2022年選抜1回戦
木更津総合vs山梨学院
51% 49%
関東の強豪同士の激突となったカード。ともに、好投手と強力打線を擁し、投打にハイレベルな戦いが演じられそうだ。
木更津総合のエース越井は近年プロ入りした早川や山下にも劣らない実力の持ち主。威力のある速球を武器とし、緩急も織り交ぜて打ち取っていく。関東大会の準々決勝では前年の選抜王者の東海大相模を1失点完投で下しており、全国トップクラスの打者も封じ込めることができる。マウンドで強気を崩さない気持ちの強さも合わせ持っており、難攻不落の右腕だ。
対する山梨学院は清峰で選抜優勝経験のある吉田監督が、「今年は打てる」と自信を隠さない強力打線に仕上がっている。2019年の菅野、野村のような一発で相手を沈めるタイプの打者はいないが、そのぶん上位から下位まで満遍なく打つことができ、公式戦のチーム打率は4割を超した。関東大会で17打数11安打と大暴れした1番鈴木を筆頭に切れ目なく相手を追い込んでいく。
一方、山梨学院のエース榎谷も越井と同様に関東屈指の実力を持つ本格派右腕だ。秋の防御率はほぼ1点を記録し、四死球もほとんど与えないため、相手からするとなかなかランナーを許してもらえない。ストレートは、上から投げ下ろすフォームのためボールに角度もつき、打席ではさらに打ちにくく感じてしまう。工夫して狙い球を絞らないと、ポンポンと打ち取られるタイプの投手だろう。
対する木更津総合打線は1番に長打力のある山田を据え、初回から相手投手に圧力をかける打線となっている。上位には朝倉、水野、芦川と2年生が多く並ぶが、みなチャンスで強く、上位打線で打点の大半をたたき出した。秋はやや非力だった下位打線の強化が進めばよりスキがなくなるが、上位陣だけで相手を崩す破壊力を秘める。
勝敗を分けるのは両エースの出来になるだろう。ともに打線は強力だけにちょっとしたスキを見せれば、一気の大量点もあり得る。近年の甲子園の実績ではやや木更津総合が上回るが、果たして今回はどちらが勝利するか。
主なOB
木更津総合…与田剛(中日)、井納翔一(巨人)、鈴木健矢(日本ハム)、早川隆久(楽天)、山下輝(ヤクルト)
山梨学院…玉山健太(広島)、大島崇行(広島)、松本哲也(巨人)、明石健志(ソフトバンク)、垣越建伸(中日)
千葉 山梨
春 0勝 0勝
夏 1勝 1勝
計 1勝 1勝
対戦成績は1勝1敗。1991年夏は親子鷹で注目された荒井修(日本ハム)がエースの安孫子を、選抜で旋風を巻き起こして4強入りした市川のエース樋渡が2-0と完封し、春に続いて8強に勝ち上がった。
一方、1997年夏は市立船橋と甲府工が同じく3回戦で激突。接戦となったが、終盤に勝ち越し点を挙げた市立船橋が4年ぶりの8強入りを決めた。関東勢同士譲れない戦いを制するのはどちらのチームか。
思い出名勝負
1997年夏3回戦
甲府工
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 2 | 0 | 0 | 4 |
2 | 1 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 | × | 5 |
市立船橋
甲府工 小沢→辻智
市立船橋 長尾→松尾
1997年の3回戦最後の試合は、関東勢同士でベスト8を争うナイトゲームとなった。
市立船橋は名将・小林監督に率いられて2年連続の甲子園出場。前年にも甲子園を経験した左腕・長尾、右サイドの松尾の2枚看板を中心に、粘り強くしたたかな野球で千葉大会を勝ち上がった。小林監督に鍛え上げられたチームは目立った選手はいなくとも、犠打、堅守、勝負強い打撃で終わってみれば試合を制している強さがあった。
本大会では1回戦で熊本の文徳と対戦。序盤に左腕・長尾の不調もあって1-9と大量リードを奪われるが、リリーフした松尾の好投と相手守備陣のミスに付け込む攻撃で、結局17-10と大逆転勝利を飾って見せた。勢いに乗って迎えた2回戦では、V候補の仙台育英にも終盤に2点を奪って逆転勝ち。市立船橋が大会の台風の目になってきていた。
