日大三vs開星 2011年夏

2011年

絶対王者に挑んだ山陰の強豪

2011年の夏の甲子園の大本命だった日大三。選抜優勝の東海大相模や同4強の履正社が予選で敗退し、選抜で日大三を破った九州国際大付も初戦で関西に敗退と、いよいよ日大三1強の様相を呈してきていた、前年の選抜から経験豊富なメンバーを擁した優勝候補をどこが止めるのか…そんな中2回戦で立ちはだかったのが、「山陰のピカソ」こと野々村監督が率いる島根・開星高校だった。

日大三は2006年に西東京大会決勝で斎藤佑樹(日本ハム)擁する早稲田実に敗れて4連覇を阻止されて以来、3年連続で優勝校に敗退。5年連続で春夏どちらかの甲子園に出場していたのだが、流れを止められてしまった。しかし、2009年夏に関谷吉田(ともにロッテ)のバッテリーで4年ぶりに出場を果たすと、2010年選抜では準優勝。決勝で興南に敗れたが、エース島袋(ソフトバンク)を最も苦しめた。

そして、2011年度の新チームになるとエース吉永と強力打線で無敵の快進撃を見せる。東京大会を危なげなく制すると、神宮大会では北海、浦和学院、鹿児島実をすべて圧倒して勝利。秋の段階で頭一つも二つも抜けだしている印象であった。

ところが、選抜では初戦で試合巧者の明徳義塾に吉永が攻略されてあわや敗退という展開。最後は女房役・鈴木の逆転打でひっくり返したが不安の残るスタートだった。その後は静清・野村(中日)、加古川北・井上と好投手を攻略して勝ち進んだが、準決勝では九州国際大付打線に吉永がつかまり、2-9とよもやの大敗。吉永は変化球の精度にやや甘さがあり、ストレート狙いの九国打線に攻略されてしまった。

この選抜の敗戦を受け、関東大会では吉永を登板させない試合も作るなど、エースに頼らない戦い方も模索した。そして、迎えた西東京大会では前年夏に敗れた日大鶴ケ丘にリベンジし、決勝では因縁の早稲田実を2-1と僅差で振り切り、2年ぶりの甲子園出場を果たした。甲子園初戦では日本文理の2年生投手2人から14得点で大勝。打者1巡目は相手投手の球筋を見るために使うあたり、他チームとは一線を画す余裕も見せた。

アベレージヒッターの3番畔上、スラッガータイプの4番横尾(日本ハム)、俊足巧打の5番高山(阪神)とタイプの違う打者が並ぶため、相手バッテリーは神経をすり減らす。また、5番に入る高山が1番打者タイプでもあるため、そこから下位も強力なラインナップへとつながり、相手には息をつく暇がなかった。エース吉永も成長を見せ、もはやとどまるところを知らない強さを見せ始めていた。

そんな日大三と2回戦で激突することとなったのが、島根・開成高校。2001年に松江第一時代以来、久々に甲子園出場を果たすと、その後もコンスタントに甲子園出場。2007年夏に念願の初勝利を挙げると、2009年選抜では初戦で好投手・白村(日本ハム)を攻略して、神宮王者の慶應を下す大金星を挙げた。

そして、徐々に力をつけて迎えた2009年秋の中国大会で1年生エース白根(DeNA)の投球と出射、糸原(阪神)らの強打がかみ合って中国大会を初制覇。好投手・有原(レンジャーズ)を擁する広陵や堅田水原の2枚看板を擁した関西を連破した点でも価値ある優勝であった。

ところが、V候補の一角として迎えた選抜では21世紀枠の向陽に1-2と初戦敗退。上位に勝ち進む手ごたえを感じていたが、相手エース藤田のうまい投球の前に自慢の打線が沈黙した。そして、試合後のインタビューで野々村監督があの「末代までの恥」発言をしてしまい、開星は厳しい逆風に立たされた。結果、野々村監督なしで2010年夏にむかうことに。

それでも県大会を勝ち抜いた開星は再び有力候補として甲子園に乗り込む。初戦は仙台育英との強豪対決となった。開星は終始試合をリードし、最終回に1点差に詰め寄られるも、最後の打者をセンターフライに打ち取り、ゲーム終了…のはずがセンターがまさかの落球で仙台育英が逆転。その裏、サヨナラのチャンスで1番糸原が快打を放つも、相手外野手の好守備にあい、またも初戦敗退となった。

実力はありながらもなかなか勝ちきれない開星。新チームは絶対的エースとなった白根と同じく長身の4番を中心に、前チームにも負けないスケールの大きなチームであった。復帰した野々村監督に率いられたチームは、島根大会で新記録となる9ホームランを放って危なげなく連覇を達成した。甲子園初戦では白根が柳井学園を3安打で完封し、3度目の甲子園で初勝利をマーク。V候補・日大三への挑戦権を手にした。

打たれたら打ち返す名勝負

2011年夏2回戦

開星

1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 0 0 0 4 2 0 2 0 8
3 0 2 0 0 6 0 0 × 11

日大三

 

開星   白根→森→白根

日大三  吉永

焦点はやはり、日大三の強力打線を開星のエース白根がどう抑え込むかだった。初戦は柳井学園を力で抑え込んだ白根だったが、荒れ球でボールが暴れる傾向にある白根の投球が日大三の打線にどこまで通用するかは未知数であった。

