2024年選抜1回戦
中央学院vs耐久
51% 49%
好投手を擁する守りのチームと機動力豊かなチームの対戦。どちらが自分たちのペースで試合を運べるかがカギになる。
耐久の絶対的な中心は何といってもエース冷水。球速、球質もさることながら、一番の武器は何といっても「相手を見て投げられること」と「試合中のゲームマネジメント能力の高さ」だろう。最速142キロのキレのある速球と多彩な変化球を、相手の狙っていないタイミングで狙っていないコースに投げ、気づけば打ち取っているのが彼の投球の強みと言える。相手打線の長所を殺し、術中にはめる技に注目したい。
対する中央学院打線は、非常に機動力豊かなのが特徴。チームの盗塁数は13試合で42個を記録し、ここぞという場面で先の塁を狙ってくる。1番颯佐は50メートル5秒台の俊足で相手守備陣をかき回すことのできる理想のトップバッター。初回の攻撃で彼が塁に出れば、一気に中央学院のモードになってきそうだ。関東大会を制した2018年と比べると、スケールの大きさでは劣るかもしれないが、足を絡めた得点力は上回るかもしれない。相手投手にとっては最もやりづらいタイプの攻撃陣と言えるだろう。
一方、中央学院投手陣は、いずれも最速が140キロを超える、力のある3投手を擁し、豊富な陣容で勝負する。188㎝の長身右腕・蔵並は角度を活かした投球が光り、サイド右腕の臼井が逆にストライクゾーンの横幅を活かして打者を翻弄する。そして、打撃でも注目の右腕・颯佐はストレートのスピードは148キロとチーム内で最も早く、まさに野球選手の塊。スライダーを交えた力の投球で三振が奪え、ストッパーとしても有能な投手だ。
対する耐久打線も派手さはないが、つないで得点を奪う力は確実に持っている。特に上位打線には走れる選手がそろっており、打てないときでもランナーをしっかり先の塁に進めて、1点1点積み重ねるスタイルが確立されている。これはやはり、エース冷水の安定した投球により、失点が計算できるという強みがあるからだろう。1番堀端は俊足と状況判断力を兼ね備えた格好のトップバッターであり、彼の出塁が耐久の得点を左右するのは間違いないだろう。
中央学院としては、自慢の足を活かした攻めで、耐久バッテリーに少しでも圧力をかけたいところ。耐久としては冷水が攻略されるということは、ほぼ負けを意味するだけに、まずは守りに全精力を傾けたい。終盤まで接戦で進む好試合になりそうだ。
主なOB
中央学院…古城茂幸(巨人)、安原政俊(巨人)、藤崎大輔(日本ハム)、押本健彦(ヤクルト)
耐久…梅本正之(阪神)
千葉 和歌山
春 1勝 0勝
夏 3勝 3勝
計 4勝 3勝
千葉vs和歌山の強豪県対決の歴史は、ほぼ「千葉勢vs智辯和歌山」の歴史でもある。夏の対戦はすべて、平成に入ってからの智辯和歌山の試合であり、数々の名勝負を繰り広げてきた。
1992年夏はラッキーゾーン撤廃初年度であり、また、前年の沖縄水産・大野投手の連投による故障で、高野連が複数投手性の導入を呼びかけるなど、エポックメイキングな年でもあった。そんな流れの中で、智辯和歌山と拓大紅陵が対戦。智辯和歌山が藤田の3ランで3点を先行したが、4人の力のある投手の継投で勝ち進んできた拓大紅陵が継投で流れを引き戻す。中盤の集中打でひっくり返すと、最後は1点のリードを守り切って見事な逆転勝ち。智辯和歌山にとっては出場4大会連続初戦敗退という苦しい時代であった。
そこから月日は流れ、1994年春・1997年夏と2度の全国制覇を果たしてすっかり強豪校となった智辯和歌山は2000年の選抜でも準優勝を達成。同年夏も記録的な猛打で中京大中京・高橋、PL学園・朝井(近鉄)、柳川・香月(近鉄)、光星学院・根市(巨人)と好投手を次々に打ち込んで、決勝へ進んできた。
その決勝の相手は東海大浦安。エース井上が故障で春先に離脱するアクシデントがありながら、セカンドを守っていた「背番号4のエース」浜名がシュートボールを武器に相手打線を封じ込め、波に乗って一気に決勝まで勝ち進んできた。決勝は連投で制球に苦しむ浜名を打線が援護し、東海大浦安が先手を取って試合を進める。
