桐光学園vs智辯学園 2001年選抜

2001年

大会屈指の好投手を攻略したNEW FACE

21世紀を迎え、甲子園は新たな様相を呈していた。この年から21世紀枠がスタートし、宜野座・安積の2校が選出。高野連の新たな試みに注目が集まった。出場校全体を見渡しても非常にフレッシュな印象が強く、どこが勝ち抜くのか楽しみな大会であった。

優勝候補に挙がったのは常総学院、日大三、鳥羽、尽誠学園、東福岡の5校。奇しくもその5校がA、Bブロックに集中し、その5校を追う関西創価、東北、金沢なども固まった。そんな中、反対側のDブロックで注目を集めたのが桐光学園と智辯学園の実力校同士の一戦だった。

桐光学園は野呂監督に率いられ、1990年代後半から徐々に力を増してきた新興勢力である。1998年夏は初めて神奈川大会の決勝まで勝ち上がるも、松坂大輔(西武)の横浜に14-3と大敗。まだまだ夢の舞台への道は遠い印象もあったが、2年後の2000年夏には再び横浜に敗れるも3-5の惜敗であった。一度はリードを奪う試合展開に、ここ数年でのチームとしての成長が垣間見えた。

そして、そんな流れの中で迎えた新チームの秋。神奈川大会を順当に勝ち上がると、関東大会ではベスト8で試合巧者の水戸商に敗退も実力を高く評価されて選抜に選出された。3番の石井は昨夏から主軸を打っており、左方向にも長打の放てる力の持ち主。ミートポイントを捕手寄りに置き、ぎりぎりまでボールを引き付けて打てる。石井だけでなく黒木藤崎の中軸はもちろんのこと下位の天野桜井まで長打力を秘めた大会屈指の重量打線だ。

懸念されていた投手陣もエース猪原は速球に威力があり、コントロールが安定すればさらなる好投が期待できる。2年生左腕の清原も打たせて取る投球に安定感があり、初出場ながら上位争いをする力は十二分にあるチームだ。

一方の智弁学園は大会屈指の右腕・(横浜)を中心とした守りのチーム。過去の出場チームを見ると、打撃の印象が強かったが、この年は投手力主体のチームであった。

前年秋は近畿ベスト8で関西創価の野間口(巨人)との投げ合いに12と敗れたが、試合内容が評価されて選抜出場決定。は体の柔らかいしなるような投球フォームから繰り出す130キロ台後半の速球で、右打者の内角をぐいぐいつく投球が持ち味。低めの制球に加え、この冬で高めへの誘い球も取得し、より安定感を増した。

一方、前年秋にエースを援護しきれなかった打線は女房役も務める岡崎(阪神)が中心。秋はチーム打率が3割に届かず、やや非力な印象が否めなかったが、一冬超してどこまで伸びているか。成長株の2年生の上田松山らの活躍に期待がかかる。前年に兄弟校の智辯和歌山が大会記録を作る猛打を見せており、負けられない気持ちも強かっただろう。

7回に一気の集中攻撃

2001年選抜2回戦

桐光学園

1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 0 0 0 0 0 5 0 0 5
0 0 0 0 0 0 1 0 1 2

智辯学園

 

桐光学園  猪原

智辯学園  秦

ともに地区大会ベスト8の際どい位置からの選出となった両チームの対戦。試合の焦点はもちろん智辯の好投手・を桐光の強打が打ち崩せるかであった。

は立ち上がりから桐光学園打線に真っ向勝負を挑む。ストレートの最速は140キロ以上をマークし、桐光学園の上位打線の懐をどんどん攻める。対する桐光学園も初回に3番石井が痛烈なレフト前ヒットを放って強打の片りんを見せるが、秦-岡崎の智辯バッテリーが初回無失点で切り抜ける。

対する桐光学園の先発・猪原も序盤から快調なピッチング。課題の制球力にも改善が見られ、ストライク先行のピッチングで智辯の打者を打ち取っていく。エースに先制点をもたらしたい智辯学園だったが、猪原のスライダーをとらえることができず、得点はおろかチャンスの芽もなかなか作り出せない展開となる。

一方、桐光学園の強力打線と智辯バッテリーの攻防は激しさを増す。2回表に智辯バッテリーがマークすると公言していた5番藤崎が3塁打で出塁。先制のチャンスを迎えるが、が徹底した内角攻めで後続を打ち取り、得点を許さない。チーム打率3割8分5厘と高打率を残す桐光打線だが、ここまで執拗に内角を攻められた経験もなかっただろう。

