大会12日目第1試合
報徳学園
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 3 |
0 | 0 | 0 | 0 | 7 | 0 | 0 | 0 | × | 7 |
山梨学院
報徳学園 南恒→前田
山梨学院 盛田→間木→今朝丸
初優勝を狙う山梨学院と21年ぶり3度目の優勝を狙う報徳学園の一戦は、中盤5回に山梨学院打線が火を噴き、報徳学園投手陣を攻略。エース林は6試合目の登板で疲れが残る中でも好投を見せ、山梨県勢に春夏通じて初の優勝をもたらした。
試合
山梨学院はエース林がこの日も先発のマウンドへ。一方、報徳学園は2年生右腕・間木が先発に指名された。
林はこの日が6試合目の先発。夏の大会でも6試合目は苦しいが、選抜の記念大会はさらに日程が詰まった中での戦いである。1回表、さすがに体は重そうであり、ストレートのスピード・切れともにいつもの林ではない。いきなり先頭の1番山増に四球を与えると、大角監督は2番岩本に初球からエンドランをしかけ、内野ゴロの間に山増は2塁へ進む。しかし、ボールに力が伝わらない中でも林は持ち味の制球力は失わない。好調の3番堀・4番石野をインサイドも強気に攻めて内野ゴロに打ち取り、初回を無失点で立ち上がる。
広陵戦でも立ち上がりは苦しい内容だったが、ここで崩れないのが林の強みである。
その林の疲労を考慮すると、何としても先制点がほしい山梨学院だったが、報徳の間木はここまで3人の投手起用でつないできたこともあり、疲労の色は濃くない。初回から決め球のチェンジアップをを武器に緩急自在の投球で強打の山梨学院打線をうまくかわす。堀の好リードと内外野の堅守も光り、エース盛田が本調子でない中、頼もしい立ち上がりを見せた。
一方、初回の内容を見ると苦しいかと思われた林も2回以降、徐々にボールが切れ始める。スピードはさすがに落ち気味だが、ベース板上での速度が落ちず、報徳打線をうまく打たせて取っていく。投げるたびに、疲れの残る中で抑えるコツをつかんでいる印象で、連投が当たり前だった昭和や平成初期の優勝投手を思い起こすピッチングである。序盤3回を終えて、両チーム無得点。静かな試合の入りとなった。
両チームとも先制点がほしいところだが、終盤勝負に強く、投手の枚数も多い報徳に比べ、林一人にすべてがかかっている山梨学院のほうがよりその気持ちは強かっただろう。しかし、中盤に入り、先に得点の門に手をかけたのは報徳であった。
4回表、先頭の3番堀がサード強襲の内野安打で出塁。さらに4番石野も初球のアウトコース真っすぐを引っ張り、連打でチャンスを広げる。2巡目に入って各打者に迷いがなくなってきた。5番辻田が犠打でランナーを進めると、1アウト2,3塁からなんと林にボークが飛び出す。3塁ランナーの堀が先制のホームイン。思わぬ形で試合が動くと、さらに6番西村が痛烈なセンター返しでつないで、この回2点をもぎ取る。
先制点を手にし、試合は報徳ペースかと思われた展開。しかし、無得点に抑え込まれながらも、百戦錬磨の山梨学院打線は静かにその牙を研いでいた。5回裏、一気に報徳の右腕・間木に襲い掛かる。
1アウトから7番大森が四球を選ぶと、打席には今大会打撃好調の8番林。2-1と追い込まれながら、高めの浮いた速球を逃さずとらえると、打球はレフトフェンスを直撃する2塁打となって2,3塁とチャンスを拡大する。続く9番伊藤も甘く入った速球をしっかりとらえてレフトへはじき返すと、2塁ランナーも生還を果たして2-2の同点。下位打線の連打であっという間に試合を振り出しに戻す。
投手交代も考えなくてはいけない展開になってきたが、準々決勝・準決勝とエース盛田の調子が上がらない中で、大角監督はこれまでのように思い切った継投に踏み切れない。そのスキを黙って見逃すほど、関東王者は甘くなかった。
1番徳弘が今度はスライダーをセンターに痛烈に打ち返すと、報徳バッテリーの選択肢は徐々に狭まっていく。間木の緩いボールに対し、各打者が手を出さない。緩急を武器に抑えてきたが、その武器が通じなくなってきていた。ここで、今大会は打撃に専念していた2番星野がショートの頭上を越す理想的な流しうちで勝ち越しに成功すると、さらに強打の3番岳原がこれも甘く入った変化球を右中間にはじき返す。ライト石野のファンブルを逃さずに1塁ランナーも生還し、一挙5点で間木をマウンドから引きずりおろす。
大角監督は2番手に同じく2年生の長身右腕・今朝丸を送るが、山梨学院打線の勢いは止まらない。4番高橋は報徳の好守に打ち取られるが、5番佐中がとどめを刺す。今朝丸のインサイド甘めに入った速球を逃さずとらえると、打球はレフトのはるか頭上を越えてスタンドに着弾する2ランホームラン!エース林に大きな援護点をもたらす一発を放ち、山梨学院は完全に主導権を握った。