しかし、浜名の前に立ちはだかったのはこちらもチームの主将である2番堤野であった。浜名の甘く入ったボールを2打席連続でスタンドに放り込むと大量5点をあげた8回の攻撃でもタイムリーを放つ大活躍。11-6と智辯和歌山らしい逆転勝利で2度目の夏の全国制覇を果たし、チームメイトを厳しく引っ張ってきた主将が歓喜の涙を流した。
そんな激しい戦いを繰り広げてきた両県の対戦。今回はどちらに軍配が上がるか。
思い出名勝負
2010年夏1回戦
智辯和歌山
1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 計 |
0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 1 | 0 | 0 | 0 | 1 |
0 | 0 | 0 | 0 | 2 | 0 | 0 | 0 | × | 2 |
成田
智辯和歌山 上野山→青木
成田 中川
興南がエース島袋(ソフトバンク)を中心に圧倒的な強さで春夏連覇を達成した2010年夏の甲子園。その大会初日の第2試合で、好投手vs強力打線の好カードが組まれた。
智辯和歌山は2005年から6年連続での甲子園出場。前年夏はエース岡田(中日)の存在感が光っていたが、この年は3番西川遥輝(ヤクルト)を中心とした打線のチームであった。特に1番城山から岩佐戸、西川、山本定と続く上位打線は、全員が昨夏からスタメンに名を連ねており、全国でも屈指の破壊力を誇っていた。選抜では山本定が興南・島袋に5打席連続三振を喫し、悔しい逆転負けを喫しただけに、夏の本戦ではリベンジに燃えていた。
一方、投手陣は絶対的な柱がおらずやや不安な陣容。秋までは左腕・吉元がエースで、選抜では本格派右腕・藤井が速球とフォークを武器に高嶋監督の甲子園通算最多勝利に貢献。しかし、どの投手も好不調の波は激しく、安定して多くの試合を任せられる存在はなかなか出てこなかった。そんな中、夏は右アンダーハンドの上野山と左腕・青木の2年生コンビが台頭。智辯和歌山らしい継投策で相手の目線をかわしつつ、打線の爆発を待つ戦いで上位進出を狙っていた。
対する成田は、夏は久々の甲子園出場だったが、2006年から2007年にかけてはエース唐川(ロッテ)を中心に2年連続で選抜に出場。当時から指揮していた尾島監督のもと、守りの良さに定評のあチーム作りがしっかりなされていた。特にエース中川は右スリークオーターから繰り出すアウトコースの制球力が抜群。本人はボールの「キレ」を非常に重視しており、スピード以上に手元で伸びる球質が光った。
千葉大会では好捕手・山下斐(ソフトバンク)のいる習志野やエース長友を中心に春夏連続出場えお狙う東海大望洋といった好チームとの接戦を1点差で制し、千葉大会を優勝。打線は大量点を取る打線ではないが、チャンスでの集中力が高く、上位から下位まで勝負強い打者がそろっていた。夏の出場は1990年以来だったが、地力の高さは非常に評価されるチームだった。
焦点は何といっても、中川vs智辯和歌山打線である。中川の投球は主にアウトコース中心の配球であり、経験豊富な智辯和歌山打線にとっては、これまで幾度も攻略してきたタイプの「右スリークオーター」の投手のはずであった。しかし、試合がはじまるとその予想は当てはまらないことが如実に表れ始める。
1回表、先頭の1番城山がアウトコースのスライダーを空振り三振。ただの1つの三振にも見えるが、成田バッテリーにとっては、智辯和歌山の「ドアスイング」に対して、このボールがしっかり使えることを確かめられる三振であった。成田バッテリーは智辯和歌山打線を徹底的に研究。和歌山大会で、9回2アウトまで追い込まれた「笠田高校戦」も当然チェックしていただろう。智辯和歌山の打者の攻略法を熟知し、打者一巡を完ぺきに抑え込む。
