一
初出場から7大会連続で初戦敗退と不名誉な記録が続いていた岩国高校野球部。直近では2000年にエース重広を擁して春夏連続出場を果たしていたが、ともに長野商・松商学園と長野勢に屈するなど、なかなか甲子園初勝利が遠かった。河口監督就任以来、好投手を機動力野球で支える野球を形作り、中国地区では安定した強さを発揮していただけに、あとは全国での結果が欲しいところであった。そして、2003年夏、一気のブレイクスルーを果たした。
初戦は初出場の羽黒と対戦。ブラジル人留学生のカルデーラ・チアゴを擁し、投打にパワフルな野球を見せる新鋭校だ。序盤は相手先発の左腕・森元の速球を前に三振の山を築かされるが、岩国もエース左腕・大伴がランナーを出しながらも粘りの投球で踏ん張る。すると、中盤以降に羽黒・森元の制球難に付け込んで3番藤田、4番大伴の連続タイムリー内野安打で先制。岩国らしいそつのない攻めで、その後も得点を重ね、大伴は10安打を許しながらもホームを踏ませず、6-0と完封でついに甲子園初勝利を手にした。
永年の呪縛から解き放たれた岩国。続く2回戦の相手は選抜優勝校の広陵であった。同じ中国地区で見上げてきた強豪校であり、練習試合でもこの代になってから何度も対戦して1回も勝利していない相手であった。試合前の予想ではほとんどが広陵有利と予想。しかし、ここからがある意味では本当の岩国の快進撃であった。
序盤から各打者がホームベースよりに立ち、インサイドを封じて西村のアウトコースの速球を狙い撃つ。試合は中盤に広陵打線が大伴をとらえて逆転するが、絶対的エース西村が打たれる展開に、広陵ナインにひそかな動揺が広がっていただろう。すると、7回表に広陵のまさかの外野フライ落球にも乗じて岩国打線が一気呵成の猛攻を見せる。6番津山の満塁走者一掃のタイムリーを含む5得点の猛攻で、広陵のエース西村をKO。12-7の激闘を制し、今大会最大のサプライズを完結させた。
勢いの続く岩国打線は3回戦でも福井商の荒れ球のサイド右腕・稗田を、「インサイド封じ」で攻略。2回戦で名門・PLを下した右腕から、6個の死球を含む実に11個の四死球を4回までにもぎ取り、1イニング10得点の猛攻で試合を決めた。大伴は決して目立ったスピードはないが、キレのある速球とカーブを丁寧に織り交ぜ、リズムのいい投球で味方打線の反撃を呼び寄せた。投打ががっちりかみ合って8強入りを決めた岩国が大会の台風の目となっていた。
迎えた準々決勝は、開幕戦を制して勢いに乗っていた桐生第一と対戦。初回から強打の桐生第一が大伴を捕まえ、中盤までに1-5とビハインドを背負う。しかし、この試合でも岩国打線の粘り強さは健在であった。7回裏、技巧派右腕・伊藤を攻め立て、四死球を連ねて1点を返すと、さらに満塁からエースで4番の大伴が2点タイムリーを放ち、1点差にまで詰め寄った。その後は、雨による中断で流れが変わったこともあり、そのまま4-5で惜敗したが、この年の岩国の戦いは高校野球ファンに強烈な印象を残したことは間違いないだろう。
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倉敷工(岡山代表)
1回戦 〇5-2 駒大苫小牧
2回戦 〇4-3 今治西
3回戦 ●0-2 光星学院
1996年以来7年ぶりの甲子園を決めた倉敷工。選抜出場校の岡山城東や連続出場中の玉野光南、強豪・関西などがひしめく激戦区の岡山大会を好投手・陶山を粘り強い打線が支える形で勝ちぬいた。決勝は、倉敷との伝統校対決。壮絶な打撃戦となったが、10-7と打ち勝ち、久々の甲子園切符を手にした。
初戦の相手は春夏連続出場の駒大苫小牧が相手。今でも高校野球ファンの間で語り継がれる因縁の試合となった。
天候不順が予想される中で始まったゲーム。エース陶山の調子が悪かったとはいえ、若き指揮官・香田監督のもとで力を蓄えてきた駒大苫小牧打線の力はすさまじかった。速球・スライダーともに完ぺきにとらえていき、2回に大量7安打で7失点。試合の行方は序盤で決まってしまった。ところが、4回途中で雨脚が強まり、なんと試合は降雨コールドでノーゲームに。駒大サイドとしては、なんとも悔しい結果となってしまった。
これまでも降雨ノーゲームになった試合は過去に何試合かあったが、そのほとんどは勝敗が逆転していた。この試合でもその例外に漏れず。倉敷工のエース陶山は「一度死んだ身」であることがいいメンタリティーをもたらし、別人のような快投を見せる。
140キロ近い伸びのある速球と高速スライダーを武器に駒大苫小牧打線を封じ込める。エースの投球でリズムをつかんだ打線も中盤以降に駒大のエース白石の角度のある投球に対応し始める。1番西野、3番松本、5番須田と上位打線がきっちりタイムリーを放ってリードを奪う。陶山も疲れが出た終盤にランナーを背負うが、満塁のピンチで併殺を奪うなど、粘りの投球で2失点完投勝利を飾った。
この勝利でたくましさを増したチームは2回戦でも春の四国王者・今治西と好勝負を展開。初戦で3安打完封を飾っていた相手エースの豊嶋に対し、基本に忠実なセンター返しで4回表に3点を返す。一進一退の攻防は1点を争う好ゲームとなるが、試合の流れを支配していたのは倉敷工だった。四国随一の強力打線に対し、陶山は伸びのある速球とスライダーに加え、時折混ぜるフォークボールで相手を翻弄。7安打3失点の完投で、会心の勝利を飾った。一度勢いに乗ったチームはこれほどまでに強くなるのかと感じさせる試合であった。
