独断と偏見で選ぶ、2004年選抜でベスト8へ進めなかったイチオシの好チーム

2004年

東邦(愛知)

1 岩田 10 高山
2 南部 11 山内
3 水野 12 末藤
4 奥村 13 西村
5 山越 14 鈴木
6 馬場 15 丸山
7 新山 16 瀬戸川
8 糠谷 17 木下
9 水谷 18 堀尾

最激戦区で存在感放った強豪

平成元年にエース山田(中日)を擁し、劇的な優勝を飾った伝統校・東邦。当時、選抜で計4度の優勝を誇った強豪はその後も、1992年夏の4強入りをはじめとしてコンスタントに出場を重ねていた。21世紀に入っても、2002年のエース長峰や2003年の左腕・三浦といった全国クラスの好投手を擁し、上位進出こそならなかったものの、全国の舞台で好勝負を演じていた。

そして、2004年の代は永年東邦を率いてきた阪口監督が指揮する最後の代であった。この年のエースは本格派右腕の岩田(中日)。181センチのすらっとした長身から繰り出す速球は非常にキレがあり、これにスライダー、フォークと一級品の変化球を混ぜて投球回数を上回る三振を奪った。過去に何人も好投手を輩出してきた阪口監督をして、「これまでで5本の指に入る」と言わしめた逸材であり、全国の舞台に送り出すのが待ち遠しい存在であった。

また、打線は大物うちこそいないものの、東邦らしくしぶとい打者が並ぶ。チャンスメークもランナーを返すこともできる1番馬場は大会屈指のショートストップ。中軸には新山、糠谷と勝負強い打者が並び、つなぐ攻撃で一気に大量点を積み重ねた。秋季東海大会準決勝の海星戦では4-5と1点ビハインドだった延長11回裏に4番糠谷が逆転サヨナラ満塁弾を放ち、劇的な勝利で選抜切符をつかみ取った。決勝はライバル名電に屈したものの、好投手を勝負強い打線が支える東邦らしいチームカラーで、現実的に5度目の選抜制覇を狙う戦力を有していた。ところが…

 

選抜は夏と違って出場校数が少ないため、ブロックごとに偏りが出やすいのだが、この東邦が入ったCブロックは過去の選抜史上でも最も厳しいと言っても過言ではないブロックであった。以下にその全チームを紹介する。

東北…ダルビッシュ(パドレス)を擁して悲願の全国制覇を狙う東北大会優勝校

熊本工…好左腕・岩見(広島)が引っ張る九州大会準優勝校

大阪桐蔭…2年生4番平田(中日)を中心に大会随一の強力打線を誇る近畿大会優勝校

二松学舎大付…フルスイングを武器とする強力打線誇る東京王者

済美…明徳義塾相手に7点差をひっくり返すミラクルを起こした四国の新王者

土浦湖北…エース須田(DeNA)を中心にテンポのいい守りの野球で関東大会を初制覇

広陵…3番上本(阪神)にチーム打率4割台の強力打線で選抜連覇を狙う中国王者

なんと東邦を含め、全校が地区大会の優勝校・準優勝校というラインナップ。抽選会後は各校の監督も青ざめたことだろう。1回戦から3試合連続でV候補と対戦することが早くも決定してしまったのだから。東邦の初戦の相手は前年優勝校の広陵。このブロックはすべてそうだが、1回戦屈指の好カードとして注目を集めた。

1回戦

広陵

1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 0 0 1 0 0 0 0 0 1
3 0 0 0 5 1 0 0 × 9

東邦

広陵は前年は西村(巨人)-白浜(広島)のバッテリーを中心にディフェンスを固め、藤田・白浜を中心に勝負強い好打者の並んだ打線で選抜を12年ぶりに制していた。夏は岩国に足元をすくわれたが、野手は上本をはじめとして1年生でスタメンに名を連ねた藤川(阪神)や伊藤、辻ら大舞台を経験した選手が多く残った。

特に上本は前年夏に2試合を通じて10打席連続出塁と驚異的な成績を記録。東海大甲府の3投手も岩国の大伴投手も1度として上本を抑えることができなかった。巧みなバットコントロールと卓越した選球眼を併せ持ち、1年生から3季連続の甲子園出場で、もはや貫禄すら漂わせていた。この中国地区屈指の好打者を中心に、チーム打率は4割をはるかに上回り、中国大会決勝では岡山城東の好投手・出原をとらえて逆転サヨナラ勝ち。攻撃力は前年を上回るとの評であった。

一方、投手陣はエース左腕・津田、右スリークオーターの大西、投げても140キロ台の速球を投じる藤川の3人でつないでいたが、絶対的な柱がおらず、不安を抱えていた。そんな状況下で、中居監督が打った手は、なんとセカンドの絶対的レギュラーだった上本のキャッチャー抜擢であった。視野の広さと経験を買っての起用であったが、これが果たして吉と出るのか、注目が集まった。勝負強い打者のそろう東邦打線をいかにかわせるか、攻守で上本にかかる期待が大きくなっていた。

 

試合は初回からいきなり動きを見せる。1回表、東邦・岩田は快速球を武器に広陵の上位打線を3者凡退。3番に座る上本も詰まったファーストフライに打ち取り、前年から続く上本の連続出塁をストップさせる。広陵打線で最も乗せてはいけない打者を止めた意味は大きい。

すると、その裏、広陵の先発左腕・津田の制球難に付け込み、2番瀬戸川、3番新山が連続四死球で出塁すると、4番糠谷のショートゴロがエラーを誘ってすべての塁を埋める。ここで、5番高山が津田の変化球をうまく拾うと、打球はライト線を鋭く破り、塁上のランナーを一掃するタイムリー2塁打となって一気に3点を先行する。好投手・岩田に対し、大きなプレゼントとなる。