対する甲府工はこちらも名将の原監督に鍛え上げられた守りのチーム。中込(阪神)、山村(近鉄)ら好投手を育て上げ、甲子園で勝利を積み重ねてきた。ただ、今年の3年生は校舎の改築の関係でグラウンドが使えない不運があり、練習では苦労を強いられてきた。そんな不利な状況でもめげずに練習を積み重ねたチームは山梨大会で強豪・市川に4-3と競り勝ち、4年ぶりに夏の甲子園に戻ってきた。
甲子園ではエース左腕・小沢が持ち味のカーブを武器に八頭打線を6安打で完封。2回戦では初戦で2本の2ランを放った2年生スラッガー古木(横浜)も緩急で翻弄し、4-2と甲府工らしいスコアで勝利を収めた。甲府工としては初めて夏の甲子園2勝を挙げ、チームの勢いは最高潮であった。
市立船橋は長尾、甲府工は小沢とともに両左腕が先発。試合は初回から意外な様相を呈する。
長尾が初回に2安打を許しながらも無失点で切り抜けると、その裏に甲府工の小沢がつかまる。過去2戦と比べるとやや制球の甘い左腕から市立船橋は先頭の武藤がセンターへヒットを放つ。1アウト2塁となって2回戦でも逆転劇を演じた3番太田、4番大和田のコンビが長短打を放って2点を先制。この日の小沢はカーブが高めに浮きがちである。
2回裏にも太田にタイムリーを浴びた小沢は、4回裏に2番中村のセンター前タイムリーで4点目を失ったところでついに降板。守りの野球が信条の甲府工としてはリミットの点差であった。市立船橋としてはランナーが出たらきっちり送って後続が返すという理想のパターンである。
ところが、県大会決勝でも好リリーフを見せた右腕・辻智が登板すると、流れが変わる。右スリークオーターからの丁寧な投球で打たせて取り、4回まで6安打を放っていた市船打線は中盤以降沈黙することとなる。
すると、5回まで毎回ヒットを浴びせながら無得点だった甲府工打線が6回についにつながる。先頭の吉田が四球で出塁すると、こちらも手堅く送って1アウト2塁に。ここでこの日2安打と当たっている7番大森がセンターへタイムリーを放ってまず1点。さらに2番手で登板した辻智もタイムリーを放ち、市立船橋の背中が徐々に見えてくる。
攻勢を強める甲府工に対して、小林監督は継投のタイミングをうかがっていたが、まだ長尾の降板はない。7回表、甲府工は4番辻俊、5番吉田の連打と犠打で1アウト2,3塁のチャンスを迎える。ここでついに市船は松尾をマウンドに送るが、すでに猛打賞を記録している7番大森が甘く入ったボールを完ぺきにとらえると、打球はセンターの横を破るタイムリー2塁打となり、2者生還。ついに甲府工が同点に追いつく。
互いに譲れない関東勢同士の攻防。しかし、今度は市船のリリーバーが流れを引き寄せる。同点タイムリーは浴びたものの、後続を打ち取ってこの回をしのぐと、右サイドからの丁寧なコーナーワークでここまで毎回安打の甲府工打線が沈黙させる。1,2回戦に続いて素晴らしいピッチングである。
試合が決まったのは8回裏であった。ここまで好リリーフを見せていた辻智に対し、四球の5番大宮を犠打と内野ゴロで3塁に進める。打席にはリリーフで登板した8番松尾。リリーバー同士が対峙することとなったが、その松尾の打球はサードの手前でイレギュラーするラッキーなヒットとなる。辻智にとってはあまりに不運な結果となったが、これで3塁から大宮が生還。市立船橋が5-4と勝ち越しに成功した。
7回途中からマウンドに上がった松尾は結局打者10人に対して1安打1死球のみで、甲府工打線を翻弄。最終回も相手の攻撃を無失点で退け、市立船橋が4年ぶりのベスト8へコマを進めた。
市立船橋はその後、準々決勝でそれまで好投を見せていた松尾がつかまり、浦添商に1-11と大敗を喫する。しかしながら、小林監督の指導の下、選手たちがしっかり役割を果たし、個々の能力では上回る相手を下す様は高校野球のお手本と呼べるものであった。毎年のように代表が入れ替わる激戦の千葉県だが、この時代は間違いなく「イチフナ」の時代であった。
一方、甲府工も一時4点あったビハインドを帳消しにした戦いぶりは素晴らしかった。近年はなかなか甲子園でその姿を見ることはないが、守備力の非常に大会甲府工の野球はライバル市川と並んで、山梨の公立校が目標とする存在であった。私立全盛になりつつあった平成の甲子園で確かな存在感を残したチームであり、再び甲子園でその姿を見れる日を心待ちにしてるファンも多いはずだ。
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