2014年夏の甲子園振り返りまとめ

2014年

大阪桐蔭三重の決勝となった今大会は最後まで1点を争う好ゲームの末、大阪桐蔭が2年ぶり4回目の優勝を飾った。これでここ7年で3度目の夏優勝。黄金時代の到来を予感させる。

大会はここ数年の傾向と変わらず東日本優勢。ベスト8のうち6校を占め、特に今年は北信越勢の活躍が目立った。出場5校はすべて初戦突破。奇跡的な逆転で勝ち上がった星稜をはじめ、敦賀気比や日本文理の強打、富山商業の好左腕・森田など大会の主役といえる活躍ぶりであった。一方、西日本勢は元気がなく、中四国勢はそれぞれ八頭・明徳の1勝のみ。西日本全体で1回戦突破は6校のみと寂しい結果に終わった。

県大会の星稜の奇跡の逆転の影響なのか、今大会のテーマは逆転であった。8点差をひっくり返した大垣日大藤代戦や9回に3点差をひっくり返した小松山形中央戦、逆転サヨナラツーランで決着した日本文理富山商業戦、延長12回酷暑の戦いの中で守備ミスに泣いた鹿屋中央市立和歌山戦など印象に残る逆転ゲームが多かった。

優勝に輝いたのは大阪桐蔭。勝ち方をつかんだ負けにくいチームという印象であった。今大会は試合によって相手によって様々な顔を見せながら最後は勝利をものにしてしまうといった勝ち方であった。2年前は藤浪を擁して圧倒的な勝ち方をしたが、そもそも今年は昨秋に選抜準優勝することとなる履正社にコールド負けしたとこからスタートしたチーム。決して順風満帆な道のりではなかった。そんな中キャプテン中村を中心に野球ノートをつけ、「日本一への道のり」と題うって本気で取り組んだ結果、春以降劇的な伸び率を見せた。

打線は上位の破壊力がすさまじく、特に攻撃的2番の峯本が機能した。1番が凡退しても出塁の役割を代わりにこなし、ホームランを放つなど決める役割もこなせる。1番中村、3番香月、5番森晋も1発を放つ打線は驚異的な破壊力を見せた。4番正随は走力もあり、ファーストでの守備力もあるという大阪桐蔭の4番としてはこれまでにないタイプの選手であった。決勝での最後の身を投げ出してのダイビングキャッチは見事。

投手は右サイドの福島が粘投。兄に続いて甲子園優勝投手となった。左打者のひざ元に落とすカットボールでゴロの山を築き、ピンチになっても粘り強く味方の反撃を待って投げぬいた。2年生左腕田中は3回戦の八頭戦で完封勝利。球速球威はそれほどでもないが、コントロールよく切れのある球を内外角に投げ分けた。来年のエースとして期待が高まる。

開星戦では初回4点、敦賀気比戦では初回に5点失いながら逆転勝利。特に敦賀気比戦は好投手平沼の癖を控え部員が事前に見抜いて攻略の糸口を見出すなどしたたかさを見せた。決して飛びぬけた選手が多くいたわけではないが、泥臭くプレーし、勝ち上がるごとに強くなった。2年前とは違った形での日本一。西谷監督も監督として手ごたえを感じた日本一だったのではないだろうか。

三重高校は初戦の広陵戦の勝利で勢いに乗った。昨夏は済美の安楽、今年の選抜は智弁学園の岡本とスター選手のいるチームに敗れ、なかなか勝ち星を挙げられなかったが、初戦で92アウトから2点差を追いつき、延長11回サヨナラ勝ち。1回戦屈指の好カードを制するとあれよあれよと決勝まで勝ち進んでいった。もともと今季東海地区では負けなしの王者。ようやく甲子園で力を見せることができた。投手・今井は選抜までは力任せの腕の振りが目立ったが、この夏は7割の力で切れのあるボールを投げ込み、特に左打者の外角へ逃げるスライダーは絶品。準決勝では強打の日本文理を完封し、決勝でも大阪桐蔭を4点に抑える好投を見せた。打線はもともと評判は高く、特に1番主将長野は5割近い打率を誇り、センターの守備でも背面キャッチを見せるなど走攻守でチームを引っ張った。3番宇都宮、4番西岡は長打力があり、2番の佐田のつなぎや山野、今井など下位打者もいい仕事をし、つながりのある打線であった。

そして、光ったのが守備力。6試合で4エラーの堅い守備力は中村新監督の教えのたまものだろう。監督自身2002年に日章学園を率いて22安打を放ちながら敗れるという試合を経験。守備の重要さを感じて鍛えたことが今大会の躍進につながった。また、練習ではフリーバッティングでも必ず後ろに審判役をつけてストライク・ボールのジャッジをさせた。ただ、打って気持ちよくなるのではなく試合形式に近づけることによってより良い練習となった。他のチームも真似してもよい練習だろう。三重県勢として久しぶりの決勝進出を果たした戦いぶりは素晴らしかった。

