2023年選抜2回戦 高知vs履正社(6日目第3試合)

2023年

大会6日目第3試合

履正社

1 2 3 4 5 6 7 8 9
0 0 1 0 0 0 0 1 0 2
0 1 0 0 0 0 0 2 × 3

高知

 

履正社   福田→増田

高知    西村真→平→辻井

甲子園をよく知る常連校同士の対戦は、「野球の怖さ」が凝縮された試合に。終盤のワンチャンスをものにした高知が、無安打から一転して勝者に駆け上がった。

試合

高知の先発は昨秋エース格だった右腕・西村真、一方、履正社は大方の予想をかわし、左腕・福田がマウンドに上がった。

高知の右腕・西村真はややテークバックが大きいフォームから繰り出す球威のある速球が持ち味。初回、履正社の上位打線を早打ちにも助けられて打たせて取り、3人で退ける。対する履正社の先発・福田は初回、2番福井に四球を与えるが、こちらもしなやかなフォームからキレのあるボールを内外に配し、初回を無失点で切り抜ける。

ともに投手層は厚いだけに先行して逃げ切る展開が理想。先に得点の門をこじ開けたのは高知であった。

2回裏、5番高木を三振に取るも振り逃げで出塁。初回は落ち着いて見えた福田だが、ここから2者連続の四球を与え、無死満塁のピンチを招く。ここで打者・西村真は初球スクイズを敢行するも、履正社バッテリーが見破り1アウト。すると、高知の濱口監督は早くも打席途中で先発・西村真に代打・内田を送ると、この打席で福田に暴投が飛び出し、高知が1点を先制する。両チームとも激しく動いた攻防の中で、なにかバタバタしているうちに履正社は失点してしまった印象だった。

しかし、強打を誇る履正社はすぐに流れを引き戻しにかかる。直後の3回表、2アウトから注目の好打者である1番西がセンター前にクリーンヒットを放つ。続く2番森澤の打席でけん制悪送球があり、2塁に進むと、森澤もスライダーをセンターに打ち返してタイムリーとし、履正社が同点に追いつく。高知の投手陣はストレート主体に押す投手が多く、履正社打線としては序盤から苦にしている感はない。

4回以降、試合は投手戦の様相を帯びていく。履正社・福田は低めのスライダーを武器に高知打線を翻弄。手元でピュッと伸びる速球との配合は効果絶大で、四死球は与えながらもヒットは1本も与えない。上位から下位までしぶとい打者が並ぶ高知打線をもってしても攻略困難なピッチングを展開する。

打線が湿ってきた高知の濱口監督は流れを渡さんとばかりに、早めの継投を選択。5回にが先頭打者にヒットを許したところで、3番手に初戦で先発した辻井をマウンドに送る。辻井は1回戦と違って立ち上がりから制球が安定。威力のある速球とスライダーを配し、1番西、2番森澤、3番森田と、ストレートに強い履正社の上位打線を封じる。現状、濱口監督にとっては、一番速球に勢いのある、この2年生右腕が必殺の鉞なのかもしれない。

しかし、高知の思惑と裏腹に履正社・福田は自らの投球で試合の流れをぐんぐん手繰り寄せる。特に左打者の外に逃げるスライダーのキレ味は素晴らしく、高知打線にほとんど自分の打撃をさせない。昨年からエース格だった同じ左腕の増田から先発の座を奪ったのも納得の内容だ。7回まで高知打線を無安打に封じ、圧巻の投球を続ける。

ただ、その福田を援護したい履正社打線も、この日は大舞台で力が入ったか、やや大振りが目立つ。高知投手陣にもスキがなかったわけではないが、要所を締められ、試合は終盤戦に突入する。

さすがにスコアボードのH欄の「0」にほとんどの人間が気づき始めた8回。ついに履正社打線が辻井をとらえる。先頭の2番森澤がたたきつける打撃で内野安打を奪取。続く3番森田は犠打を2回失敗するが、多田監督は切り替えて3球目にエンドランをかけるとこれがセンターへのヒットとなる。森澤は一気に3塁を奪うと、4番坂根がインサイドの速球をきっちりレフトへ打ち上げて犠飛となり、履正社が貴重な勝ち越し点を挙げる。