ベスト8を目指した3回戦は青森の強豪・光星学院と対戦。初回に陶山が光星の4番・田中隆に先制タイムリーを許すも、9回を投げて失点は2と、この試合でも寝がっぷりの良さを存分に発揮した。しかし、この日はいかんせん光星のエース桑鶴の投球が素晴らしかった。陶山に勝るとも劣らないコーナーワークで勝負強い倉敷工打線に的を絞らせず、4安打で完封。直近4年で3度の8強入りを果たした強豪を前に倉敷工の快進撃は止まった。
しかし、降雨再試合を制し、V候補も倒した倉敷工の快進撃は、好調・中国勢を象徴するものであり、大いに存在感を示した。
【好投手列伝】岡山県篇記憶に残る平成の名投手 2/3 | 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)
広陵(広島代表)
1回戦 〇3-0 東海大甲府
2回戦 ●7-12 岩国
4季連続の甲子園出場にして、春夏連覇を狙っていた絶対王者。西村(巨人)-白浜(広島)の黄金バッテリーを擁し、打線も上本博(阪神)、片山、主将・藤田の1~3番を中心に足も使えて長打もあるという理想的な打線であった。西村は140キロ台中盤の球威十分の直球とスライダーを武器に相手打線を寄せ付けず、広島大会は圧勝に次ぐ圧勝。選抜はマークが分散される中での優勝だったが、この夏はV候補大本命の中でも勝ち進むことが予想されるくらい、すべてにおいて穴のないチームに思えた。
初戦は山梨大会新記録の10ホームランを記録して11年ぶりの出場を果たした東海大甲府。主砲・加藤を中心にどこからでも長打が飛び出す強力打線だ。しかし、広陵は序盤から横綱相撲を展開。1回表に1番上本博が先頭打者ホームランを放つと、3回まで毎回長打が飛び出して小刻みに1点ずつ奪い、試合を優位に進める。西村は4番加藤にこそ3安打を許したものの、得点圏に走者が進んでから一段ギアを上げる投球で前後裁断。6安打を打たれながらも要所を締めて完封し、まずは3-0と無難なスタートを切った。
しかし、2回戦で落とし穴が待っていた。相手は同地区で互いをよく知る岩国。試合前から岩国サイドは西村攻略の絵図を入念に描いていたのだろう。右打者がホームベースよりに立ってインサイドを封じ、広陵バッテリーはアウトコース主体の投球を余儀なくされる。打線は1番上本の1回戦から10打席連続出塁となる、4打数4安打の活躍などでエースを援護するが、広陵バッテリーは最後までリズムをつかめなかった。7回に守備ミスが絡み、一挙5失点で万事休す。選抜5試合でわずか7失点だった絶対的エースが崩れ、春夏連覇の夢は散った。
これだけスキのないように見えたチームが、このような形で敗れるのだから高校野球はやはりわからないものだ。「中国決戦」は思わぬ形で幕を閉じることとなった。
【好投手列伝】広島県篇記憶に残る平成の名投手 2/3 | 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)
八頭(鳥取代表)
1回戦 〇3-2 小山
2回戦 ●2-3 静岡
1994年夏の八頭の勝利以来8年間、夏の甲子園での勝利がなかった鳥取県勢。しかし、2003年度大会は選手宣誓を山田主将が務めるなど、大きな力が八頭の背中を後押ししているような感覚があった。エース河野を中心に粘りの野球で久々の鳥取勢勝利を狙っていた。
初戦の相手は栃木県代表・小山。1976年の選抜では準優勝を果たしたこともある古豪であり、この年は県大会のチーム打率が4割を優に超す強力打線を擁していた。試合は初回にいきなり河野が捕まり、タイムリー内野安打で先制を許す。相手のエース左腕・広瀬をとらえきれず、7回まで散発3安打の無得点。6回裏に広瀬自ら、追加点となるタイムリーを放ち、小山が2点リードのまま試合は終盤戦に入った。
ところが、野球はわからないもので、8回2アウトランナーなしとあまり動く兆しの見えなかったところから、一気に流れが八頭に傾く。2番福本の内野安打と3番浅井の四球でランナーをためると、広瀬のボールが高くなっていく。ここを逃さず、4番石破、5番平木、6番山根と3者連続でタイムリーが飛び出し、一挙の逆転!いずれもセンターから逆方向を意識した打撃で活路を見出した。この最少得点差のリードを河野が粘りの投球で守り抜き、八頭が鳥取勢として久々の勝利をつかみ取った。
続く2回戦は伝統校・静岡と激突。初戦で逆転サヨナラ勝利をつかみ、勢いに乗る相手に対して、八頭も一歩も引かない投手戦を展開する。4回、8回といずれも静岡に先行されるたびに追いつく粘りを見せ、2-2のまま試合は最終回へ突入。最後は相手主将・一ノ宮の勝ち越し打に屈して惜敗したが、8安打9四死球を与えながら相手を3失点に抑えた河野の投球はこの日も非常に粘り強かった。2回戦最終カードとなったナイトゲームで散ったものの、全国の強豪と見せた2つのクロスゲームは、八頭と徳永監督に確かな手ごたえを残した。
【好投手列伝】鳥取県篇記憶に残る平成の名投手 | 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)
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