打者一巡目は四死球のランナーを出しながらも、併殺や盗塁失敗で結果的に3回まで9人で広陵打線を封じた岩田。回転数が非常に多く、打者のバットがボールの下を通って空振りする一級品のストレートを前に、さしもの広陵打線もなかなかチャンスを作れない。

しかし、4回表、1番沢田がクリーンヒットで出塁すると、3番上本にもレフトへヒットが飛び出す。2巡目に入って岩田のボールに対応し始める。1アウト満塁とチャンスを広げると、セカンドゴロが東邦の野選を誘って1点を返し、1-3。さらに同点、逆転のチャンスだったが、ここで東邦にビッグプレーが飛び出す。6番河野を三振に取って2アウト。続く7番有木は岩田の速球を詰まりながらもショート後方へ微妙なあたりを放つ。これをショート馬場が背走しながらダイビングキャッチする超ファインプレーを見せ、東邦が広陵のチャンスの芽を摘み取る。

このプレーで流れは完全に東邦に。5回裏、3巡目に入って完全に津田のボールに対応し始め、2番手・大西ともども捕まえて5回裏に一挙5点。打者一巡の猛攻で一気に試合を決めた。投げては岩田が強打の広陵打線を6安打1失点に抑えて完投。来るとわかっていても打てないストレートを前に広陵の4割打者たちがことごとく打ち取られ、試合前の予想をかわす圧倒的な差をつけて快勝を収めた。前年の選抜王者を大差で下した姿に、5度目の選抜制覇への期待が高まった。

 

2回戦

東邦

1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
0 0 1 0 0 0 0 0 × 1

済美

 

2回戦の相手は、創部3年目で愛媛から初出場の済美。名将・上甲監督が率いる四国の新星は、前年秋に明徳義塾を相手に0-7からの逆転勝ちで下すなど、センセーショナルな戦いで四国大会を制した。宇和島東時代から続く上甲監督のトレーニング(ゴルフボール打ち、陸上部を超えるようなランメニュー)で鍛え上げられた選手たちは、1年生時から試合に出場していたことで、経験豊富な面々が顔をそろえていた。

甘井・高橋(阪神)・鵜久森(日本ハム)と右の強打者をそろえた上位打線から野間・田坂・新立としぶとい左打者の並んだ下位打線まで全く穴がなく、福井(広島)-西田の2年生バッテリーを盛り立てて、優勝争いに加わる戦力を有していた。神宮大会では同年夏に甲子園準優勝を果たした東北・ダルビッシュ(パドレス)を打ち崩し、7-0と圧勝。甲子園初戦でも関東大会優勝投手の土浦湖北・須田(DeNA)を序盤であっという間に打ち崩し、9-0と大差で初戦を突破してきた。

そして、東邦・阪口監督にとって、上甲監督は宇和島東時代に1988年の選抜決勝で0-6と敗退した因縁の相手でもあった。当時、山田(中日)-原の2年生バッテリーと津久見・川崎(ヤクルト)をKOした強力打線で、試合前の予想は東邦有利であった。しかし、試合が始まると、宇和島東の牛鬼打線の前に山田が捕まり、まさかのワンサイドゲームで優勝はならず。当時の悔しさは阪口監督の胸にも残っていただろう。奇しくも今回の済美は2年生バッテリーを強打が支える、あの当時の東邦と似たカラーのチーム。「今度はやり返す」という並々ならぬ闘志で東邦がリベンジマッチへ挑んだ。

 

試合は序盤、両チームともランナーを出し、激しく責め合う。済美・福井は勢いのある速球とスライダーを武器に「球威」で押す投球で東邦打線に立ち向かえば、東邦・岩田はこの日も抜群の「伸び」を誇る速球で済美打線に真っ向勝負。両者とも本格派右腕ながらタイプは異なるが、それぞれが持ち味を出した投球で、相手の強力打線を無失点に抑え、3回表まで0-0で試合は進行する。

こうなると重要になってくるのは先取点。先に手をかけたのは済美であった。3回裏、打撃もいい9番福井がヒットで出塁すると、ここで上甲監督は1番甘井に犠打を指示。岩田の投球を見て、そう多くは点が入らないと悟ったか、手堅い戦術に切り替える。2番小松は三振に倒れて2アウトとなるが、続く3番高橋は岩田の速球をしっかりと足元に打ち返し、センターへはじき返す。この大会初ヒットとなるタイムリーが飛びだし、福井がホームを駆け抜けて済美が貴重な先取点をものにした。

しかし、先制点を奪った後、済美打線はなかなか岩田をとらえることができない。速球にはめっぽう強い済美の打線をもってしても、攻略困難なほど、岩田の速球には切れがあった。4回以降は5イニングで放ったヒットはわずかに2本。同年夏も準優勝を果たすことになる済美だが、春夏計10試合で最も済美打線を抑え込んだのは、岩田であった。

試合は後半、東邦の押せ押せムードとなる。ただ、エースを援護したい打線がチャンスをものにすることができない。6回には先頭の6番末藤が3塁打を放つが、後続が内野ゴロに倒れて無得点。7回表には再び1アウトでランナーを3塁に送り、阪口監督は今度はスクイズを指示する。これにこたえて4番糠谷はボールを転がすが、ここで福井が素晴らしいフィールディングを見せてホームタッチアウト。再三チャンスを迎えながらも、得点を挙げることができなかった。

結局、東邦は7安打を放ちながらも完封負け。勝負強い好打者がそろっていたが、済美・福井の粘りの投球の前にあと一本が出せなかった。大会屈指のエース岩田を擁し、前年の選抜王者を撃破、そして、この大会優勝した済美とも互角に渡り合った東邦だったが、惜しくもベスト8を前に大会をさることとなった。

 

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