2回戦で実現した名将対決
2011年夏の甲子園2回戦は、甲子園を知り尽くした名将同士の対戦となった。
如水館は2年ぶり7回目の甲子園出場。広島商で全国制覇を達成した名将・迫田監督が就任し、平成に入ってからはすっかり常連校となっていたが、甲子園では強豪との対戦が続いたこともあり、なかなか勝ち上がれない大会が続いた。しかし、今年は左腕エース・浜田、主砲・金尾と投打の軸が盤石であり、1年生の主砲・島崎ら新戦力も出現して、チーム力に自信を持っていた。
エース浜田は左スリークオーターからのキレのある真っすぐが持ち味で、左打者のアウトコースいっぱいで簡単にストライクを奪うことができた。1年夏の高知戦で1アウトも取れずに降板した悔しさをばねに成長し、夏は堂々エースとして君臨。左腕・坂本(ヤクルト)、サイド右腕・宇田が交互に先発し、リリーフで浜田が締める必勝パターンで、甲子園でも関商工を相手に3-2と延長サヨナラ勝ちを収めて初戦を突破した。
一方、東大阪大柏原は上宮を全国制覇に導いた田中監督が就任。年々実力を増し、今年はスラッガー石川慎吾(巨人)を中心に大阪のダークホース校として注目されていた。選抜4強の履正社、2年生エース藤浪(阪神)を擁する大阪桐蔭が2強とされていたが、その2校が柏原と反対の山でつぶし合う幸運もあり、決勝で大阪桐蔭と激突することとなった。
投打に充実した戦力を持つ大阪桐蔭に2年生エース福山がつかまり、2-6とビハインドを背負ったが、2番手の左腕・白根が好投して試合の流れが変わる。終盤に左打者が藤浪から逆方向への長打を2本放つなど、パンチ力のあるところを見せると、終盤についに同点に追いつく。最後は9回裏に押し出し死球を勝ち取り、ゲームセット。ジャイアントキリングを果たしたチームは、甲子園でも至学館との初出場校対決を8-1で制し、初陣ながら台風の目になり始めていた。
勝負を決めたのは1年生4番のバット
2011年夏2回戦
如水館
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 計 |
0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 3 | 0 | 0 | 3 | 7 |
0 | 1 | 0 | 0 | 1 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 4 |
東大阪大柏原
如水館 坂本→浜田
東大阪大柏原 福山→白根→花本元
如水館は左腕・坂本、柏原は2年生エースの福山が先発。福山は1回戦で13奪三振の快投を演じており、この日も好投が期待された。
坂本でできるだけイニング数を食いたい如水館・迫田監督だったが、その狙いを察知してか、柏原の攻撃が早い。2回裏、5番西田が3塁打で出塁すると、四球を挟んで、エース福山を助けたい7番捕手の松浪がチア無理―2塁打を放って1点を先制する。このままではゲームが決まってしまうと感じた迫田監督は早くも2回からエース浜田をマウンドに送る。
想定外の早い継投になった如水館だったが、こういう展開も想定していたか、3回表に打線が反撃に転じる。先頭の1番門田が死球で出塁すると、犠打で送って1アウト2塁から3番金尾がすかさずタイムリー2塁打を放って同点に追いつく。浜田と同じく1年生から甲子園の舞台を経験していた頼れる主砲が試合を振り出しに戻す。
1回戦と比較するとやや制球の甘い福山を援護したい柏原打線は5回裏、ヒットで出塁した9番中河を犠打で二進させると、3番花本太がタイムリー2塁打を放って1点を勝ち越す。さらに中軸へと回るチャンスだったが、ここは浜田が冷静な投球でしのいで最少失点に切り抜ける。
ともに総合力が高く、引き出しも多い両チームの試合。このまま終わるわけはない雰囲気は漂っていた。
このじりじりした展開で先に我慢できず崩れたのは福山であった。7回表、2アウトランナーなしから四球の金尾を1塁において、4番島崎は芸術的な流し打ちでレフト線へ2塁打を放つ。この柔らかい打撃が迫田監督が1年生ながら4番に起用した所以だろう。さらに四球で満塁とチャンスが広がると、続く6番木村のセカンドゴロがなんとトンネルになって2者が生還。さらに7番安原にもタイムリーが飛び出し、この回一気に3点が如水館に入る。
逆転した如水館。このままエース浜田が投げて逃げ切るかと思われたが、今度はお付き合いするように、こちらもミスが飛び出す。代打・泉、3番花本太の連打で1,3塁のチャンスを作ると、4番石川のサードゴロが先ほどタイムリーを放ったサード島崎の悪送球を誘って1点差に。さらにこの悪送球されたボールをファースト金尾が持っている一瞬のスキを突いて、花本太が一気にホームを駆け抜け、柏原が取られた直後に同点に追いつく。
まるでエアポケットに入ったような瞬間であったが、これが野球の面白さであり、怖さなのか。大阪のチームらしい抜け目のなさで試合を振り出しに戻した。互いにミスが飛び出した試合は、如水館・浜田、柏原の2番手・白根の両左腕の投げ合いで延長戦へ突入した。
しかし、イニングが進むにつれて両左腕の実力差が少しずつ出てしまったか。9回裏に2アウト満塁のサヨナラ負けのピンチを浜田が渾身の内角速球でしのぐと、長いイニングを投げて徐々にその球筋に慣れだした如水館打線が10回表についに白根をとらえる。
1番門田のヒットと犠打でチャンスを作ると、続く3番金尾のサードゴロがエラーを呼ぶ。痛いところでミスが飛び出すと、ここで4番島崎が白根のスライダーをセンターへ痛烈にはじき返して1点を勝ち越し。嶋崎はこれで1回戦と合わせて早くも6安打目、末恐ろしい1年生である。さらに5番宇田、6番木村とタイムリーで畳みかけ、この回一気に如水館が3点をリードした。
9イニング目のロングリリーフに突入した浜田だったが、最後までボールのキレは衰えず。最終回の柏原打線の反撃を無失点に抑え、如水館として初めてとなる3回戦進出を決めた。
如水館はその後、3回戦でも能代商と延長戦に死闘を演じることに。延長13回表に勝ち越しを許したが、その裏に自慢の機動力を活かしてチャンスを広げ、最後はサヨナラ勝ちを勝ち取った。史上初となる3試合連続延長戦勝利は、今でも如水館だけに輝く金字塔である。長い間、なかなか上位まで勝ち上がれなかった如水館だったが、この年は迫田監督らしい継投策と機動力がはまった好チームで結果を残した。
一方、東大阪大柏原もさすが大阪を制しただけあると感じさせる戦いを見せたが、最後は一歩及ばなかった。ただ、田中監督のもとで鍛え上げられた泥臭く、相手のスキを突く野球は、その後も大阪府内で存在感を放っており、履正社・大阪桐蔭以外の第三勢力の存在が、今でも大阪勢のレベルの高さに貢献していると言えるだろう。
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