智弁学園が連敗の歴史に風穴を開けた1戦
両県ともに全国的に見てかなりの強豪県である。確かに神奈川県の方が優勝回数も多く、全国でも屈指の存在だが、かたや奈良県も天理・智弁学園・郡山と強豪が揃っており、天理は3度の全国制覇を誇る。ところが、両県の2011年春までの対戦成績は以下の通り。
第46回選抜 横浜7-0御所工業
第64回選抜 東海大相模3-2天理
第70回選抜 横浜4-0郡山
第73回選抜 桐光学園5-2智弁学園
第42回夏 法政二14-3御所工業
第45回夏 横浜2-1高田商業
第48回夏 横浜一商6-2郡山
第62回夏 横浜3-1天理
第64回夏 法政二3-2智弁学園
第69回夏 横浜商業1-0天理
第81回夏 桐蔭学園9-5智弁学園
なんと春夏計11連敗である。いくら神奈川が強豪県とはいえ相性が悪すぎる…
しかし、そんな歴史に終止符を打てるチームが現れた。それが2011年の智弁学園である。2年生エース青山(オリックス)と中道のバッテリーを中心とした守備と長打力の光る打線で相手を圧倒する野球で勝ち上がってきた。
もともとこの年は天理が強く、秋春の近畿大会を連覇。しかし、そんな天理を昨秋の県大会では青山が3-0と完封しており、春も再試合にまで持ち込んでいた。両雄の一騎打ちと思われていた矢先、天理が不祥事で出場辞退。そんな運も味方につけたが、青山は「天理がいても智弁が勝っていたと思わせたい」との意気込みで貫禄の戦いぶり。もう一人のスライダーの切れが光る2年生投手小野と投げ分け、打線も関本健太郎(元阪神)がいたときの天理の9ホームランを上回る10本のホームランを放ち、3年ぶりの夏の甲子園を決めた。
上位の大西から下位の小野山・横濱まで長打力のある打線は大会でも上位クラス。しかし、小坂監督は「全国ではおそらくこんなには打てないだろうから、バント・守備・走塁をしっかりやりたい」とコメント。
その言葉通り初戦で当たった鶴岡東の変則左腕・佐藤はテークバックの短い独特のフォーム。8安打を放ちながらも2点に抑えられたが、青山・中道の2年生バッテリーのタイムリーで挙げたこの2点をバッテリー自身で守り切り、初戦突破を果たした。
一方、横浜も3年ぶりの出場。しかし、こちらは苦戦の連続で勝ち上がってきた。昨夏神奈川の決勝まで上り詰めたときの2年生エース斉藤はその後、調子を崩して野手で4番として出場。秋の大会を勝ち上がり選抜に出場するも1回戦で松田遼馬(阪神)の快速球を打てず、1-5で敗退。2年生の先発山内も自らの暴投などで波に乗れなかった。
そして、同大会で同じ神奈川の東海大相模が優勝。長年頭を押さえつけてきたライバルの甲子園2季連続決勝進出という快挙に横浜もうかうかしていられない状況だった。エースがなかなか定まらない苦しい状態だった。
夏の神奈川大会に向けて主将を乙坂(DeNA)に変更。主将タイプではなかったが、乙坂は周りにアドバイスをするようになり成長。3番捕手の近藤(日本ハム)は主将から解放されて楽になり、チームにいい作用をもたらした。投手陣も2年生の柳(中日)-相馬の継投が確立されて安定した戦いができるようになった。
神奈川大会では5回戦で選抜覇者の東海大相模と対戦。柳の好投で東海大相模を2番臼田のホームラン1本に抑え込むと打線もスクイズなどでそつなく得点。横浜らしい戦いで勝利すると、決勝では1年生左腕松井裕樹(楽天)と150キロ右腕柏原の強力投手陣を擁する桐光学園に対して、延長の末近藤のセンター前サヨナラタイムリーで勝利。苦しい戦いを制し、神奈川の王者に上り詰めた。
甲子園初戦では開幕戦をサヨナラ勝ちで制し勢いに乗る健大高崎と対戦。伊達のプッシュバントなど流れるような攻撃で5点先行するも、健大高崎の集中打にさらされ一気に同点に追いつかれる。しかし、相手のタイムリーを好返球で刺すと延長10回2番高橋のレフト前サヨナラタイムリーでようやく相手の左腕エース片貝を攻略。接戦に強い横浜の野球が出来上がってきた。
9回にドラマが待っていた!全員の思いを乗せた同点タイムリー!