今大会で1番の衝撃を与えたチームと言えばかなりの人が敦賀気比を挙げるのではないだろうか。それぐらい衝撃的な打棒だった。1回戦から3回戦まで毎試合2桁得点。実に93年ぶりの出来事だった。選抜王者平安を抑えた春日部共栄・金子やプロ注目の盛岡大付・松本も一蹴した。特に36番の浅井・岡田・峯・御簗の4人については指導者も「何も言う必要がない」というほど全幅の信頼を置かれていた。昨秋に福井工大福井に敗れ、冬場の練習でひたすら素振りをし続けた。春以降2年生エース平沼(日本ハム)が一本立ちするとチームの戦いは安定した。県決勝では10-2とリベンジ成功。あとは磨き上げた打力を甲子園で披露するだけだった。スイングスピード・長打力ともに大会出場校では抜きん出ており、下位まで全く切れ目のない打線はすさまじかった。それだけに準決勝の大阪桐蔭戦で平沼が崩れたときにもう一人投手がいなかったことが悔やまれた。準々決勝まで大差の試合が続いただけに平沼の疲労を取ってあげられる投手がいればと惜しまれる。

しかし、篠原・平沼・山本と残る新チームは期待が持てる。来年こそ悲願の全国制覇を目指す。

日本文理は盤石の勝ち上がりでベスト4進出。もう新潟が野球後進県とは言えないだろう。エース飯塚(DeNA)は安定感抜群のピッチング。コンパクトなテイクバックからバッターのインサイドを突き、得意のカットボールで打たせて取った。選抜では詰めの甘さで初戦敗退したが、今大会は5試合完投。準決勝の後、その根性を大井監督に褒められる姿が印象的だった。最後は選抜に続いて東海勢に敗れたが、5失点しながらも最後まで粘って投げぬいた。打線の迫力はさすがの一言。昨秋の明治神宮大会で1試合5発を放った打線が最後の夏に本領を発揮した。2年生トップバッター星は初戦で大分の好投手佐野(オリックス)から一発を放ち、5割近い打率を残した。3番小太刀、4番池田は試合を決めるタイムリーを放ち、6番の新井は2ラン2発。特に、富山商業戦の逆転サヨナラ2ランは大会ハイライトの一つとなった。8番鎌倉、9番飯塚も長打力があり、ヒット数以上に相手にとって怖さを感じさせる打線であった。2009年の夏以来の準決勝進出ですっかり「強打の文理」として定着した。また、ショートの黒台を中心とした守備もエースを盛り立てた。

昨秋の覇者沖縄尚学は春夏連続の8強入り。1回戦ではエース山城がライアン投法で好投。初回に朝山に浴びた1発のみに抑え、作新学院を3安打1失点で完投した。3回戦では二松学舎大付相手に初回の4点を中盤で守備ミスもあってひっくり返されるちぐはぐな展開。しかし、7回に追いつくと最後は9回裏に4番安里の左中間を破るサヨナラヒットで勝利を飾った。が、準々決勝ではエースの山城が大量失点。炎天下の中ライアン投法を保ち続けるのは難しく、バランスを失った。それに加え、リリーフ右腕の久保も故障。明治神宮大会決勝のように8点差をひっくり返すような展開には持ち込めなかった。しかし、エース山城に西平・安里ら打者もタレントぞろいのチームでこの1年常に上位に進み続けた。昨年の悔しさも経て成長したチームは改めてここ数年の沖縄野球の力を見せつけてくれた。

八戸学院光星は2年ぶりのベスト8進出。県大会では打棒が光ったが、今大会は2年生エース中川の投球が光った。武修館戦、星稜戦ともに先行を許すも、粘り強いピッチングを披露。7種類の変化球にインコースを突くストレートで最少失点に抑えた。打線は湿りがちであったが、8回に逆転ないし同点にする粘り強さを発揮。特に4番深江が星稜・岩下(ロッテ)から放った起死回生の同点ホームランは、それまで完璧に抑え込まれていただけにショックを与えるものだった。しかし、準々決勝では先発の2年生呉屋がスリーランを浴びるなど後手後手に。強打のお株を奪われる格好となった。やはり仲井監督自身夏を制するにはバッティングと思われているため、来年2年生投手3人(中川、呉屋、八木)残ることも考えると、打力の向上こそ優勝への近道と言えるだろう。

健大高崎は夏は初のベスト8進出。機動破壊の4文字も今大会ですっかり定着した。盗塁は4試合で25盗塁を記録。1番平山は個人盗塁タイ記録の8盗塁をマークした。盗塁に関しては足の速さもそうだが、スタートのよさが光った。走塁の意識がよく浸透してるのだろう。3番の脇本(ロッテ)はノーステップから長打を連発。目線のぶれない確実な打撃を見せた。2年生の柘植、柴引もいい打撃を見せ、来年にも期待が持てる。投手陣は健大高崎の伝統になりつつある左腕の技巧派エースが活躍。高橋、2年生川井はともにスライダーとチェンジアップをうまく織り交ぜ試合を作った。準々決勝では2年前の選抜に続き大阪桐蔭と対戦。あの時と違い、盗塁を成功させて健大らしい野球となったが、最後は再び1発に沈んだ。今後の課題としては、走力にプラスして打力の向上と右の力のある投手の出現に期待したい。