の投球の前になかなか連打は難しいと判断した野呂監督は3回以降、手堅く送る戦法に出るが、の好フィールディングで犠打を刺されるなどして、なかなか得点の門をこじ開けられない。5回には2アウト1,2塁の絶好機で3番石井を迎えるが、またしてもストレートで詰まらされ、2者残塁。5回まで5安打を放って一方的に攻めながらも智辯バッテリーの牙城を崩せず、0-0の無得点で試合は後半に入る。

しかし、序盤から球数のかさむは6回に入って徐々にボールが高めに入り始める。得点にこそつながらなかったが、6番高木、7番天野に連打を浴び、桐光学園の攻撃がボディブローのように効き始めていた。また、味方打線に全くと言っていいほど得点の気配がしないことも重圧としてのしかかっていただろう。

そして7回表、ついに桐光学園打線が牙をむき始める。球数が100球に達したに対して、9番猪原がライト線に落ちる2塁打で出塁。1番桜井が犠打で送って1アウト3塁となると、智辯バッテリーは2番、3番石井を歩かせて満塁策を取る。ここで4番黒木に対してインサイドを突いたストレートがすっぽ抜け痛恨の死球。押し出しで1点を献上すると、さらに続く5番藤崎への投球も死球となって痛恨の連続押し出しに。桐光のスコアボードにタイムリーなしで2点が刻まれる。

これまで智辯バッテリーの配球の生命線となっていたインコースのストレートが災いしての2失点。このダメージは非常に大きく、2アウト後に7番天野にはスライダーが甘く入ってタイムリーを浴び、4-0。さらに1,3塁から重盗で得点を重ねるしたたかさも見せ、決定的な5点が入る。初出場とはいえ、勝負所を逃さない桐光学園の攻めはさすが激戦の神奈川でもまれただけのことはあると思わせるものであった。

6回まで猪原の前にほとんどチャンスを作れない智辯学園は7回裏にようやく反撃を見せる。それまでを懸命にリードしてきた岡崎が猪原のスライダーをとらえると、打球はセンターバックスクリーンに飛び込むソロホームランとなって意地の1点を返す。

さらに、9回裏には3番岡崎の四球と4番上田のライト前ヒットでこの試合初めて、桐光バッテリーを崩す場面を作る。ここで5番松山が犠飛を放ち、5-2と3点差に。上田松山の期待の2年生コンビがつながって得点をたたき出した。しかし、反撃もここまでで結局猪原の前に6安打2得点に封じ込められ、試合終了。桐光学園が初出場で見事に常連校の智辯学園を下し、甲子園初勝利を飾った。

まとめ

桐光学園は7回に一気の攻めで5点を挙げたが、やはりそれまでの執拗なまでの粘りの攻撃が智辯バッテリーに圧をかけていたのだろう。押し出し、タイムリー、重盗とたたみかけるような攻撃はさすが神奈川代表という迫力があった。この後2回戦で21世紀枠ながら旋風を巻き起こした宜野座に敗れるが、甲子園に大きな1歩目を刻んだ大会となった。

ただ、その後、夏の大会では神奈川の決勝で再び横浜に惜敗。2本の3ランを放って試合をひっくり返しながら、横浜のしたたかな攻撃の前に再び逆転され、7-10と涙を飲んだ。夏の初出場を果たすのは、この時2年生だった佐藤照沼清原船井らが最上級生となった翌年のことであった。

 

対する智辯学園はが素晴らしい投球で桐光学園を抑えていただけに、6回までに1点でも2点でも援護があればと悔やまれた。は7回に根負けしてしまった印象だったが、その投球を責めることはできないだろう。その後、夏も連続出場し、打線の援護もあって静岡市立、前橋工と倒し、ベスト16まで進出を果たした。

また、この敗戦で奈良県勢はこれで神奈川県勢に対して11連敗に。どうにも相性が悪かったのだが、2011年に智辯学園が劇的な逆転勝ちで横浜を下し、長い連敗の歴史に終止符を打つこととなった。

2001年選抜 智弁学園対桐光学園 – YouTube

【好投手列伝】奈良県篇記憶に残る平成の名投手 2/3 – 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)

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