準決勝で大阪桐蔭相手に5点差を跳ね返した報徳だったが、あの時とは残すイニングも違えば、自軍の投手陣の余力、そして失点の仕方とすべての状況が異なった。平常心を奪われた打線は、林の丁寧な投球の前に凡打の山を築き、得点を挙げることができない。
それでも、逆転の報徳の意地をみせるべく、8回表、先頭の1番山増が痛烈なセンターへのヒットで塁に出る。続く2番岩本は決死のセーフティバントを成功させ、ランナーをためると、スタンドはこの日一番の「アゲホイ」で声援を送る。しかし、ここでも林の制球力は崩れず、3番堀・4番石野を内野ゴロの間に1点を返すのがやっと。試合が進むにつれて、投げるボールの勢いが増していった感があった。
そして、最終回、ついに山梨県勢が遠かった優勝旗に手をかける瞬間がやってきた。今大会好調の6番西村、7番林を打ち取ると、最後は8番竹内を力のある速球でセンターフライに仕留めてゲームセット。開幕試合から6つのゲームを戦い抜って最後までマウンドを死守した林の好投と、集中打が武器の強力打線がかみ合い、山梨学院がついに甲府の地に紫紺の優勝旗を持ち帰ることとなった。
まとめ
山梨学院は、吉田監督就任以来、甲子園の常連となっていたが、なかなか勝ち上がれない戦いが続いていた。決して力がないわけではなかったが、伝統校・強豪校との接戦を勝ちきれず、涙を飲む試合が多かった。特に2018年~2019年のスラッガー野村をはじめとして、多くの強打者を擁しながらも、本番でのその打棒が発揮できずに敗れるのがよくあるパターンであった。
しかし、今大会は昨年の経験者5人を擁し、地に足のついた戦いぶりが光った。機動力も絡めたそつのない攻撃がもともと高かった打力にMIXされたことで、得点力は増していき、準々決勝以降は1イニング5点以上のビッグイニングで相手投手陣を沈めていった。勝てないときはなかなか思い切った作戦も取りづらかったが、今回は1大会2勝以上という呪縛から解き放たれたことで、ランナー3塁からのエンドランなど、吉田監督も自在の采配で得点を重ねていった。特に、岳原、高橋、佐中、進藤と続く4人には監督も全幅の信頼を置いている感じが伝わってきた。
そして、何といっても大きかったのはエース林の一本立ちだった。高校に入ってからの投手転向であり、昨秋は左腕・星野との2枚看板であったが、今大会は伸びのある速球をコーナーに投げ分ける投球で、6試合のうちほとんどを一人で投げぬいた。短いテークバックから回旋運動で縦回転の効いたボールを投じ、スピードは落ちても切れは失わないボールを投げ続けた。おそらく過去の甲子園の優勝投手の中でも、最も厳しい日程を勝ち抜いての栄えある優勝投手だ。
これまでの勝てない歴史を一気に塗り替えて初優勝を勝ち取った山梨学院。吉田監督は2009年の清峰時代に続き、2度目の選抜制覇となったが、今回の喜びは苦しんだ分だけひとしおだったのではないだろうか。横浜高校で長らくコーチを務めた小倉さんのアドバイスも取り入れ、一つ一つ課題を克服していった山梨の強豪が一気にスターダムにのしあがったのだった。
一方、報徳学園は惜しくも準優勝に終わったが、2試合連続でのタイブレーク・サヨナラ勝ちや大阪桐蔭戦の大逆転勝ちは見事の一言。大角監督就任以来、なかなか勝てない時期が続いていたが、「報徳復活」を高らかにアピールした大会となった。
初戦は健大高崎との強豪対決となったが、打って走れて選球眼もよい打線が、3者連続の押し出し四球や4番石野の2ランなど、硬軟織り交ぜた攻撃で大量7点を奪って見せた。投げてはエース盛田が球威十分の速球を武器に「機動破壊」の健大高崎打線を2点に封じ込める好投。投打がしっかりかみ合い、まずは順調に初戦を突破した。
しかし、3回戦以降は苦しい試合の連続に。東邦戦は3点のリードを追いつかれ、仙台育英戦は最終回に落球から付け込まれて同点にされてしまった。しかし、そんな苦しい展開の中でも持ち味の粘りで2試合連続のサヨナラ勝ち。特にサヨナラ打を放った西村、打率5割を記録した林と下位打線が好調だったことは非常に大きかった。
また、投手陣も安定感のある2年生右腕・間木、同じく2年生ながら角度のあるボールが武器の今朝丸と下級生の2人がエース盛田の不調を補った。決勝ではこの2人が捕まって敗れてしまったが、2年生でこれだけの経験ができたのは非常に大きいだろう。
そして、何といっても3番捕手の堀の存在である。強肩を武器に相手打線の盗塁をほとんど許さず、抜群のインサイドワークと強打でチームをけん引した。近年、捕手でこれだけの存在感を放った選手もそう多くはなかっただろう。兵庫代表らしい守りの野球を体現できたのも、堀の存在によるところが大きかった。目前で3度目の優勝は逃したが、今大会一のインパクトを残した地元の名門校が、その存在感を完全に取り戻した大会であった。
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