千葉経大付vs常葉菊川 2008年選抜

2008年

絶対王者下したデータ野球

2008年選抜大会は開催前、神宮決勝を戦った常葉菊川と横浜の2強が中心に回ると言われていた。しかし、大会が始まると横浜は北大津に2-6とまさかの初戦敗退を喫する。そんな中、常葉菊川は3回戦で好投手・斎藤(巨人)を擁する千葉経大付との戦いが待ち受けていた。

常葉菊川は2006年の神宮4強に始まり、2007年選抜優勝、同選手権準優勝、同国体4強、そして、新チームでの神宮優勝と5大会連続で全国大会4強入り。この時代、最も安定して強さを発揮していたチームだった。犠打を使わずに強打と好走塁で得点を挙げるスタイルで好投手を次々打ち崩し、田中(DeNA)・戸狩のW左腕で相手打線を封じ込める。常葉菊川の野球が全国に新しい風を吹き込んでいた。

新チームになっても、主力野手が酒井、町田、前田、中川、伊藤と5人残り、センターラインが安定。戸狩はエースとしてきっちり試合を作り、右腕・野島を勝ち上がりながら育てる余裕も見せた。神宮では東洋大姫路の好投手・佐藤を13安打7得点で退け、決勝でも横浜のエース土屋(ロッテ)を攻略。自信をつけたナインはこの選抜初戦でも明豊の2年生エース今宮を(ソフトバンク)を余裕を持って攻略し、春連覇へ順調なスタートを切った。

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一方、千葉経済大付は桜美林で優勝投手となった松本監督が就任して年々力をつけ、2004年夏には息子の松本啓(DeNA)がエースを務めて甲子園に初出場。東北のエース・ダルビッシュ(パドレス)に投げ勝つなど、初陣で4強入りする鮮烈なデビューを飾った。その後も、2006年夏は八重山商工に初戦敗退も、剛腕・大嶺(ロッテ)を攻略してあわやのところまで追い詰め、2007年度はエース丸(巨人)を中心に秋季関東大会を制覇。ここ数年は安定して結果を残していた。

その強さの源は選手個々のポテンシャルはもちろんのこと、松本監督が強く訴える「観察眼」にあった。練習中は気づいたことを逐一メモを取らせ、一つ一つにプレーを決して流さない。また、相手選手のプレーの傾向も試合前に徹底的に観察し、試合中はそのデータをもとに戦って結果を残してきた。この代も剛腕エース斎藤が目立っていたが、下級生時代から経験豊富な捕手・谷や好打者・内藤などハイレベルな野球を実践できる野球脳を持った選手が揃っていた。

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カギを握った初回の攻防

2008年選抜3回戦

千葉経大付

1 2 3 4 5 6 7 8 9
3 0 0 0 0 3 0 0 1 7
0 0 0 0 0 0 0 0 1 2

常葉菊川

 

千葉経大付  斎藤

常葉菊川   戸狩→野島

試合前の焦点は常葉菊川の強力打線が千葉経済大付のエース斎藤を攻略できるかであった。しかし、試合開始から着火したのは千葉経済大付の打線である。

1回表、直球主体の戸狩の攻めを読み、1番重谷の2塁打を足掛かりに1アウト3塁とすると、3番谷も速球を狙い打っていきなりタイムリーを放つ。立ち上がり落ち着かない戸狩は続く4番稲葉の懐をつくが、これを稲葉は強振。打球はライトポール際へ飛び込むホームランとなり、いきなり相手エースから3点をもぎ取る。

ここのところ、全国大会で露出が多い常葉菊川だっただけに、千葉経大付としても対策は十分だっただろう。おまけに向こうは前年度のチャンピオンチームであり、挑んでいく姿勢も作りやすい。

1回裏、1点でも返したい常葉菊川の前にエース斎藤が立ちはだかる。重い球質の速球を武器に、1番中川、2番町田、3番前田をなんと3者連続で見逃し三振に切って取る。フルスイングが身上の常葉打線が手も出せないほどの凄いボール。常葉ナインがやや受けに回った可能性あるが、それにしても斎藤の気持ちの乗ったボールは素晴らしかった。この初回の投球が試合の流れを引き寄せたのは紛れもない事実であった。

2回以降は、戸狩も立ち直りを見せ、千葉経大付打線をほとんど3人で退けて、神宮優勝投手のプライドを見せる。ところが、これで流れを引き寄せたい常葉打線の前に千葉経済大付守備陣のポジショニングが立ちはだかる。中盤から再三内外野にいい当たりを飛ばし始めるが、思い切って守備位置を偏らせると、不思議なほどその位置に打球が飛んでいく。スタメンの半分強が昨年の優勝メンバーであり、打球の傾向もデータでしっかりととられていたのだ。

すると、2回から踏ん張りを見せていた戸狩はグラウンド整備を終えた6回に再び捕まる。ヒットと犠打、内野ゴロで2アウト3塁となると、8番樋口、9番齋藤、1番重谷と3者連続タイムリーでこの回3失点。キーとなるイニングであったが、相手を術中にはめた千葉経済大付の作り出した流れをせき止めることはできなかった。

斎藤は終盤はさすがに飛ばした影響か、常葉菊川打線に2点を奪われたが、昨年から全国を圧倒した打線を7安打2点に封じた投球は見事の一言。投打に相手の良さを出させなかった千葉経済大付が常葉菊川の選抜連覇を阻止し、前年を上回る8強入りを成し遂げた。

 

その後、千葉経済大付は準々決勝で長野日大との激闘を制し、8-7でサヨナラ勝ち。準決勝は聖望学園との関東対決に敗れたが、この大会で最高成績となる4強入りを成し遂げた。同年夏を最後に出場はないが、2004年から2008年の5年間で9勝5敗、春夏4強1回ずつという成績は、激戦区・千葉で一時代を築いたと言えるものだった。彼らの野球から学べることは非常に多かったと言えるだろう。

一方、敗れた常葉菊川は王者であるがゆえに、相手に研究されるジレンマに陥った一戦だった。投打とも完敗の内容であり、春先はチーム状態も落ち込んだが、夏に向けて再び再起を図った。エース戸狩を中心にしっかり守ること、そして走塁と打席で振り抜くスタイルを再確認したチームは夏の静岡大会を連覇。

甲子園ではエース戸狩が故障しながらも、智辯和歌山や浦添商と言った強豪を集中打で下し、準優勝を成し遂げた。2007年からの2年間、高校球界の主役は間違いなく常葉菊川だったと言える活躍であった。

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