一方、智辯和歌山の先発は右アンダーハンドの上野山。独特の浮き上がる球質のボールを武器に、成田打線を淡々と打ち取っていく。同じく2年生の道端との相性も良く、内野ゴロで守備のリズムをしっかり作っていく。この辺りは守りを重視する高嶋監督の狙い通りの「試合の入り」だっただろう。
ただ、いかんせん、この日は序盤、まったく中川攻略の兆しが見えてこない。配球もそうだが、アウトコースのボール半個分の絶妙なコースの出し入れ、そしれ中川自身が絶対的な自信を持つボールの「キレ」で智辯和歌山打線を翻弄する。そして、中でも別格の存在だった西川遥輝に対しても細心の投球を続け、四球を与えてもいいからという攻めで、甘いコースには1球も投げてこない。智辯にとっては核となる打者を封じられ、なお苦しい状況に追い込まれていく。
すると、5回裏、踏ん張っていた2年生バッテリーがついに捕まる。この回、先頭の8番安随に死球を与えてしまうと、犠打で1アウト2塁に。ここで1番主将の大木が高めに浮いた速球を逃さず、ライト西川の頭上を越すタイムリー2塁打で1点を返す。この1点で踏ん張りたい智辯バッテリーだったが、続く2番岡への初球は不用意にインコース高めに入り、これがテキサス性のタイムリーとなってもう1点。試合後に高嶋監督が最も悔いた1球で2点目が成田に入った。
好投手相手に与えたくない先取点をやってしまった智辯和歌山。しかし、試合の流れが変わりやすい6回表にすぐに反撃にでる。1番城山がショートゴロエラーで出塁すると、犠打で二進。3番西川はいい当たりのレフトフライに倒れるも、4番山本定がアウトコースのスライダーをうまくミートしてセンターへのタイムリー。選抜で5三振を屈辱を味わった4番が、指揮官に恩返しの一打をプレゼントする。
これで勢いを得た智辯は7回表、先頭の中村がセンターへのヒットで出塁すると、犠打で二進。続く9番青木の当たりはサード前へのぼてぼての内野安打となり、ラッキーな形でチャンスを拡大する。球場にはジョックロックが鳴り響き、智辯和歌山反撃のムードが醸成されていく。
しかし、ここで成田バッテリーの研究と自信が智辯和歌山打線を抑え込む。1番城山に対しては徹底的なアウトコース攻めで、またも外角のスライダーを振らせて空振り三振。見逃せば完全なボールだったが、城山のはやる気持ちと打者の特徴を見極めたバッテリーの勝ちだ。ただ、まだ2アウトで打席には勝負強い2番岩佐戸。これまで智辯の大事な得点によく絡んできた勝負強い打者だ。
ここで中川が目いっぱい腕を振って投じたストレートは、シュート回転して真ん中寄りへ入っていく。これは危険なボールかと思われたが、コースはインハイまでめり込んでいき、岩佐戸は空振り三振。一般的にシュート回転するボールは打たれることが多いが、中川の生み出す「キレの良さ」がシュート回転すらも、甘いボールにさせず、むしろインハイの打ちづらいボールへと変えてしまった。
この最大のピンチを切り抜けた成田バッテリーは、8回、9回は一人のランナーも出さずに1失点で完投勝ち。1回戦屈指の好カードを狙い通りの展開でものにし、大きな大きな1勝を手にした。
これで勢いに乗った成田は、その後、八戸工大一・北大津・関東一と強力打線のチームばかりを相手に勝ち抜いて4強入りを達成した。打線は試合を重ねるごとに調子を上げ、2回戦から敗れた準決勝までの4試合でなんと29得点を奪取。県大会からバッテリーに支えられてきた野手陣が、別人のようにうちだし、エースを強力に援護した。しかし、そのスタートとなった1回戦はやはり成田らしい守りの勝利であり、一番持ち味の出た好ゲームだったと言えるだろう、
一方、敗れた智辯和歌山としては、予想外に早く甲子園を去る結果となった。智辯はもともと2年計画でチームを作ることが多く、下級生から出場していた代が最終学年を迎えたときはほぼほぼ結果を残していたが、おそらくこの年の初戦敗退は、はじめてそのケースに当てはまらなかった年だったかもしれない。しかし、翌年はバッテリーを中心にセンターラインに経験者が多く残り、春夏とも甲子園で2勝をマーク。悔しい結果をばねにしてきっちり結果を残して見せた。
コメント