智弁学園
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 8 | 9 |
1 | 1 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 0 | 4 |
横浜
智弁学園とすれば奈良の連敗を止める千載一遇のチャンスが巡ってきたと言えるだろう。今回に限って言えば、個人の力ではためを張れる、ないし智弁の方が上である。バッテリーを中心に普段の野球をすれば十分渡り合える。
しかし、横浜の方が野球のうまさでは一味上。そこは5度の優勝を誇る横浜にはかなわない。智弁としてはできる限り横浜のうまさを消す戦いをしたいところ。青山は横浜戦に向けてフォークボールを温存しており、有効に使いたい。
が、立ち上がりから試合は完全に横浜ペース。初回に制球の定まらない青山から二つの四死球を得ると、2アウト1,3塁からダブルスチールを敢行。2年生バッテリーを揺さぶって先制点を奪うと、2,3,5回にも先頭が出て送ってタイムリーが出る理想的な攻め。乙坂は3度出塁してすべてホームを踏んだ。青山は制球に苦しみ、フォークで幻惑どころではない投球となってしまい、一時はKOされてしまうのではないかというピッチングだった。
一方、横浜の柳は急速こそ140キロを超えるか超えないかだが、テークバックの短いフォームから右打者のインサイドを攻める投球。いかにも長打力のありそうな智弁の打者の懐を果敢に攻め、打つ側としては全く手が出ない投球。内から外で泳がせ、外から内で腰を引かせる。理想の投球で8回まで3安打1失点に抑える。
しかし、その1点は6回のグランド整備後に青山のタイムリーで挙げた1点。智弁としてはここで流れを断ち切った。青山は立ち直り、真っすぐ・変化球ともコーナーに決まりだす。解禁したフォークも使って打者を牛耳った。
そして、9回の表、ここまで好投の柳だったが、終盤になるにしたがって徐々に制球が甘くなっていた。先頭の2番浦野にセンター前へ痛烈にはじき返されると渡辺監督は投手交代。左腕の相馬につなぐ。ここは神奈川を勝ち抜いた必勝パターンの継投に託す。
しかし、相馬は続く乗っている青山にライト前に運ばれ1,2塁となる。4番の中道はセンターフライ。5番小野山には特大のセンターフライを浴びてランナーはタッチアップするも2アウト1,3塁とようやくあとアウト1つまで詰め寄る。
ここで6番で投手も務める小野。好きな言葉は「意地」という男がセンター前に甘い真っすぐをはじき返して意地の1点を返す。なお2アウト1,2塁だが守る側としては守りやすい状態。
しかし、相馬はインコースを狙って7番横濱に痛恨のデッドボール。2アウト満塁で打者は代打の西村。これまで練習でもベンチでも声を張り続け、味方を鼓舞し続けたムードメーカーが打席に入るとスタンドから一番の大歓声。西村はファールで粘ると、インコースに入ってくる球をライトに押っ付けた。どん詰まりのあたりはしかし、ライトの前にポテンヒットとなり、2塁ランナーまで帰ってきて同点!西村はスタンドに向かってガッツポーズ。智弁が奇跡の同点劇を演じた。
横浜はさらに継投に転じるが、変わった流れは戻らず。その後も四死球にタイムリーを重ねた智弁はこの回一挙8得点で試合を決めた。
裏の攻撃で横浜もチャンスを作るが、最後は青山が近藤を見逃し三振にしとめてゲームセット。長かった奈良の連敗の歴史に終止符を打った瞬間だった。
まとめ
継投とはかくも難しいものかと思わされる試合。遅すぎたのか早すぎたのか…。何を言っても結果論にしかならないし、これが今年の横浜の勝ちパターンだったのだから仕方ない。
途中までは理想通りの展開で圧倒していただけに悔いの残る試合となった。
勝った智弁は最終回の攻撃で好球必打で打っていく姿勢が逆転につながった。打てるボールはしっかり振る。簡単そうに見えるが、実は難しいことを全員が実行できたことが逆転につながった。実力だけでなく気持ちも強いチームが歴史を変える勝利をもたらしたのだった。
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