聖光学院は夏初めての3勝でベスト8進出。聖光学院らしい競り合いながら小技を駆使して食らいつく野球が見られ、「THE聖光」といった印象のチームであった。ピッチャーは昨夏のエース石井が不調も、代わりにサイド右腕の船迫と2年生の今泉が台頭。今泉は初戦の神戸国際大付戦であいての胸元を強気に突く投球で1点に抑えると、2戦目は船迫が佐久長聖を2失点完投。3回戦の近江戦では相手のエース小川に抑え込まれたが、9回裏に柳沼のヒットからチャンスを作るとセカンドゴロフィルダースチョイスで同点。最後は初戦で勝ち越し打を放った今大会のラッキーボーイ石垣のサヨナラスクイズで逆転勝ちを収めた。石垣は7割近い打率を残し、こういう打者を6番におけるチームはやはり強い。

毎年、勧誘はせずに聖光に来たいと思った選手のみで作るチーム。競争力の高さと斉藤監督の人間力の野球でここまで安定して結果を残せるのは特筆ものである。しばらく聖光学院の時代が続きそうと思わされる今大会であった。

その他で印象に残ったチームとしては、1年生3人(三口、大江、今村)を擁してようやく帝京の壁を破った二松学舎大付も素晴らしいチームだった。1年生が活躍できるような雰囲気ができており、控えも含めた3年生のおかげだろう。ホームランを放った秦の怪力は度肝を抜かれた。

富山商業も富山県勢としては久しぶりの力強いチームであった。森田は力のあるストレートに左バッターの外に逃げるスライダーで手玉に取った。特に関西との試合は相手の主力が左だっただけに効果絶大であった。3回戦では一時日本文理のエース飯塚を相手に逆転。最後はリリーフの岩城が逆転サヨナラツーランを浴びたが、今年の北信越のレベルの高さをうかがわせるチームであった。

星稜も印象深いチームの一つ。県大会での9回裏9点取っての逆転は今後100年語り継がれるだろう試合。アメリカでも話題になったほどだ。勢いに乗って甲子園初戦の静岡戦でも逆転勝利。3回戦で岩下が痛恨の同点ソロを浴びて敗れたが、必笑の合言葉を胸に笑顔の絶えぬ雰囲気で勝ち進んだ。

また、山形中央の粘り強い戦いも印象に残った。初戦の小松戦は9回に大逆転の乱打戦を制し、一転東海大四とは延長10回の投手戦をしのぎ切った。監督のモットーである「甲子園はいいプレーをしていれば呼ばれる場所」の通り、最後まであきらめない粘りを投打に見せた。ホームランを放った2年生4番青木や145キロの球速を誇る石川(日本ハム)など力のある選手も多く、山形の強豪校の一角としてこれからも出てくるだろう。

明徳義塾の岸は4回目の甲子園。1回戦では智弁学園・岡本との注目の対決を制し、4回とも初戦を突破。しかし、2戦目では優勝した大阪桐蔭相手に序盤に失点を重ねてしまった。ストレートに、カットボール、スライダーを織り交ぜるが悪い時はどうしても単調な投球になってしまった。もう少し遅い変化球があって緩急がつけば違ったのかもしれない。打線が春以降力をつけ、優勝する力はあっただけにもったいない試合となった。

印象に残った投手としては超スローボールの東海大四・西嶋や初戦で敗れたが自らホームランも放った小さな大投手広陵・吉川、東邦の絶叫1年生藤嶋、17イニング連続無失点の近江・小川なども挙げられる。

大分・佐野は日本文理の強打に散り、盛岡大付・松本は右ひじのけがに泣いた。

龍谷大平安は開幕戦で守備ミスからの初回5失点に泣き、春夏連覇を逃した。春日部共栄のエース金子は2年生時に同じく選抜優勝がえりだった浦和学院の強力打線を県大会で延長101失点に抑えた実力者。テークバックも短く打ちにくい投手であり、初見で5点ビハインドで相対するのはいくら強打の平安でも厳しすぎただろう。

140キロカルテットを擁する東海大相模は盛岡大付の松本相手に初回に幸先よく2点を先制。しかし、中盤先発・青島の交代期が遅れて逆転を許すとそのままずるずると敗れてしまった。松本の予想外の技巧派ピッチング(ひじのけがによるもの)もあっただろうが、やはり複数の強力投手を擁する場合の継投の難しさが出た試合となった。

両校を見ていると優勝候補に挙げられながら勝ち上がる難しさを感じた。

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