一方、初戦で日本文理打線を3失点完投した吉永だったが、その試合で指のまめをつぶすアクシデントが発生していた。吉永はこのことを決勝までチームメートには言わなかったのだが、長打力を秘める開星打線に対して一抹の不安は感じていただろう。

開星は1回表、1アウトから2番秋国の死球と3番白根のライトへの巧打で1,3塁のチャンスを迎える。ここは吉永がストレート主体の投球で、4番、5番といった県大会でホームランを放った打者を連続三振に抑えるが、初回からやや苦しい投球となる。吉永の一番の武器であるシンカーが活きる左打者が1番の大畑一人しかいない点でも相性はよくなかっただろう。

しかし、不安な立ち上がりのエースを援護すべく1回裏に日大三打線が白根に襲い掛かる。1番清水がインローの決して簡単ではないボールをセンターにはじき返すと、犠打と内野ゴロなどで2アウト1,3塁とチャンスを拡大。ここで5番高山白根のストレートを痛烈にセンターに返して1点を先制する。さらに6番菅沼もタイムリーで続くと、日大三打線の重圧に押されたか、後続が2者連続四球による押し出しで続き、日大三が計3点を先制する。

初戦の柳井学園戦はボールの力で押し勝った白根だったが、さすが日大三打線だけあって甘く入ったボールはミスショットなくとらえていく。3回裏には再び5番高山、6番菅沼のホットラインが連続長打を放って追加点を得ると、8番吉永もきっちりライトへタイムリーを放って5-0。右スリークオーターからのシュート回転するボールを見逃してはもらえず、甘く入った変化球もことごとく外野に運ばれる。絶対的エースが全国一の強打線の洗礼を浴びた。

序盤3回での5失点は開星にとってはいかにも苦しい。試合は早くも決まったのかと思われたが、開星ナインはファイティングポーズを崩さない。2番手で登板したが長身からの角度のあるボールで日大三打線を抑え、守りからリズムを作る。野々村監督から向かっていく姿勢を崩すなと言われたナインはじっと反撃の機会をうかがった。

すると、5回表に開星は1アウトから9番黒崎、1番大畑が連打し、犠打で2アウト2,3塁とチャンスメーク。ここで3番白根が低めの変化球をうまいバットコントロールでセンターに落とし、2点を返す。この試合3本目のヒットと、打撃でも抜群のセンスを見せる白根の技ありの一打だったが、ここまではまだ点差は3点あるという雰囲気もたしかにあった。

しかし、次の瞬間に試合の流れは風雲急を告げる。4番吉永のストレートをドンピシャのタイミングでとらえると、打球はセンターバックスクリーンに飛び込む2ランホームランとなってあっという間に1点差に詰め寄る。開星自慢の長打力がここで発揮され、それまで試合を有利に進めていた日大三ナインにとっても動揺は大きかっただろう。

続く6回表、6番金山の四球と7番安原のバントヒットで無死1,2塁とチャンスを迎える。すると、この夏に急造捕手として白根を支えてきた8番安田吉永のストレートをバスターでとらえ、打球は左中間を深々と破って2者生還。野々村監督の強攻策が的中し、5点のビハインドを背負っていた開星がついに試合をひっくり返した。

しかし、逆転された日大三は続く7点目になりかけた犠飛を見事な連係プレーで断ち切ると、その裏すぐに反撃に転じる。2巡目となった2番手・の投球に対応し始め、1番清水のヒットと犠打失策などで無死満塁の大チャンスに。ここで4番横尾がきっちりセンターに返して逆転すると、この回打者一巡の猛攻で6得点で再び5点のリードを奪う。

6点取られて逆転されたらすぐに1イニングで6点取り返すあたりが、さすが強打の日大三。豪打のイメージが強いが、この回に見せた、ポテンヒットやスクイズなどでつなぐ攻撃もできるところが今年のチームの強みである。

しかし、チャレンジャーとしてぶつかっていく開星も最後まで勝負をあきらめない。8回表、7番安原、8番安田、9番黒崎が3連打を放って1点を返すと、さらに2番秋国もヒットを放って11-8。白根の中軸だけでなく、下位打線やつなぎの打者も吉永を打ち崩し、チーム力の高さを見せる。しかし、続く1アウト1,3塁のチャンスでここまで4安打の白根が三振に倒れ、4番も打ち取られて勝負あり。

結局両チーム合わせて29安打の大乱打戦を制し、日大三が3回戦進出を決めた。

まとめ

日大三にとっては5点のリードをひっくり返されるという想定外の展開だったが、選抜と違ったのはエースが攻略されても簡単に負けない戦いぶりを見せられたところであった。吉永も8点を失いはしたが、最後まで我慢強く投げ抜き、実に166球を投げ抜いて完投。苦しい試合を切り抜けた日大三はこのあと頂点まで突っ走り、10年ぶりに2度目の王者に輝いた。

一方、敗れた開星は負けて悔いなしという戦いぶり。試合後に野々村監督がナインをたたえたように、気後れしてしまいそうな相手に対して、向かっていく気持ちを失わずに大接戦を演じた。過去2大会は悲運の印象がついて回ったが、そのイメージを払拭して余りある戦いぶりであった。前年夏はまさかの敗戦を喫した白根も、最後の夏は実に清々しい表情で甲子園を後にした。

2011選手権ダイジェスト 日大三-開星 – YouTube

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