しかし、辻井はさらにランナーをためて満塁としながらも後続はぴしゃりと抑える。通常なら履正社の雰囲気になるであろう展開。ただ、この日は先発投手の無安打試合という記録がぶら下がっている。過去にこの状況から沼に引きずり込まれた高校がいくつあったことか。異様な雰囲気の中、試合は8回裏に突入する。

すると、この回、高知は先頭に代打・井上を送る。濱口監督は交代のカードを切るのにためらいがない。この井上福田のスライダーを詰まりながらもライトに打ち返すと、打球はセカンドとライトの中間にポトリ。かつてよく無安打記録を止めた試合で見たような当たりで、ついに福田から初ヒットを記録する。

これで肩の荷がおりたか、ここから高知ナインは伸び伸びとした雰囲気になる。辻井が犠打で送ると、濱口監督はまたも、ここまで好守を見せてきた9番主将の西村侑の打席で代打・中嶋を送る。福田は動揺したか、中嶋に四球を与え、逆転のランナーの出塁も許す。

高知にムードが偏るなか、履正社・多田監督はついにここでエース増田をマウンドに送る。しかし、増田も立ち上がりで制球がばらつき、1番木村は四球で1アウト満塁に。2番福井は渾身の速球で空振り三振に取るが、2アウト後、打席には3番高塚を迎える。3回の同点タイムリーでセンターの打球をはじき、責任を感じていた主砲は、取り返す機会を待っていた。それまで一球も振らずにカウント2-2と追い込まれて迎えた5球目を振り抜くと、打球は詰まりながらも二遊間の真ん中を破る2点タイムリー。高知が土壇場で試合をひっくり返した。

反撃したい履正社は最終回、先頭の9番増田が汚名返上とばかりにライトへ痛烈なヒットを放つ。しかし、1番西・2番森澤と走者を送れず、2アウト。3番森田が四球を選び、最後の望みをつないだが、4番坂根は力が入ってしまったか。辻井の高めの速球を打ち上げてしまい、サードフライで試合終了。高知がヒットわずか2本で8安打の履正社に勝利し、昨年を上回る甲子園2勝目を手にした。

まとめ

高知は負けパターンに陥りかけてる中でも、選手と濱口監督が落ち着いて試合を進めていた印象だった。特に、濱口監督は軟式野球出身ということもあり、こういうロースコアの展開は慣れていたか。投手にしろ野手にしろ、とにかく選手交代に迷いがな。特に投手交代については、先手先手を打ちながら、「野球は点やらなきゃ負けないんだ」という意思が伝わってくる継投であった。

投打ともにスター選手はいるわけではないが、全員が自分のできる仕事をきっちりこなしている高知。こういうチームが地味に強いのは周知の事実であり、投打に層が厚いため、少し不振の選手が出てもカバーできる。春夏各1回の優勝を誇る名門校が、地道に一歩ずつ、2度目の選抜制覇へ向けて歩みを進めている。

一方、履正社にとっては2020年の交流試合をのぞくと、春夏通算34試合目で初めての逆転負けとなった。岡田監督時代から恵まれない練習環境の中、バント・守備・走塁を鍛え上げ、手堅い野球で強くなってきた履正社は、リードした試合を落とすことが少なく、それがこれまでの逆転負けなしという結果につながっていた。しかし、この日は福田の無安打投球が、結果論ではあるが、継投のタイミングを遅らせることにつながってしまったかもしれなかった。

また、打線は森田坂根の強力な中軸を中心に確かな打力の高さを持っていたが、久々の大舞台でやや力が入ってしまったか、振りが大きくチャンスを活かせない結果となった。対照的に、高知は2安打で少ないチャンスをものにすることに。実は履正社にとっては、34試合目で初めて四国勢との試合でもあったが、試合巧者でよく野球を知るチームの多い四国勢相手に、今回は苦汁をなめる結果となった。

ただ、岡田監督の時も初出場は専大北上戦で9回にホームスチールを失敗して試合終了したところからスタートしている。多田監督率いる新生・履正社も、これから自分たちらしい野球で結果を残していくはずだ。

2023年選抜2回戦予想 履正社vs高知 | 世界一の甲子園ブログ (kosien.jp)

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